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悲しむ人、焦る人

《登場人物》

徳永 真実(35)  警視庁刑事部捜査第一課警部

高山 朋美(30)      同 巡査部長

瀬戸 宗助(53)  東城大学教授

榊  祥子(32)   同大学准教授

宮崎 俊一(故人)   同大学准教授

 6月7日午前12時 ――東城大学7号館瀬戸研究室―― 2時間前

 


 瀬戸は他大学で行われていた研究会を済ませて、急いで東城大学に戻った。東城大学に向かう間、内心はものすごく焦っていた。


 【いつか、自分が宮崎を殺害した事がばれてしまうかもしれない。その時は何としてでも避けなければならない。しかし、そろそろ感づかれている可能性があるな。待てよ……あのチェス盤もしかしたら……】


 そう考えているうちに目的地に到着する。

 3号館の駐車場に車を止めて、研究室に向かった。

 3号館と8号館は結構な距離があって、地下駐車場の様子を見ることはできなかった。

 瀬戸は、少し早歩きで自分の研究室に向う。

 7号館の入口で足を止めて8号館の方に目をやると、8号館地下駐車場の入口が見えた。

 黄色いテープで塞がれ、その後ろで警官2人が立っている。



 【宮崎の死体が発見されたのだろう。だから、私の携帯に榊君が何回も電話していたのが分かる。さて、ここからが大変になって行くだろう……】



 教授は再び足を動かし、研究室に向かった。

 研究室には、数名の宮崎ゼミ生が来て椅子に座っており、丁度、昼休みの時間という関係もあったのもある。それに榊がデスクに座っているが、ずっと顔を下にしてすすり泣いているのが分かった。

 よっぽど悲しい事だったのだろう。しかし、瀬戸にとって宮崎を殺さねばならないと考えていた。




  以前から……




 瀬戸は、革のカバンを自分の机に置いて、ゼミ生達に訊いた。

「話は聞いた。宮崎先生が亡くなったのは、本当なのか?」

 すると1人のゼミ生が落ち込みながら答えた。

「はい、本当です。朝ごろに先生自身の車の中で変わり果てた姿に……榊先生が発見したそうですよ」

 瀬戸は首を横に振って呟く。

「なんという事だ……」

 1人のゼミ生が瀬戸に問いかけた。

「先生! 僕達は?」 

 瀬戸は宮崎のゼミ生達に告げる。

「これ以上言っちゃ駄目だ。とにかく宮崎先生が受け持っていた君達には、私のゼミで勉強してもらうことにしよう。それでいいね? とにかくこの話題は、大学外で誰にも口外してはならんぞ!」

 部屋は瀬戸の声が響き、ゼミ生の数名は、「はい」と一言答えた者もいれば、首で反応する者がいた。

「それと葬式や通夜の事は、私が連絡するから」

 ゼミ生達はこの事を聞いてから、席を立って研究室を退室していく。

 瀬戸はゼミ生達が完全に見えなくなってから榊のほうに振り向いて質問した。

「君が宮崎先生を発見したのだろう?」

 榊はそれに対して静かな声で答える。

「はい」

 彼女の目が涙で赤くなっていて充血していた。

「落ち着きなさい」

「すっ、すいません。身近にいた人が亡くなるなんて思っていなかって……」

 瀬戸は、榊を落ち着かせる。

「君が落ち込んでどうする。今は宮崎君の冥福を祈るしかないだろう」

 榊は、自分の机の一番目の引き出しを開けて1つの写真立てを取り出した。

 写真立ては、漆塗りの少し高そうな作りだった。その中に2人が仲睦まじく立ってピースサインをしている。

「俊一さん。どうして……?」

 教授は榊の事について申し訳なく感じるのと、宮崎を殺した事についてこれが正しかったんだとの衝突が心の中で大きな波になって瀬戸の脳裏に押し寄せつけていた。




 【これでいいんだ。これで……許してくれ。洋子】



 

 瀬戸は榊に少しでもこの事件を忘れるように、ある提案をする。

「榊君。今日は帰って休んだ方がいい。今の君では、学生達を任せるというのは難しいだろう。講義の事は、私に任せてくれ」

 瀬戸の提案について少し沈黙になったが、彼女は教授の言葉に甘えることにして、先に帰ることにした。

「確かに、今の私では学生達にうまく教えれるかわからないですよね。教授すいません。お言葉に甘えて、お先に失礼します」

 必要な物を鞄に入れて写真立ても中に入れた。そしてその鞄を持って研究室を出ようとした時、ある事を瀬戸に告げる。

「……あっ、それと警察の方が瀬戸先生についてお聞きなさっていましたよ」

 瀬戸は、一瞬、動きが停まった。

「えっ? 私にかね?」

「ええ、午後になったら、もう一度訪ねると伝えといてくれとの事でしたが」

 自分のデスクにゆっくりと座り、心を落ち着かせてから榊に礼を言う。

「ああ、そうか。ああ、分かったよ。ありがとう」

「……それでは、お先に失礼します」

 榊は一礼し、研究室を出た。


 【完全に状況はまずいな。どうする、こういう時はよく考えろ】


 教授はチェス盤を見つめた。

「そうだこれしかない。ならば急がねば……」

 胸ポケットから携帯電話を取り出して番号を打って、ある場所に電話をかけた。

「ああ、私だ。ちょっと頼みたい事があってだな……」


第6話です。


話はまだ続きます。



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