事件
《登場人物》
徳永 真実(35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美(30) 同 巡査部長
瀬戸 宗助(53) 東城大学教授
榊 祥子(32) 同大学准教授
宮崎 俊一(34) 同大学准教授
6月7日午前7時 ――城東大学8号館職員専用地下駐車場――
榊は、朝早くから研究室で、レポートを仕上げる為に、いつも通りの駐車スペースに車を停めて、鞄を持って降りる。
毎朝、この駐車場に車を置くが、大抵、榊が一番であった。
【この時間帯に此処に車を置くのは、私ぐらいだろうな】
研究室に向おうと奥のエレベーターに向かって歩いていた時、この時間帯の駐車場にはあまり見られない1台の黒いスポーツカーが目に留まる。
その車は、宮崎が乗っている愛車だった。
「あれは宮崎先生の車じゃない。珍しいわねあの人。朝から早いのね。あれ? 誰か乗っている?」
榊は、宮崎の車をよく見てみると確かに、誰か乗っている。恐らく、宮崎先生かなと目を凝らしてよく見る。確かに先生だけど様子がおかしい。
彼女は横から近づいて運転席のドアを軽くこんこんと叩いてみたが、目はあいているのに反応がなかった。
今度は『正面から見てみよう』と思って正面から覗いてみる。その瞬間、榊の身に自分が見たこと、感じたことのない恐怖が襲った。
宮崎のシャツは赤く染まり、目の瞳孔は開いてしまっている。
腰が砕けたように尻餅をつき、榊は悲鳴をあげた。自分の悲鳴が地下駐車場に響き渡る。
悲鳴を聞いて、警備員や職員たちが走ってきた。1人の職員が榊に声をかける。
「どうかしましたか? 榊さん。大丈夫ですか?」
「何が起きたん……ですか?」
警備員が榊に質問をした時、彼女が車に向かって左人差し指で指しているのが分かり、車を凝視してゆっくりと近づいた。
警備員は車の中の光景を見て立ちすくんだ。職員も恐るべき光景を目の当たりにし、立ち尽くしている。
「うわっ!?」
「うっ、嘘だろう? 人が死んでいる?」
警備員は、急いでトランシーバーで応援を呼び、自分の携帯電話で警察の要請を出す。
榊は、ただただ何もすることができず震えていたままだった。
第二話です。
話は続きます。