タフにこのエルダーテイルを生き抜くために必要なもの 後編
遅くなりましたがようやく形になりましたので投稿します。
…いい加減もう少し早く書けるようになりたいです…。
…私は私たちはこの世界を生きていかなければいけない。
それは理解した。ならどうするべき?
生活の基本を整えることが先決…食べるもの、飲むもの、日用品。
どれぐらいが現実と一緒でどれぐらいが違うのかさっぱりわからない。
視察は必要だから…少し怖いけど…ここから一度出かけよう。
再度ステータスウィンドーを開き、お財布の中身の確認。
大丈夫…普通に生活するだけなら当面は困らないだろう。
買うものは何が必要だろうか…と考えながら部屋の扉を開けようと思った矢先に全身を移す姿見が私を捉えた。
白い髪、同色の耳と尻尾。更に白いアオザイときたので真っ白白である。
…白色は好きだが流石にこれはどうだろう…少し色味が欲しい。
くるっと踵を返すと寝室に戻るとタンス型倉庫を開くとあるものを探す。
「たしか…あ、あったー」
選択したものは『菫羽根の簪』
2年前のヴァレンタインイベントの限定レアアイテムの一つである。
リアルでお世話になってる美容師さんに我侭をいい、マイハマの都まで赴いてその美容師さんの同じギルドの方にまで手伝ってもらって手に入れた代物である。
綺麗な菫色の羽根で作られた簪はとても綺麗でふわりとやわらかく、本物の羽根のようだった。
「あの時の皆さんは今はどうしてるんだろう…」
大手ギルドの一員だった彼とそのお仲間さんたち。皆さんとても親切だった。
この世界に巻き込まれてしまったのか、それとも…現実世界に残っているのだろうか?
私のフレンドリストには彼の名前は点滅していたが、あの時手伝ってくださった皆さんを登録するのを失念していたのだ。
あの日は久しぶりの人との狩りでテンションがあがって、しこたま飲んでしまった。
酔っていたとはいえ、登録させてもらわなかった事をいまさらながら少し後悔する。
「もし、この世界に居るなら、会えるといいな…」
ぽそりと漏れる本音。
あの時のように楽しく笑いながら会えたらいいと心に願うと『菫羽根の簪』を左耳少し横辺りに挿す。
再度玄関口まで戻り、姿見を見ると紫が映えてとても綺麗だった。
改めて扉のノブに手をかけ、扉を開ける。
太陽がまぶしくて手を少しかざす。
ゾーン設定で自分以外は入れないようにしてあるので鍵の心配がないところは少し便利だなと思うと街中へと足を進めた。
露天には色々な食べ物が並んでいた。
サンドイッチ、ポトフ。ゲーム時代の回復アイテムたちはそのままの価格で購入できた。
私は追加でゲーム時代から気になっていたココニアの実を晩のデザートに、他にも晩酌用の果実酒に朝ごはん用の果物やサラダ用の野菜、ハムやパンをいくつか買う。
会計を済ませて、事務的に「ありがとうございました」という店員のNPCに「ありがとう」とお礼を言うと相手が目を見開いて驚いた。
…あれ?何か変な事を私は言っただろうか?
昔からコンビニやお店など何かを購入したりしてレジで支払いを済ますとお礼を言う癖がついている私は少し首をかしげる。
少しの間こちらをまじまじっと見つめていたが、視線をはずすと仕事に戻ったようである。
それから雑貨屋や防具や武器、ありとあらゆるお店を回ってみたが残念ながらシャンプーの類はなさそうだった。
「…髪の毛、痛まないといいけどなぁ…」
真白の髪の毛を一房掴む。
狼牙族ゆえにその数は多く、少し硬いが掴むとしなやかで光に反射してきらりとひかり、とても綺麗だった。
枝毛もなさそうである。意外とシャンプーやコンディショナー、そして美容院要らずなんだろうか?
この辺はしばらくしたらわかるかもしれない。
ある程度満足する買い物を済ませ、家路…といっていいのだろうかわからないけど一応今の住まいへとを急ぐ。
何しろ二日も全うにご飯を食べてない。
お腹はペコペコ…腕に抱えてるポトフがとても美味しそうでいっそここで飲んでしまおうか、とすら考えてしまうぐらいだ。
流石にお行儀悪いので我慢我慢...
後、もう少しで居住ゾーンなんだから。
そう思うと、急ぎ足で我が家になるであろう場所へと急いだ。
「……………なにこれ」
スキップしそうな勢いで帰ってきて、手洗いうがいを済ませ(…そういえばうがい薬もなかった…欲しかったんだけどなぁ)いそいそとテーブルにポトフとサンドイッチを並べ、うきうきしながら手を合わせて『いただきます』と思わず口にしてからサンドイッチに口をつけたあと出た言葉がこれである。
…見た目はサンドイッチなのに味はしない...もそもそとした食感で…まるでしけったせんべい。しかも味なし。
ここに来てこれは酷いんじゃないだろうか。
空腹が一番の調味料なんて嘘だ…美味しくないものは美味しくないのだ。
楽しみにしてたのに…全部がこんな感じなのだろうか?
悲しくなって楽しみにしていたココニアの実に手をつけるとそのまま齧る。
「ぇ…あれぇぇ??」
瑞々しい甘さそのままを感じて、私は頭の中にはてなマークが浮かぶのを感じた。
味のしないサンドイッチと甘い甘いココニアの実。
この違いは何だろう…
買ってきた食糧を手当たり次第一口ずつ齧ってみた。
結果…普通に味のするもの、ココニアの実、ハム、チーズ、野菜類。
しけたせんべいの味のもの、サンドイッチ、パン、ポトフ。
そして、ただの水の癖に飲むとアルコールを感じるお酒…
どうやら食材アイテムは味がして、加工されたものは味がしないという判断だろうか?
ハムやチーズが味がするのは意外だけど、ゲーム時代食材アイテム扱いだった名残だろうか…正直ありがたいなぁ。野菜と果物だけのご飯はちょっと寂しいもん。
願わくば温かいと嬉しいんだけどなぁ…
そう思いながら目に入ったのはかまど。
これで温めることは出来ないだろうか…?
手にハムを持ちかまどの前に立つ。
ステータス画面に手をかざすとアイテム欄から、薪とマッチを選択する。
すると、どこからだろうか目の前にそれらは現れた。
薪をかまどにくべ、マッチを擦る。
恐る恐るかまどに火のついたマッチを投下すると、意外と簡単に薪に火が移った。
ハムの一つを側にあったフライパンに乗せてかまどにかざす…と美味しそうなにおいが…すると思ったのに…
出来上がったのは思わずモザイクでもかけたくなるようなぐろい塊だった。
どうやら手を加えた時点で食べれるものではなくなってしまうようだ。
見たくもないものに口をつける勇気はなく、そのままダストボックスへと放棄する。
その後、私は野菜とハムとチーズとココニアの実を少しずつ明日に残し、味のしないお酒でしけたせんべい味のポトフとサンドイッチを流し込むという食事とは言いたくない食事を黙々と済ませた。
食べるものの味がしないって、こんなに悲しいことだとかみ締めながら…
<アイテム紹介>
菫羽根の簪:2年前のヴァレンタインデー限定レアアイテムの一つ。
2月14日前後3日間、男女プレイヤーキャラクターがペアを組んで挑むクエストにて配布された物の一つ。
効果は全スキル使用時のリキャストタイム5%軽減とMP+10。
イベント自体はマイハマの都周辺ゾーンに現れる番のネズミ型モンスターや番の家鴨型モンスターを男女プレイヤーキャラクターがペアを組んで一定数討伐すると期間限定のレアアイテムがゲット出来るというもの。
ただしドロップされるアイテムはランダムで必ずしもお目当てのレアアイテムが手に入るとは限らない。
-----------------------------------
今回、佐竹三郎様作『残念職と呼ばないで。(仮)』(http://ncode.syosetu.com/n3624ca/)よりバレンタインデーイベントのアイデアなどをお借りしました。
使用許可をありがとうございました。