瀬戸のチェス盤の秘密
《登場人物》
徳永 真実(35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美(30) 同 巡査部長
瀬戸 宗助(53) 東城大学教授
榊 祥子(32) 同大学准教授
宮崎 俊一(故人) 同大学准教授
向島 重幸(42) 向島ボード 店主
同日 ――午後5時前 商店街――
向島ボード店は、東城大学から20、30km、離れた街の商店街の中にあるらしく、そんな時間が掛かる事はなかった。徳永と高山は交通事故による渋滞の波に巻き込まれたことから、徳永自身が考えていた時間とは大幅遅れた形となってしまった。
徳永と高山が乗る車は商店街専用の駐車場に停めた。二人は向島ボードへと向かうために商店街へと歩いていく。
「本当にここなんですかね? 警部」
高山はシャッター街となりかけている商店街を徳永と歩きながら不安に感じていた。
徳永はそれとは反対に期待している。
「ボードゲームをオーダーメイドでか……いいねぇ」
「えっ、何がですか?」
「ああ、いや、何でもないよ」
そんな話をしながら商店街を歩き回ってみると、徳永は立ち止まった。
「どうしたんですか?」と高山は徳永に訊いた。すると徳永は自分の視線と指の先を合うように指した。
「あれじゃないか? 高山くん」
高山は徳永の指が指す方に目を向けた。
「向島ボードですか?」
徳永の指が指す方向にそれは見えた。
《向島ボード チェス・将棋・囲碁等の盤・駒をオーダーメイドで作製します》
高山はつぶやいた。
「あ、あった!」
徳永は向島ボードの入口に近づいていく。高山も一緒について行く。2人は向島ボードの入口のドアを引いて中に入る。ドアについている鈴が店内に鳴り響いた。
2人は店内を見渡す。店内はいろいろなボードゲーム盤や駒がそれぞれの棚に綺麗に陳列されている。店の奥からドアの鈴の音を聞いて店主の向島がやってくる。
「いらっしゃいませ! 何かお求めですか?」
2人は、店主の方に顔を向けた。高山は軽く一礼し、向島に挨拶をかわそうとするが徳永に邪魔される。
「あ、すいません。私、けいし……」
「あっ、すいません。ここは向島ボードさんですよね?」
【徳永ぁぁぁぁ!! この野郎ぅ!】
高山は徳永の頭を睨んだ。徳永は高山の殺気に気づきながらも、向島と話す。
「いい将棋盤ですね。あなたが作ったものですか?」
「ええ、そうです。この将棋盤もあのチェス盤も私が……」
「あ、申し遅れました。私、徳永と申します。何十分か前に電話した」
向島は、頭をフル回転で動かして記憶の整理をして一つの答えが向島の頭の中に浮かび上がった。
それは一件の留守電であった。
『あっ、すいません。新しいチェスボードを探してまして、チラシを見て、こちらの方にお電話をしました。申し遅れました。徳永です。そちらに伺いたいと思いますのでよろしくお願いします。では失礼します』
【留守電か!!】
向島は思い出し、徳永に「ああ、お待ちしておりましたよ。盤の作製希望ですかね?」と言って。掌で陳列棚のボード盤を指した。
「ええ、それもあるんですが……」
徳永は自分の警察手帳を向島に見せた。
「警視庁刑事部捜査一課の徳永です」
「同じく高山です」
向島は何が何やら分からずきょとんしてしまい、瞬きしながら徳永に言う。
「えっ!? 刑事さん?」
「そんな事はさておき素晴らしい盤ですね」
向島は徳永が刑事である事を驚きながらも話す。
「え、ええ、全て木材も厳選されたものガラス細工が関わるときは、プロの方と提携して一から手作りをしていますから」
徳永は微笑みながら向島に言った。
「作ってもらおうかな。チェス盤……」
高山は、徳永が発した言葉に呆れた。
【コイツ!! 本当に警部か!?」
向島は表情が喜びに変わる。
「そうですか!! うちはどの店よりもきれいに作り上げますのでご安心を。立ったままではなんですし、奥の応接間にどうぞ!」
「そうですか。では」
高山は、向島の言われた通り奥の応接間に向かおうとする徳永を向島には聞かれないように、小声で徳永に問いかけた。
「ちょちょちょちょ、いいんですか? 事件の事は?」
「高山君」
「はい?」
「ちょっと黙っててくれるかな? ここは僕に任せてくれ」
【このクソ警部。やっぱりたこ焼きにしておくべきだった!!」
高山は心の中でそう思いながら、小さい声で「はい……」と答え、徳永の後ろを歩く。
徳永と高山は応接間らしい所に辿り着いた。壁には賞状や写真などが貼られていた。
応接間には、黒いソファーとテーブルが置かれており、テーブルの上には少し大きめのダンボール箱が置かれてあった。
「ああ、いけない。いけない。片付けてなかったな」と向島はつぶやいて、ダンボールをソファーの後ろに置いた。
「どうぞ! 狭いところですが、お茶とかは?」
向島は奥のスタッフルームみたいな所に向かおうとしたが、徳永は断り、ソファーに座った。
「いえ、お構いなく。高山君も座ったらどうだい?」
「あ、はい。失礼して」
「チェス盤の作製希望でよろしいですかね?」
向島は、徳永の対面側のソファーに座り、テーブルにボード盤のカタログを徳永に手渡した。
徳永は、カタログを取らずに向島に顔を向けた。
「ええ、それもそうなんですが」
「はい?」
「東城大学で勤めている瀬戸宗助教授をご存知ですかね?」
向島は、徳永の問いに答えた。
「あ~~~先生ですね。ええ、もちろんです。先生は先代の頃からお世話になっている方で友人でしたから」
高山は、メモを取りながら訊いた。
「先代?」
「亡くなった父です。父がこの仕事を始めて僕もその隣で見ていましたから……その影響で」
徳永は、咳ばらいをした。
「瀬戸宗助さんについて何かご存じですかね? あ、あくまで形式上の質問ですので」
向島は考えたが、何も浮かばなかった。
「いや、特に……昔からよくしていただいていたので」
徳永は質問を続ける。
「そうですか。あ、そういや今日、東城大学に寄られましたよね?」
向島は徳永の問いに即答だった。
「ええ、先生からの電話があったので行きましたが、何か?」
高山と徳永は向島が言った言葉の中にある単語に反応し同じタイミングでその単語を言った
《電話!?》
徳永は「すいません」と言って続けた。
「どういう内容でしたか? 出来たらで結構ですので」
「内容ですか。チェス盤と駒の手入れですね。後、前まで頼まれていたチェス盤ができましたので丁度、それを持って行きました。取り替えたチェス盤なら奥にありますが」
「そのチェス盤を見せていただいても?」
「ええ、構いませんが、奥にあるんでちょっと待ってください」
向島は、そう言ってソファーから立ち上がり、奥の倉庫へと向かった。
奥から物を動かしている音がよく聞こえた。時より、向島の声で「これじゃないな」、「痛ぇ」などの声が聞こえた。数分ぐらいで向島は大きなダンボール箱を持って応接間に戻ってくる。
向島は徳永に言った。
「これです。瀬戸先生のチェス盤と駒は」
「拝見します」
向島の持ってきたダンボール箱にはチェス盤ともう一つ、細長い木箱が入っていた。
徳永はチェス盤を確認した後で、細長い木箱を確認する。木箱の蓋を開けて中身を確認した。木箱の中にはさっき確認したチェス盤と同じ色、デザインの施された独特な駒が入っていた。
「このチェス盤の駒、僕がアレンジをしているんですよ」
徳永は向島の言葉に興味を示した。
「駒を周りを見てもらえるとわかるんですが、小っちゃく店のロゴを掘ってあるんですよ。どうです?」
徳永は向島の言葉通りに周りを見てみると、確かに小さくだが、駒1つずつにひし形にローマ字でイニシャルが書かれていた。
《BM》
「本当だ」と高山は、駒を取って確認した。
「でも、不思議なんですよねぇ」
向島はつぶやいた。それに高山は反応する。
「えっ? どういう事ですか?」
向島は答えた。
「いや~普通だったら、駒なんてなくさないんですけど。一個なくしたみたいですね」
「ちなみにその駒分かりますか?」と徳永が訊いた。
向島は徳永の質問にあっさりと答えた。
《黒のナイトがないんですよ~》
高山、徳永は一瞬だけ時間が停まった感覚に浸った。そう。向島の一言で高山、徳永の両名は確信を持った。
――瀬戸宗助という男がこの宮崎俊一の変死に大きく関わっている事に――
第14話です
今回は向島と徳永が初めて対面します。
下手くそです。
超展開はご了承ください。
話はまだ続きます!!




