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「いやいやいやないないないないって。何? アルス? ちげぇだろ。俺が知ってるアルスっつったら、もっとこう真面目が空回りして結局バカやってるような奴で挙句の果てにクルルと一緒になって暴れて俺に制裁くらうような奴なんだって。しかも子供体型で低身長で、間違ってもここまでスラーッとした奴じゃねぇっておかしいだろこれ。策略か。なんかの策略か。だとしたらすげぇな半端ねぇなこれ俺のSAN値がマッハでやばい、戦闘機並にやばい。誰かがダイス振って1D100物のSAN値減少かましやがったんだこれは絶対に。因みにわからない奴向けに言うとSAN値ってのは正気度のことを表し、このSAN値がゼロになることはすなわち精神が完全に病んで自我が無くなるってことだから実質死亡したのと同義となるわけだ。このルールは『クトゥルフ神話TRPG』っていうTRPGで使われるから、興味ある奴は調べてルールブック買って仲間集めてやってみようぜ。おもしろいから。ちゅーわけでTRPGよろしく!」
『貴様は何を言ってるんだ』
早口に捲し立てる龍二に、エルは小声でツッコんだ。因みに作者はDX(ダブルク〇ス)というTRPGをやってます。興味ある方は調べてみてください。
閑話休題。
そんな龍二を、胡散臭い物を見るような目で睨みつけるアルス……のような人物。
「……あなたはさっきから何を言ってるんですか? 頭おかしいんですか?」
「お前に言われたらムカつくな。まぁハッキリ言うと別に頭おかしくなってねぇよ。寧ろ現実を受け止めようとしてんだけど脳が受け止めてくれねぇのに困ってる」
「本格的に何を言っているのかわからない……」
龍二に対する不信感がアルスの中で高まっていってるのを感じた。仕方ないと思う。
「……それと、あまりボクの口から言いたくはないんですが」
「んあ?」
面倒くさそうな口調でアルスは言う。
「仮にも恩人である人に対して何も言わない、というのはどうなんですか?」
「あ」
ポン、と思い出したように掌を叩く龍二。
「わりぃわりぃ、ショックすぎて忘れてた。俺ぁ荒木龍二。危ねぇところをマジサンキュー」
お礼になってるかわからない失礼極まりないお礼である。
「……常識無いんですね、あなた」
「気ニシナーイ」
はっはっはと笑う龍二。対してアルスは眉間に皺を寄せて、不快感を露わにした。
「笑う意味がわかりませんよ……まぁ、いいです。お礼言われたくてやったわけじゃありませんし、そもそもあなたの名前に興味はありませんから」
「言えっつったのにこの扱い。お前やっぱアルスじゃねぇだろ」
「どういう理屈で否定しているのかは知りませんが、ボクは正真正銘アルス・フィートです」
「うわぁやべぇここまで冷たいアルス見たことねぇや」
「…………」
本当に訳がわからないといった様子で、アルスは龍二を睨みつけた。
「……さっきからボクのことを知ってるような口ぶりですけど……どこかでお会いしましたか? ボクはあなたことなんて記憶にないんですけど」
「……んー」
ここで龍二は悩む。家にいる奴と似ているというか、同姓同名の奴いる、と言ったところで信じてもらえるわけがない。
ゆえに、適当に誤魔化すことにした。
「いや、知り合いにお前と同じ名前のアルスってのがいるんだけどな。そいつと同じ名前のお前さんと重ねちまうわけよ。わりぃね」
「…………」
(別に嘘ついてませーん)
龍二の言い分を聞いて、訝しげにじっと龍二の眼を見るアルス。嘘か真か吟味しているらしい。
「…………」
「…………」
「……わかりました。そういうことなら仕方ないですね」
まだどこか納得いかないにしても、これ以上考えるだけ無駄と判断したのか。アルスは小さくため息をついてから、龍二に背を向けた。
「じゃあ、ボクは行きますから」
「おお」
そして草を踏みしめながら歩き出すアルス。その後ろをついて歩く龍二。
「…………」
「…………」
アルスの半歩後ろを歩く龍二。
「…………あの」
「ん?」
立ち止まり、後ろにいる龍二へ振り返るアルス。龍二はすっ呆けた顔をしていた。
「何で付いてきてるんですか」
「だって出口知らんし」
「…………」
呆気らかんと答える龍二に、アルスは舌打ちしたい衝動を抑えた。
「……できれば付いてこないでいただきたいんですけど」
「だが断る」
「何でですか」
「だから出口知らんし」
「……チッ」
衝動を抑えきれなかった。
「……じゃあ、出口までついてきてください」
「お、サンキューサンキュー」
舌打ちに気付いてないのか、不機嫌丸出しのアルスに能天気について歩く龍二。なお、アルスは内心(助けなければよかった……)と後悔していた。
「言っておきますけど、出口まで! ですよ。それ以降は知りませんから」
「はいはーい、了解了解」
「……ふん」
棘を含みつつ言うものの、龍二は平然と返事をする。アルスはこれ以上の会話は無駄だと言わんばかりに、速度を上げて歩みを進めた。
『……随分と嫌われているな貴様』
「だなぁ。ショックだわーすげぇショックだわー」
『嘘つくなバカ者』
全然そう思ってないような棒読みチックな龍二に、エルはアルスに聞こえない程度の音量でツッコんだのだった。
* * *
鬱蒼と生い茂った森の中を、誰も何も喋らずに進んで幾分かした頃。草を踏みしめる音と鳥の囀りだけが聞こえる中、平坦な道を、時には木々の合間を縫うように、前方のアルスは周囲の気配を警戒しながら歩き、龍二は頭の後ろに手を組んでのんびりと歩いていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「……なぁ」
無言が続くこの時間を終わらせたのは龍二。前を歩くアルスに声をかける。
「…………」
だが、当のアルスは龍二の声が聞こえないかの如く無視した。
「…………」
「……おーい」
「……何ですか」
二度目に声をかけられ、煩わしそうな顔をしながらも、少し振り向いて応えた。
「アンタはなんでこの森にいたんだ?」
「……あなたには関係ないでしょう」
「いや関係ねぇけど暇じゃん。ずっと無言だとおもしろくねぇし」
「どうでもいい」
「あれま」
取りつくしまもないとはこのことである。
「…………」
「…………」
「……仕方ない」
「……?」
また沈黙が続くかと思いきや、龍二がポツリと呟いた。
「歌おう」
「は?」
「ララーラ♪ ララララ♪ ララララ♪ ララララ♪
「…………」
「ララララーラーラーラーラー♪ ララララーラーラーラーラー♪ マンボ!」
「…………」
「…………」
「…………」
「……正直すまんかった」
何歌ってるのかすらわからない。
「じゃあ次。歌います」
「歌わなくていい」
「おっかーを……♪」
「歌わなくていいって言ってるでしょう!? 大体何なんですかその変な歌は!! さっきのも!!」
「お、やっとツッコんだツッコんだ。安心した」
「……っ!!」
嵌められたと気付き、龍二を睨みながら歯をギリギリと食いしばるアルス。ちょっと殺気が漏れ出ていた。
「……わかりましたよ、会話をすればいいんでしょう!?」
「おおぅ、半ギレ。どうどう落ち着け」
「誰のせいだと思って!! ……はぁ」
短い間にストレスと疲労が溜まっていくのを感じるアルスは、半ば諦めてため息を吐いた。
「……別に、ここにいるのは大した理由じゃありませんよ。ただ目的地へ向かうのにこの森を通った方が近いと思っただけです」
「目的地?」
「この先の村ですよ。そこで一度休息を取るんです」
「ふーん、何でまた休息とってまで先進むよ?」
「は?」
「は?」
意味がわからないというようなアルスの驚きに、龍二も似たような感じで言い返した。
「……勇者が旅をする理由なんて、一つしかないでしょう。何言ってるんですか」
無視された。上にちょっとバカにされた。
「おっとぉ。すげぇバカにされた気分。殴っていい?」
「気分ではなく実際にバカにしました。それと殴れる物なら殴ってもよろしいですよ」
「……まぁ、いいか。恩人だし」
「フン」
龍二は思った。
(こいつ何時ボコろう)
殺る気満々である。
「……それで? あなたはどこへ向かう予定なのですか?」
「ん?」
「森を抜けたら、どこへ行こうとしてるんですか? もしかして、ボクが向かう村の人間ですかあなたは」
「…………」
そういえば、全然考えたことなかった。
「……いや、違ぇよ? まぁ一応、適当なところ歩き回ってみんべ」
「…………」
アルスの龍二に対する目つきが、どんどん悪くなっていってる気がした。
「……そんなのでよくこの森に入れましたね……その腰の双剣は飾りですか?」
「じゃあ飾りってことでいいや」
「……もういいです。会話は終わりにしましょう……疲れました」
今度こそ話は終わりとばかりに、アルスは前を向いてから龍二へ振り返ることはなかった。
「……なんだかなぁ」
姿はちょっと違っているとしても、アルスの声でここまで拒絶されるとなると、さすがの龍二もちょっとだけナイーブな気持ちになった。最も、これ以上話しかけて不機嫌にさせる理由もないため、これ以上会話をするのを諦めた。
そうしてしばらく歩き続けていると、周囲が先ほどより暗くなっていっているのがわかる。見上げれば、枝葉の隙間から見える空は茜色に染まりつつあるのが見て取れた。
「暗くなってきたな……」
龍二が呟くと、歩き続けていたアルスは立ち止まった。そして周囲を見回し、少し考え込む。
「……さすがに暗闇を歩くのは得策じゃないか……」
呟き、再び歩き始める。やがて、少し森が開けた場所へ出た。
部屋で表すならば、四畳半ほどの広さのある場所だった。小さいが、二人程度ならば余裕で入る程。
「……気乗りしないけど、今日はここで野宿しましょうか」
「お、休むのか」
「ええ……荷物が増えたので仕方なく」
「あれ、オメェなんか拾ったのか?」
「…………」
完全無視したアルスは、広場の中央へ進み、剣を引き抜いてそこの草を刈り取る。やがて土が出てきて、アルスは腰に下げた袋を足元へ置いた。
「ボクは薪を集めてきます。あなたはここにいてください」
「んー? 手伝おうか?」
「結構。あなたの手を煩わせる程ではないので」
素っ気なく言い、アルスは暗い木々の中へと進み、消えて行った。
「……気遣うような感じで言ってたけど、どう考えてもあれだな。テメェは動かねえで留守番してろやボケェみたいな感じだな」
『貴様風に言うとそうなるだろうが、まぁ間違ってないのがな』
アルスがいなくなり、龍二が適当に腰を下ろすと、今まで沈黙を保ってきたエルが話し出す。
「……ところでよ、オメェどうして黙ってんだ?」
『随分前に、アルスの世界では私のような存在は伝説の中でしか出てきていないらしいからな。いらぬ混乱は招きたくはないと思って黙っていた』
「さよか」
足を投げ出し、プラプラとつま先を揺らす龍二。しばらくそうしていたが、小さく呟く。
「……これ、やっぱ夢じゃねぇんだな」
『そうだな……ようやく受け入れたか』
「いや、正直最初っからそんな気してた。風とか感じたし、物に触れた時の触感がリアルすぎて夢とは思えん」
『……ああ』
眠っていたのに、気付けば大自然の真っただ中。目の前に迫ってきた、殺意を漲らせた巨大熊。
そして……目の前に現れた、アルスと名乗る人物。
「……ここ、どこなんだろうな」
『……はっきりわかることがあるな。それは貴様も気付いているだろう』
「まぁな」
言って、気だるげに空を見上げる。ここだけ木が密集していないおかげで、遮る物が存在していない。そんなところから見上げる、満点の星空。都会の明かりによって見ることがなかなかできない、美しい光景だった。
普段ならばため息をついて、その美しさに見惚れるところだったが、龍二はそうはいかなかった。
「異世界……まさか俺が、あいつらの世界に迷い込む羽目になるとはなぁ」
顔見知りの人間がいるどころか、自身の存在すら無い筈の世界。アルス達が龍二の世界へ迷い込んだ時とは逆の立場となってしまった龍二に、この光景は未知の世界へ来たことを暗示しているかのようにしか見えなかった。
『……だが、異世界とは言えども疑問が残るな』
「アルスだろ?」
『ああ』
そう、アルスの存在。身長と気迫は違えど、同姓同名、そして似通った部分が多い外見。話していて、とても他人なような気がしなかった。
『どういうことだろうな……あれがアルスと同一人物なのか?』
「にしちゃあ、性格刺々しすぎるだろあれ。うちのアルスの方が何倍も可愛く見えるぞあれ」
『それ本人に言ってやればいいのにな』
「どっちのだ」
『あっちのだ』
あっち=普段龍二達が見ているアルス。
「……まぁ、わからないことだらけっちゃだらけだけどな。今の俺らが考えたところでしょうがない。あのアルスが俺らの知ってるアルスと同じ人間なのかすら、よくわからねぇしな」
『……まぁ、そうだが……そもそも、何故私達はここへ迷い込んだのだ?』
「それもわかんねぇよ。昼間着てた服着てたり、お前と龍刃持ってるってところもさっぱりだしな」
何気なしに、ポケットからスマートフォンを取り出し、電源を入れてみる。案の定、圏外である。だが、アプリ等の機能は一部を除いて使用することは可能なようだった。
「……充電器、つねに持っててよかったぜ」
『備えいいな。さすがというべきか』
「備えあれば憂いなし。そういうこった」
ズボンの後ろポケットから、スマートフォン用の充電器を取り出し、エルに見せるように振るう。
『……ん? だが貴様、それコンセントがないと意味ないだろう? どうするつもりだ?』
「何のためにオメェがいると思ってるよ」
『私はコンセントじゃない!!』
「じゃあ包丁?」
『包丁でもなああああああああああああい!!』
コンセント兼包丁。一家に一本欲しくなるエルフィアンであった。
「ま、なるようになるっての。そのうち帰れっだろ」
『……全く、貴様のその余裕さが妬ましく思えるよ』
「褒めるな。ていうか異世界にラーメンないっぽいしさっさと帰りたいのが本音」
『どこ行ってもラーメンだな貴様』
そんな会話をしている、一人と一本。ふと、龍二は森の中から気配を感じた。
「ん……戻ってきたっぽいな」
『では、私は黙っていよう』
「わりぃな。エル、マナーモードだ」
『人を携帯みたいに言うな』
「人じゃねぇだろ」
草をかき分ける音と共に、アルスが現れる。その腕には、数本の薪木が抱えられていた。
「……今、誰かと話していましたか?」
「いんや? 気のせいじゃね? それよりお疲れさん」
「……フン」
恍けて見せてから労うも、それを返すこともなく、アルスは薪をくべていく。その上に紙らしき物を置いてから、薪から少し離れた。
「『炎よ』」
―――ボゥッ
一言。それだけ言うと、何の仕掛けもなしに紙に火が点く。小さい火は紙全体に燃え広がり、やがて薪へと燃え移ると、周辺を明るく照らす程の大きさへとなった。
「おお、魔法か。改めて見るとやっぱ便利だな」
「……初歩魔法ですけどね」
点火した薪を見て感心する龍二に、アルスは何のことはないと言うように返す。そして腰のベルトから剣を鞘ごと外して、余った薪をすぐ横へ置いてから、膝を組んで座り込んだ。
「ほら」
「おぅ?」
おもむろに懐を漁ったかと思うと、アルスは龍二に向けて何かを投げてきた。難なく受け取り、渡された物を見てみる。
見た目は、赤黒い鰹節のような形をした物体。少し弾力のある硬さをしたそれを、少し鼻を近づけて匂いを嗅いでみる。
「……こりゃ肉か?」
「食糧。余っているからあげますよ」
そう言って、アルスは干し肉を繊維に沿って裂き、細長くしてから口に運び、噛みしめた。
それを見て、龍二も同じように裂き、おもむろに口に入れる。塩辛いが、噛むたびに肉のうまみが口に広がる。シンプルだが、いい味をしていた。
「なかなかいけるな」
「…………」
龍二の賞賛も、アルスは無視する。今更な感じでもあったので、龍二は気にせずに肉を口に入れては噛んでいった。
そうして黙々と、互いに何も喋らずに食事を続ける。やがて肉は手元から消え、同時に噛むことにより満腹中枢を刺激されたおかげで、空腹感も消えていた。
一息つき、再びたき火の炎を眺める二人。また沈黙が続くかと思いきや、話を切り出したのはアルスだった。
「ここまで来れば、森の出口はもうすぐです。朝のうちには森を出られるでしょう」
「ふーん」
「……その先は、あなたの自由にしてください。ボクはそのまま北の村へ行きます」
「ん? 他に道あんの?」
「森を出て西へ歩けば、別の村へ行けます。あなたがどちらの村へ行くのかは知りませんけど、もし北へ行くのでしたら、あなたはボクより先へ行ってください。ボクは後から一人で行きますから」
「んなの悪いだろ。いや、別に東でも西でもどっちでもいいがよ」
龍二が言うと、アルスは鼻を鳴らしてそっぽ向いた。
「なら、西へ行ってください。西なら北よりも幾分か豊かだと聞いてますから、そっちの方がいいでしょう。何にせよ、昼間言った通り、ボクとあなたは森を出るまでです」
「さよか」
「はい」
明らかな拒絶。最初は龍二も少し堪えたが、今はもう大分慣れていき、こういう性格なんだなと割り切ることにした。
が、一つだけ疑問に思っていた。
「……なぁ」
「……何ですか」
「オメェさん、どうしてそこまで拒絶オーラMAXなんだ? 俺別に何にもしてねぇけど」
何にもしてないけど口調は失礼だと思う。
「……別に。ボクは誰に対してもこうですよ」
「そうなのか?」
「はい……というより、そんなのどうだっていいでしょう? あなたには関係ない」
「関係はないがな確かに。ちょいと気になっただけだ」
「気にしないでください。いい迷惑です」
視線を合わせることもなく、アルスは薪の中にある小枝を火に放り込んだ。パチリと爆ぜ、火の勢いは少し強まった。
「……まぁ、迷惑たぁ思うがよ。にしてもあれだなぁ」
「……今度は何ですか」
本当に煩わしそうにアルスは言う。それに気にも留めず、龍二は続けた。
「そんだけつっけんどんな性格だと、オメェ余計女性に見られねぇんじゃねぇか?」
何のことはない、龍二はアルスに普段話しかけているように言っただけだった。
「っ―――!」
「ん?」
が、アルスは目を見開き、龍二を見る。驚愕した様子のアルスを見て、龍二は疑問符を浮かべた。
「……何故」
「は?」
「何故……ボクが女性だと?」
予想外な反応に、龍二は首を傾げる。対し、アルスは龍二にいまだ驚きと疑念を混ぜたような視線を向けていた。
「何? オメェ男なの?」
「い、いや……ボクは、確かに女……だけど……」
「じゃあ何だ? 女って見られちゃ困ることでもあんのか?」
どこか狼狽えてる様子のアルスに、龍二は顔には出さないにしても、内心はちょっと……いや、結構楽しんでいた。ドS魂にちょっと火が点いた感じだった。
「―――――っ!」
そんな龍二を、アルスはキッと睨みつけた。
「別に、女だからってどうだっていいだろう! 何か文句でもあるのか!?」
「いや別にねぇけど。てか敬語消えたな」
「う、うるさい!! もう寝る!! 後は勝手にしろ!!」
口調が荒っぽいまま、アルスは立ち上がって火から少し離れた位置まで行くと、そこで龍二に背を向ける形で横になった。
「……なぁに怒ってんだ?」
アルスがキレた理由がイマイチよくわからず、龍二は腕を組んで首を90°傾けた。横になったアルスは、そのままの態勢で龍二に声をかける。
「……言っておくけど、襲ってきたら殺すから」
「襲う理由ねぇんだが」
襲うの意味を履き違えている龍二を放って、アルスは何も言い返さずにそのまま瞼を閉じた。
「……やれやれ。よくわからん奴だなぁ」
肩を竦め、なんだかんだでアルスが怒った理由を考えつつ、龍二はアルスの座っていた場所に置いてあった薪を自身の手元に置き、たき火の番に励むことにした。
すでに周辺は真っ暗な闇。梟の声と、火が爆ぜる音だけが聞こえる空間に、龍二はただ黙々と火の番をするのであった。
ツンツンアルス。現在デレ度0%。こう書くとどこのギャルゲだとツッコミ入れたくなります。




