幼馴染みが知らない携帯番号
《登場人物》
徳永 真実(35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美(30) 同 巡査部長
瀬戸 宗助(53) 東城大学教授
榊 祥子(32) 同大学准教授
宮崎 俊一(故人) 同大学准教授
向島 重幸(42) 向島ボード 店主
加藤 啓太(35) 警視庁刑事部鑑識課係長
―― 6月8日 警視庁 刑事部捜査一課 午後1時過ぎ――
高山は自分のデスクで、事件のことを整理する。
「え~っと、この事件、不可解だわ。どうして宮崎さんは黒のナイトを持っていたのだろう?」
パソコンのワードを駆使して事件を整理するが、どうもうまくいかない。うまくいかない理由について高山は考える。すると一つの理由が浮かび上がった。
【そうか!! あの警部が邪魔するからか!!】
「いかん。いかん。私は何を思ってるの? 警部は警部なりの答えを見つけようとしている。私も事件を解決するために頑張らなくちゃ!」
そう高山は自分にブツブツと言い聞かせた。すると刑事課の内線電話が鳴る。高山は受話器を取った。
「はい。捜査一課」
『ああ、その声は徳永の部下でシアン化カリウムの事を知らなかったド新人の……』
電話の主が声から喋り口調からしてあの警部と幼馴染みである鑑識課長の加藤だと高山は気づき、加藤が電話の途中で自分の事を茶化すと感づいて話をきる。
「高山です!! ド新人とかもういいですから!!」
電話をしながら加藤はパソコンで遺留品のデータを見ていた。
『はっははは、いや、すまねぇ。それより、あいついないか?』
高山はため息をつく。
「ああ、あの警部ですか。警部なら今は東城大学の方に出ていますが……」
加藤は残念がる。
『そうか。そりゃ残念だな。ああ、そうそう徳永の奴に伝えて欲しいのだけどよ。戻ってきたらすぐこっちに来る様に言っといてくれねぇかな?』
高山は答えた。
「あ、はい、分かりました」
加藤は電話越しでひとつ付け足す。
『ああ、そうそう。ひとつ言い忘れてたわ。遺留品の黒のナイトだが、あれにハンドクリームの成分がでたって言ったよな』
「ええ、それが?」
加藤はパソコンで成分表を見ながら受話器越しにいる高山に言った。
『そのハンドクリームの成分から見て、調べてみるといいかもしれんぞ』
「はぁ、ありがとうございます。調べてみます」
『じゃあ、よろしく頼んだ』と加藤は言った後で、受話器をもとに戻して通話を切った。
高山も受話器を戻した後にある事に気付く。
【てか、加藤さん携帯で警部に連絡させたらいいじゃん。なんで私が、電話を、もしかして電源でも切っているのかな?】
そう思いながらもハンドクリームについて調べようと自分のデスクにあるノートパソコンで情報をかき集めていく。
しかし、パソコンの情報はほとんどがその商品の宣伝だった。
「これじゃ、探せないな。しょうがない。加藤さんとこ行くしかないな。成分表をもらいに」
高山は席から立ち上がり、鑑識課に向かおうとした。
すると高山の鞄から携帯のバイブレーションが鳴る。
《徳永警部》
「警部か」
高山は電話ボタンを押した。
「警部ですか? どうしたんですか?」
『ああ、高山君、加藤から何か聞いてないか?』
【あんたもか!? てか、なんで携帯で話さない!?】
高山は携帯越しに徳永に訊く。
「つかぬことを聞きますけど、加藤さんの電話番号をご存知では?」
徳永は、高山の質問について即、否定した。
『うん? なんであいつの電話番号を知らないといけないんだね?』
「はい? 幼馴染の縁では?」
『そんな腐れ縁は十分だよ。それより、君に向かって欲しい所があるんだけど……』
「場所ですか? それより警部にも向かって欲しい所があるんですが……」
徳永は高山の一言を無視して、向かう場所を指定してくる。
『高山君。今から向島ボードに行ってくれ』
【私の一言、無視ですか……警部……】
高山は半分、投げやりな感じで徳永に了解した。
「はいはい。分かりましたよ向島ボードですね? 行きますよ。行きますよ」
『うん。あとで合流するからよろしく頼むよ。じゃあ』
「あ、ちょっと待ってください。警部。鑑識の加藤さんが、こちらに戻ってきた時に鑑識課にくる様に……との事でしたよ」
徳永は携帯越しで微笑みながら高山に返す。
『ああ、わかったよ。じゃあよろしく頼むよ』
徳永は電話を切り、愛車を置いてある駐車場へと向かう。
高山は通話終了した後で、携帯に向かって大きな声で叫んだ。
「徳永の馬鹿野郎うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
捜査一課の職場で高山の声が響く。周りの刑事達が、職場で叫んだ高山を驚きと怒りの目で見つめた。
「オホン!!」
奥では管理官が咳払いをして、高山に対して鋭い睨みをしていた。
高山は周りのまずい空気に対して「あ、あはははははは、ちょっと出てきます」と苦笑いしながら返して、デスクに置いていた鞄を持ち、捜査一課の職場を後にした。
警視庁から外に出て、向島ボードに向かう為、歩いて行く。ぶつぶつと独り言を言いながら……
「くそ~~~~!! あのたこ焼き警部~~!! 覚えてろよ~~~」
高山は一人、向島ボードに向かっていく。
第20話です。
話は続きます。