地下駐車場にて……
《登場人物》
徳永 真実(35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美(30) 同 巡査部長
瀬戸 宗助(53) 東城大学教授
榊 祥子(32) 同大学准教授
宮崎 俊一(故人) 同大学准教授
同日 3時20分 東城大学
徳永は携帯電話の電話帳リストから高山を選択して、通話を試みるがかからない。
【やはり、彼女は地下駐車場にいるのか。しょうがないなぁ】
徳永は携帯をしまい、近くのエレベーターに向かう。エレベーターに入り、地下駐車場へと向かう中で瀬戸との会話の場面を思い出してみる。
よく考えると彼との会話にはいくつか不可解に感じられた。それは彼との会話の中にあった一言だった。
《有望な人間だったのに、自殺だったのだろう?》
徳永は考えてみる。
【どうしてあの人は、あの時あんな発言をしたのだろうか? もしかして?】
考えているうちにエレベーターは目的のフロアへと到達しドアが開く。
徳永はエレベータを降りて、地下駐車場に行っているはずの高山の姿を探すが、地下駐車場内には高山らしき姿は見当たらない。奥の警備室には、中年太りの男性警備員が新聞を読んでいるのが見えた。
「仕方ないな。彼女の居場所を訊くか……」
徳永は、警備室に向かって歩いていく。地下の独特な空気を感じながら警備室に近づいて行く。そんな中で、ある事に気付く。
【初めて対面した時、教授、一度もチェス盤を触ってなかった。普通ならチェスの駒の事を聞いて、気にするはず。もしくは前もって取り替えたのか?】
警備員は新聞を読み終えて、それを綺麗に片づけて机に置いた後、椅子にもたれ掛かって欠伸を掻いた。欠伸をした後で奥から近付いてくる男を凝視する。
どんどん近づき、警備室前に止まった。
警備員は、眉間にしわを寄せながら男に言った。
「何でしょう?」
徳永は警備員の顔を見てあっと気づく。警備員は徳永の驚き様にちょっと怪訝そうな顔になった。
徳永は口を開いた。
「あっ、失礼しました。私、警視庁捜査一課のとく……」
警備員はまたかという思いで話を途中で切る。
「また刑事さんか。何ですか? さっきも刑事さんがやってきて話を聞きにここまで来ましたけど」
「えっ!? そうですか。もしかしてそれ女性の方でしたか?」
警備員は、首を縦に振った。
「ええ。そうですが、あなたの関係者さんですか? ならばさっき、女性の刑事さんはあちらの階段を上がっていきましたよ」
徳永は警備員の発言を確認しながら別の事を訊いた。
「そうでしたか! 良かった。もしかして彼女、別の駐車場の方に向かいました?」
警備員は徳永の質問に答えた。
「ええ、そうですよ。彼女に事件前日のリストのデータを紙媒体で渡した後で、第二駐車場に向かわれまししたけど」
「もしかして、瀬戸教授の車がそちらに?」
警備員は、その事を当てられた事にちょっと驚きながら答える。
「えっ!? ええ、そうですけど。それが何か?」
「いいえ。どうも」
徳永は警備員に微笑で返して、エレベーターの隣の階段へと足を進めていった。
警備員は、徳永の微笑に首を傾げながら椅子に座ってパソコンの画面を見ていた。
「ちょっといいですか?」
警備員はいきなりの不意打ちに大きく驚いてしまった。
「うわっ!?」
「いやぁ、驚かしてしまってすいません。あること訊くのを忘れてしまってですね……」
警備員は徳永に向かって大声で言った。
「なっ、なんなんだ! あんたはっ!?」
徳永は警備員の質問そっちのけで言った。
「実を言うと、ある車がここに停まったのはご存じじゃないですかね? 向島ボードって言う車、そのパソコンの記録に載ってないかなと思って……」
警備員は、呆れながらパソコンを見ながら、駐車リストのデータを印刷して渡す。
6月6日 地下駐車場 利用者リスト
A-レーン
1 谷山 幸介
2 真鍋 茉利奈
3 里見 勝利
4 大河内 康弘
5
6 菅 丹歩
B-レーン
1 エディ ワトソン
2 水木 敏彦
3 榊 祥子
4 村島 一
5 吉田 慎太郎
6 ドミニク グリフィン
C-レーン
1 石橋 安治
2 李 朱進
3 足立 京香
4 E・L ハーマン
5 沢木 涼
6 吉野内 恵
6月7日 地下駐車場 利用者リスト
A-レーン
1
2
3
4
5
6
B-レーン
1
2
3
4
5
6
C-レーン
1
2
3
4
5
6
「これが前日と今日の駐車リストです。さっきの女性の刑事さんには前日のリストしか渡してませんね」
「あっ、どうも、ありがとうございます」
徳永は、リストを見て高山の行動を評価した。
【流石、高山君】
警備員は続ける。
「ここは事件も起きてしまっているので、全面立ち入り禁止にしています。ですから今日は第一駐車場や第二駐車場に車などを停めて頂いている状態です」
徳永は、リストの方に凝視しながら話を聞いている。
「なるほど」
警備員は続けた。
「う~ん。このパソコンの記録には入ってないですね。お渡しした前日のリストにも向島ボードって言う車はここには入ってきてないですね。第二駐車場に記録されているかもしれませんね。今、できるのは、ここの記録を見て、人に渡す事ぐらいなんでね。すいませんね」
「そうですか。ありがとうございました」
徳永は残念そうにかえし、また第二駐車場に向かう為、階段のある方へ足を進めた。進めながら自分の携帯の画面を見たが、電波の状況は《圏外》……
【早く、彼女のところまで向かわないとな……その前になんであの警備員、機嫌が悪かったんだろうか?】
そんな事を思いながら、恐らく高山のいる第二駐車場へと向かっていくが、徳永はある事に気づく。
「あれっ? 第二駐車場って僕達の車が止めてある所か。高山君、気が付いてたらいいけど……」
第10話です
話はまだ続きます。




