真実への対峙
《登場人物》
徳永 真実(35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美(30) 同 巡査部長
瀬戸 宗助(53) 東城大学教授
榊 祥子(32) 同大学准教授
宮崎 俊一(故人) 同大学准教授
向島 重幸(42) 向島ボード 店主
加藤 啓太(35) 警視庁刑事部鑑識課係長
―― 同日 東城大学瀬戸研究室 午後6時 ――
瀬戸は、本日の講義を全てやりきり、研究室で一人、研究論文について書き上げていた。書き上げている途中、研究室入口のドアをノックする音が聞こえた。
ノックは3回。
瀬戸は、ノックの仕方で誰かを察知した。
【このノックは、榊君だな……】
「入りなさい」と瀬戸はドアに向けて言った。
榊は、瀬戸に言われたとおり研究室に入った。瀬戸は研究室に彼女が入ったのを確認し、パソコンの画面を見るのをやめた。
「おお、榊君! 大丈夫かね?」
「今の所はおかげさまで。それより、今日、教授にどうしても訊きたい事がありまして……」
「訊きたい事? なんだね?」と瀬戸は眼鏡を外して、椅子の背もたれに体重を軽く預けた。
榊は、少しためらいながらも訊きたい事を口にし始める。
「……教授。あの日、俊一さんと何があったんです!?」
瀬戸は榊が放った質問について、ただ黙って、外を見ている。
「何があったんですか!? あの後、この研究室で何が起きたんですか? 俊一さんは何で亡くなったんですか? 教授、教えてください! あなたは俊一さんについて何か知っているはずです!!」と質問した彼女の目には一粒の涙が右目から滴り落ちようとしている。
瀬戸は、榊を落ち着かせようとしながら、自分の疑いを逃れる為に言った。
「待ってくれ、榊くん。さっきの質問を聞いてみると、私が宮崎君をどっか消した様な言い方じゃないか。待ってくれ。私は何も知らない」
【くそ! 厄介になってきたな。どうにかしないと……】
瀬戸は、なんとか切り抜けようとなんとか乗り切ろうとする。
「確かにゼミの後、研究室で二人残ったよ。だが、彼はちょっと用事があるのでってすぐに地下駐車場に向かったんだ。その時は、まだ何も分からなかった。それから何分になっても彼が戻ってこないからてっきり帰ったと思ったんだ」
榊は、疑いの眼のままずっと瀬戸の話を聞いている。
「なんだね? その目は! 私を疑っているようだが、どこか君は勘違いをしている。私じゃない。本当だ。信じてくれ」
沈黙が流れる。瀬戸と榊。この二人の間で大きく黒い闇が流動しようとしていた。
その沈黙に光を入れたのが、榊。
「私は、瀬戸教授を信じてやってきました。信頼してました。でも今は、違います。あなたはなにか隠している! 話してください。全てを!」
瀬戸は黙ったまま窓から見える外の風景を見ていた。夕日がオレンジの光を色々な建物に向けて放つ。
すると研究室のドアを叩く音が聞こえ、榊と瀬戸はドアの方に目を向けた。
「誰だね!? こんな時に!」
ドア越しから二人がどこかで聞いた覚えのある声がする。
「忙しいところすいません。ちょっとお時間を頂きたいのですが……」
瀬戸は、ドア越しから聞こえる声に対して答えた。
「すまないが、あとにしてもらえないか?」
するとドア越しからそれに対しての声が返ってくる。
「すいません。そういうわけにはいかないので入ります」
ドアが開き、声の主の姿が分かる。瀬戸と榊の二人は声の主が誰なのか……姿を見た時、頭が空っぽになるくらいの衝撃だった。
その声の主は、徳永だった。その後ろには高山もいる。
「やはり君だったか。刑事さん」と瀬戸は軽く首を横に振りながら言った。
「徳永さん……」
榊は、徳永が研究室へゆっくり入って来ているのを見ている。
徳永は瀬戸と榊に向けて、軽いお辞儀をした。
「どうも。今回は、宮崎准教授の死について話をしに来ましたよ。榊さんも一緒に聞いていただけるとありがたい。ここでお話しましょう。この事件の全容を……よろしいですか? 瀬戸教授」
瀬戸は、徳永の言葉に対して笑いながら返した。
「はははははは。君は本当に面白い刑事だな。いいだろう。話すといい」
高山は笑っている瀬戸の顔を見た後で、徳永の顔を見ている。
いつもどおりの微笑み。
「高山君」
「な、なんですか? 警部?」
「加藤の奴から電話がかかってくるはずだから気にしといて……」
「あ、ハイ」
徳永の一言で、高山は一つ感づいた。
それは今から徳永自身が事件について目の前にいる瀬戸と対決する気である事。
「さぁ、話したまえ。刑事さん」
「では、ご説明しましょう。事件の全容を……」
第24話です
話は続きます。