2人の男!
《登場人物》
徳永 真実(35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美(30) 同 巡査部長
瀬戸 宗助(53) 東城大学教授
榊 祥子(32) 同大学准教授
宮崎 俊一(故人) 同大学准教授
向島 重幸(42) 向島ボード 店主
加藤 啓太(35) 警視庁刑事部鑑識課係長
―― 6月8日 東城大学 2号館 午前10時半 ――
瀬戸は500人は収容できる大きな講義室で犯罪心理学の講義をしている。
「~ここで言う有名な殺人鬼といえば、デット・バンディとかは有名だな。奴は頭脳明晰で捕まったあとも公判では、5人も国選弁護士がいるにもかかわらず、自分で自分の弁護するという事もしていたが、陪審員と証拠には勝てなかったようだな」
講義室のスクリーンには、凶悪犯罪者について色々と映し出されていた。
瀬戸は講義を続けた。
「で、今回の課題は犯罪者の心について考えよう。この心について考えることをレポートにしてもらおう。レポートの内容によっては加点するからな。わかったか。野球部の玉木! 聞こえたか?」
瀬戸の突然の指摘に、みんなが笑う。
野球部の玉木は、片手を挙げて、《聞こえていると》合図をする
「では、ちょっと早いがここまでにしよう。課題を忘れるなよ。では今日はここまで」
瀬戸はマイクの電源を切り、教科書を鞄にとじて、スクリーンを片付けている。
「講義お疲れ様でした。瀬戸教授」
「ああ、お疲……」
瀬戸は声に答えようとしたが、その声に対して嫌な予感を感じ、口ごもりながら声のする方に振り向いた。
振り向いた先には、見覚えのある丸眼鏡を付けた灰色のスーツの徳永が立っていた。
「どうも」
瀬戸は、徳永に皮肉を言う。
「君は、暇なのかね?」
徳永は、微笑みながら皮肉を冷静に返した。
「いえ、事件が立て込んでいるので、できたらこっちも早く解決したいんですが、どうも許してくれなくて」
「聞かせてもらおうじゃないか? どこまで分かったのか」
瀬戸は、ズボンの両ポケットに手を入れて、徳永に見せつける。
徳永は、事件について昨日、得た情報を瀬戸に言った。
「まず、宮崎さんの遺体が手にしていた。チェス盤がどこにあったのか分かりました」
瀬戸は、背中からの寒気を感じた。
【ばれた!? まさか!?】
瀬戸は何とかして、自分の心を探られぬように、冷静に返す。
「で、どこであったんだね? そのチェス盤」
徳永は表情、変わらず微笑のまま淡々と答えた。
「向島ボードという店です。そういや、瀬戸先生に紹介してもらったオーダーメイドの店ですね。素晴らしかったので自分のボードも作ってもらう事にしましたよ」
瀬戸は、ポケットから両手を入れるのをやめて、腕に付けている銀時計の針を見た。
「そうか。そりゃ何よりだよ。紹介したかいってもんがある。すまんが、歩きながら話そう」と瀬戸はそう言って鞄を持ち、講義室のステージから降り、徳永と横に並びながら歩く。
瀬戸は歩きながらで話を続けた。
「それで、向島ボードにチェス盤があった事は理解できた。しかし、何故それを私に報告を?」
徳永は、瀬戸に言った。
「いえね。これが奇妙な事に向島ボードさんが預かっていたチェス盤の入った箱にあったんですよ。あなたの名前が」
瀬戸は首を横に振り、徳永の説明に反論する。
「何をそんな事を。研究室に来たまえ。私のチェス盤は研究室にある君も確認しただろう?」
徳永は瀬戸の反論に対して、微笑みながら返した。
「ああ、ありましたね。ではそのチェス盤をもう一度見せて頂きたいのですが……」
瀬戸はちょっと苦い顔をして言った。
「生憎だが、まだ次に講義がある。午後からならば研究室にいるからその時にしてもらいたいのだがね」
「分かりました。では、午後にまた伺います」と返し、瀬戸に一礼してその場を後にする。
瀬戸は徳永が学生の波を軽々とよけながら歩いていくのを見ていた。
【厄介な男であるのは間違いなかったか。クソっ……】
第18話です。
話は続きます。
今回から日付が変わりました。事件発生から一日が経ったところです。
このお話はフィクションです。
というわけで宜しくです。




