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タフにこのエルダーテイルを生き抜くために必要なもの 前編

知人に『<大災害後>で書くなら最低でも15禁扱いにしておいた方がいい』といわれた理由がよくわかりました。

まさか、こんなところで役に立つとは…


(6/24:タイトル改題。わかる人にはわかると思いますがタイトルに元ネタがあります。元ネタままだとまずいと思ったので替えさしていただきました)

布団の上でぼんやりと世界を眺める。

相変わらず空は澄み渡り、平和な朝を演出している。


…どんなに考えてもとても平和な状況下ではないのだけど…



私はこれからどうしたら良いのだろう?

どうしたら元の世界に戻れるのか?

…そもそも、私達は戻れるの…?

ずっとこのまま、ここで命を終えるのだろうか…?



「駄目だ!考えてもわからない!

こういう時はお風呂!お風呂に入ろう!」


思わずこう叫んだのは悩んだ時とか落ち込んだ時、お風呂に入るとなんとなく元気になれたり解決策が出てくる時があるからだ。

それに昨日からお風呂に入っていないという事に私自身が耐えられなかった。


「その前にここは私がゲーム時代に借りていた家でいいんだよね?」

確認の為再度手を伸ばしウィンドウを扉に向かって差し出す。

ゾーン紹介が現れ

『この建物の所有者は私であること』と『他の人が入れない設定になっていること』

を確認するとベッドから降りた。


まずベッド横に並ぶタンス型アイテム庫を開ける。

そこには私がギルド会館に預けるには面倒な、割と普段使うアイテムや場所を取らない装備とかが並んでいた。

シブヤはギルド会館が無いので結構な数の武器やアイテムをしまいこんでいたのだ。


「下着…どうしようか…?」

流石にお風呂に入った後に今の分は着けたくない。

でも、下着なんて装備あったかなー?

………あ、水着があった!

確か毎年夏になるとイベントで配布されていたもので色も白・ピンク・青・赤など色々ある。

すべてビキニタイプで下着替わりにするには良さそう。


「記憶が正しかったら…あ、やっぱりこれもこちらに置いてた!」

引っ張り出したのはバスタオル。

これは毎年11月26日日本サーバー限定で行われる『いい風呂の日・温泉地巡り』の記念アイテムだ。

エルダーテイルを始めた年の11月26日は偶然オフだったのとお風呂のイベントと聞いて各地の温泉地を巡っては色とりどりのバスタオルを集めた。

結局それは鎧扱いで装備すると体に巻つけた中々恥ずかしい格好になってしまい、その後手に取ることなく片付けられて居たのだ。

手に掴むとふんわりとした感じで心地よい。


「服も…着替えたい…」

この服は明らかに洗濯に向いてない。

これからセルデシアのシブヤ(ここ)で生きていかなくてはならないなら明らかに不向きに見える。

「洗濯も楽で出来たら動きやすそうな…あ、これが良いかも!」

メイドや着物、スーツやなんやとイベント系のコスプレっぽい装備が並ぶ中、これなら?と思った真っ白のアオザイを手にする。


これらを片手に扉を開けて隣の部屋(キッチン)を通過。

ゲーム通りの作りならその先はバスタブのあるお風呂やトイレなどの洗面所になっていたはずだ。


想像通りそこにバスタブは存在していた。

問題は…存在しているだけだった事。

ゲーム時代のままの形のそれは蛇口はあれど水道管はつながっておらず、更に湯を沸かすためのボイラーらしきものも存在していなかった。


…ここに来てこれは酷い…

お風呂に入る事だけが活路だった私はぐたっとそこにもたれかかった。


「おーふーろー…」

ぐじぐじとさぞ恨めしそうに聞こえたに違いない声で呟くと洗面台が目に入った。

「まさか、こっちも水が出ないとか言わない、よね?」

よろよろ立ち上がると水道をひねる。

心地よい温度の水が流れてきて思わず安堵の息をこぼした。

念の為、トイレもながしてみるとこちらも不便なく普通に使えそうだ。


「…なんでお風呂だけオブジェなのさ! お風呂も使えるようにしとこうよー…」

一人呟いた後、ふと気がついた。


…このバスタブ、水を張るくらい出来るよね?


慌てて確認してみたら、排水口は存在しているが蓋はついている。

水を張ってもここが水浸しになることはない。

側には木製のバケツが一つ。

今は5月の日中である。


「水浴び位は出来そう…よね? この時間なら風邪ひいたりしないよ、うん!」

言うが早いがバケツを掴むと意気揚々と洗面台の蛇口をひねる。

貯まった水をバスタブにあける。

その作業を幾度か繰り返しているうちにバスタブには程よく水が貯まった。


「そういや、これ普通に脱げるのかな?」

思わず一人言になる心の声。

一人だと一人言が増えるとは本当だなぁ…

そう思いつつ背中を触るとファスナーに当たった。

どうやらここから脱げるようだ。ふむ、普通のドレスとそんなにかわらないのね。

幸い私は昔体操をしていたので身体は柔らかい方でこういう時は助かる。

ウエストに巻いたコルセットベルトをはずすと背中に手を回し、すんなりファスナーを下ろすと緑のオーバードレスを脱ぐ。

ピンクのアンダードレスになってふと疑問が沸いた。

尻尾(これ)ってどうなってるの?」

ドレスの上にふさふさと垂れた狼の尾。まるでドレスの附属品にも見える。

「ま、脱げばわかるか」

そう一人ごちるとアンダードレスの肩紐から腕を抜いた。

そのままドレスはスルッと床に滑り落ち、私は下着姿になった。

後をふりかえると尾てい骨の辺りから白いふさふさが見える。

「痛っ!」

外れないか確認の為、思いっきり引っ張ったらあまりの痛さに思わず涙目になった。


……これ、本当にはえてるんだ……


今の私は人間じゃなくて狼牙族であるということを気づかされる。

…といってもこの耳と尻尾以外の違いがどこにあるのかわからないけど。

その辺りは生活していけば気づくかもしれない。

当面の問題としてはこの尻尾、お風呂入るのにちょっと邪魔だなーって位だろうか?


そしてそろっとブラジャーのホックに手を伸ばす。

はずすと形の良い胸がふるんと現れた。

「あ、左右対称…なんだ」

本来人のありとあらゆる体の部分は左右非対称で、女性の場合その違いが特に現れるのが胸だったりする。

心臓の有無の違いで若干、ひどい人だとワンサイズ程大きさが変わるそうだ。

恥ずかしながら暴露すれば、私もわずかながら左の方が大きかったりする。

しかし今眼前にあるそれは綺麗な左右対称を成していた。

「こういうところは元アバターなのかなぁ…?」

思わず独り言つ。

改めて見れば綺麗な曲線を描いた体は実に絵的で、自分のそれとは思えないほど綺麗でなんか気恥ずかしくなる。


頬が熱くなるのを感じ、あわてて視線をはずすと最後の一枚を脱ぎ捨て、そろりとバスタブに体をうずめた。

「冷たい…けど、気持ちいい…」

はふ、と息をこぼして肩まで体を沈める。


しかし、これから私はどうしたらいいんだろうか。

何人か知人や友達がいるにしても連絡の取り方もわからない。

その前にどこに居るかもわからない。

アキバ?ミナミ?ススキノ?ナカス??

…たぶんシブヤ(ここ)を拠点にしていた人は居なかったはずだ。

下手したら海外とかのサーバーかもしれない。

ここからアキバに向かうにしても人の足でどれぐらいかかるのだろう?

モンスターは…やはり出るよね?ゲームのままならば。


「しばらくはここで生活していくしかないよねぇ…」

バスタブに腕をかけ、そこに顎を乗せる。

わしわしと頭をかきながらそう考えてるとお腹の鳴る音がした。

そういえばかれこれ1日半ほど何も食べてない。

お風呂を出たら買い物に行こう。

食べ物やこれからの生活に必要なもので持ち合わせがないものもいくつかあるはずだ。


「なんか、東京に出てきた時みたいだなぁ」

あの頃も一人だったし頼る人もそんなにいなかった。

そう考えたらここでも一緒かもしれない。


ざぶっと体を持ち上げるとバスタオルを掴み、わしわしっと拭き取る。

おろしたての下着代わりの水着と白いアオザイに身を包むとステータスモニターで持ち合わせの金額を確認する。

「そういえばここって石鹸とかシャンプーやコンディショナーって…ないだろうなぁ」

そうぼやきながら私は自分の新しい家から出かけることにした。



この後、想像もしない悪夢が待ってるとも知らずに。

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