1-6:お酒は二十歳になってからです!
お酒は二十歳になってからお飲みください。
決して美味しいものではないのです!
飲みすぎは大失敗の元です!
とにかく、お酒には気をつけましょう!!
切りの悪い終わり方だったので、後ろに文をちょっと追加しました。
誤字、文章を訂正しました。ご指摘ありがとうございます。
コルトの森の鉱山村では今集会所の中にいつになく多数の人が集まっています。
そして、その中心にいるキュアリーは疲れきった顔を浮かべてその状況を眺めていました。
「いやぁまさか穴掘ってイグリアへ繋がるとは思ってもいなかったぜ!」
「こっちでもよ、いやぁまさかガレアス鉱山に繋がるとはなぁ」
大きな声を出しながら、豪快にお酒を飲み干す男達をみながら、なんで自分はここにいるんだろう?っと疑問を浮かべながらキュアリーは目の前にある果実酒をチビチビと舐める様に飲みます。
「しかし、これで鉱石不足も装備についても改善されるな」
「ん?こっちでは鉱石が不足してるのか?」
「おうよ、鉱山がほとんど残ってないからな、あとドワーフがいなくなって装備のメンテナンスだけでも大事よ」
「ふむ、俺たちは食料だな、酒はもちろんだが岩山ばかりで作物が育つ場所が少なくてな。これで飢えの不安が解消される」
「あと、酒不足からもな!」
ドワーフ達から一斉に笑い声が響き渡りました。
獣人も、ドワーフも元来酒好きが多く、この為現状把握の会合のはずが、あっという間に酒宴へと様変わりしていたのです。そして、集会所の中はお酒の匂いが充満しており、その中のさらには上座に位置する場所でキュアリーはただ恨めしそうに獣人とドワーフ達を睨みながら小さくなっていました。
「おお、エルフの姉ちゃん。なにしけた顔してるんだよ、もっと飲めって」
「姉さん、果実酒なんかジュースですって、ほれこっちを飲んでみてくだせい」
「あ、あの、あたしお酒強くないし」
「酒は飲んで強くなるものですぞ!」
「俺なんか餓鬼の頃から飲んでましたぜ」
「俺もだぞ!」
「俺もだ~!」
周りからも同意の声が上がる中で、キュアリーの果実酒の杯にどんどんとお酒が継ぎ足されます。
「あ、あ、ちょっと!」
「ほれ、ぐっと行ってくれ」
「「「お~~~~」」」
周りの盛り上がりに拒否する事が出来ず、キュアリーは渋々と果実酒のお酒割のような物に口をつけます。
「あぅぅ、キツイっていうか美味しくない!」
”お~~~”
周りが騒ぐ中でキュアリーは肩身の狭い思いで椅子に座っています。
でも、その足元ではもっと不機嫌そうにルンがしゃがみ込んでいました。
なぜなら、ルンの目の前にも器にナミナミと今にも零れそうに注がれたお酒がありました。
「グルルル」
そのお酒の匂いが気に入らないのか、ルンは顔を背けながら恨めしそうにテーブルの上のお肉に視線を飛ばしました。
「ん?あ、ルンお肉欲しいんだよね?ちょっとまってね」
「ヴォン!」
キュアリーの言葉に、ルンは嬉しそうに尻尾を振ります。
キュアリーは、テーブルの上からお肉の塊をお皿ごとルンの前に置いてあげます。そして、それを見ていたドワーフや獣人達から一斉にブーイングが飛びました。
「な!丸ごとかい!」
「に、肉が~~~」
「おれまだそれ食べてないんだって!」
特に今まで食生活が質素だったと思われるドワーフ達の反応が顕著でした。
「うるさいです!貴方達はお酒でも飲んでなさい!」
「いや、酒は大事だが、酒にはつまみが」
その言葉にキュアリーは目の前にあるお塩の器をドワーフ達に差し出しました。
「お塩で飲めるんですよね?」
「「「どんな酒豪ですか!」」」
「ほら、バルさんどんどん飲んでください。あたしのお酒が飲めないなんてないですよね?」
「あ、いや、その酒は普通は割って飲むんで」
「何か言いましたか?」
バルの言葉を一切無視してキュアリーは先ほど追加されたドワーフの火酒と呼ばれる秘蔵酒を片手にバルにお酒を勧めます。
「なぁ、姉さん酔ってないか?」
「え?失礼ですね。酔ってなんかいませんよ?」
ベアルの問いかけに、普段より一層白くなったような気がする顔色でキュアリーは淡々と返事をします。
「そ、そうか、なら良いんだが」
顔を引き攣らせながらベアルはコソコソと席を離れようとしました。
「ベアルさん、どこに行くんですか?ほら座ってください」
火酒の壷を突き出し、ベアルの杯へとドボドボと注ぎ込みます。
「え、あ、溢れてる溢れてる!」
とにかく、そんな風にドタバタしながらもドワーフと獣人のファーストコンタクトは順調に推移していきました。ちなみに、翌日はもちろん大多数の者が寝込んだのは言うまでもありません。
◆◆◆
イグリア王都では、国王の前に総勢48名の王国騎士団兵が整列していました。
そして、王国よりそれぞれの騎士達に対しクロスのネックレスが渡されます。
「このネックレスは各状態異常を防いでくれます。いかなる時も身につけて置くように!そして、恐らく貴方達の前に立ちふさがるのは魔族です!決して無理をせず、2PTが連携をとり敵の情報を持ち帰ってください」
ラビットラブリー騎士団の団長であるエリーティアの訓示を聞きながら、兵士達はそれぞれ首に掛けたネックレスを握り締め、そして今回の遠征に思いを馳せます。
魔族の侵攻など自分達の子供の頃の御伽噺の中にしか存在しない話です。しかし、それが今現実になろうとしています。しかし、そう思っても今ひとつ実感が湧かない中でこのクロスだけが彼らに今起きている事が現実なのだと教えてくれている気がしました。
「お前たちの任務は魔族を倒す事ではない。現在、何処で、何が、どの様に発生しているかを我々に知らせる事が任務である。決して無理をするな、油断するな!そして、絶対に死ぬな!これがお前達に与えられた任務である」
エリーティアに続いて訓辞を始めたクマッタ騎士団の団長ベイチェンは普段ののんびりした雰囲気を一切感じさせる事なく只管厳しく話し始めた。
そして、その表情から兵士達は、今回の任務がいかに過酷な任務であるかを認識したのでした。
「お前たちは過酷な訓練を経て強くなっている!あたしはその事を良く理解している。イグリアの為にお前たちの力が今こそ必要なんだ。あたしに力を貸してくれ」
最後に話し始めた国王の言葉は、普段とは違う真剣な色を持っていました。そして、最後に今回の遠征部隊指揮官であるプードルが声を上げました。
「イグリアの為に!」
その声にこの場にいるすべてに者達が一斉に叫びました。
「「「イグリアの為に!」」」
そして、その後兵士達は次々に広場にある転移門へと消えていきました。
◆◆◆
次第に暗闇へと移り変わる風景の中で、煌々と炎が村の中を照らし出します。
そしてその明かりによって、暗闇が更に深みを帯びていきます。そして、その闇が警戒を強める男達の心の中に不安を呼び起こしていきます。
「なぁ、ほんとに魔族なんかくるのか?婆さんの勘違いじゃないか?」
そうであって欲しいという願望の下に見張りの男の一人であるサンドが発言をします。しかし、傍らにいるもう一人の見張りは、街の境界に一定間隔で繋がれた羊の様子を真剣に見詰めていました。
「なぁ、どうなんだよ、何か言えよ」
「うるさい!羊の様子が変だ!みんなに知らせろ!」
その男の言葉にサンドが羊をみると、今までのんびりと草を食んでいた羊がせわしなくウロウロと動き回っています。
「な、なんだよ、べ、べつに羊がウロウロしてるだけじゃ」
「さっさと行け!」
怒鳴る男の声に急き立てられるようにして、サンドは村の集会所へと走り始めました。
もう一人の見張りであるモルドは手に持った槍を手に馴染ませるように動かしながら、必死に闇の中を見通そうとしていました。
「くそう、真っ暗で何も見えやしねぇ」
そう呟きながら足元に積み上げられている松明の一本を手にとり、火を灯して暗闇へ向かって投げ込みました。
すると、暗闇の中でほんの一瞬ですが何か黒いものが動くのが見えました。
「何かいる!」
そのとき、集会所の方から何人もの人が慌てたように走ってきました。
「モルド!どうした」
「何かがいる!気をつけろ!」
その言葉に、事前に打合せされた通りに二人の弓使いが矢に炎を灯して暗闇へと放ちました。
ポス、ポス
地面に矢が突き刺さる音と共に前方に明るい炎が暗闇を照らし出します。
ポス、ポス
さらに続けて数本の矢が地面へと突き立って行きます。
「何もいないぞ?」
「何か見えるか?」
「特に何もいないが、気のせいでは?」
そんな声が響く中で、モルドと数人の男がじっと闇の中を睨みつけました。
「どうだ、気配は感じるか?」
「わからん、だが必ず居る」
そのモルドの言葉に、男達は一斉に村の四方へと走り各々の判断で火矢を打ち込みます。そして、火矢のその頼りない炎に照らし出された何かをついに見定めました。
「い、いたぞ!魔族だ!」
その声と同時に、魔族の手から青白い光が村へと解き放たれ、そして村を覆う結界へぶつかり凄まじい火花を散らしました。
「ふん、この程度の結界など」
その魔族はそう呟くと立て続けに青白い光を村へと撃ちだしました。
「弓隊、放て!」
いつの間にか駆けつけていた村長の妻が、その魔族の様子に危機感を感じ弓隊へと指示を飛ばします。そして、その声と同時に弓を持った男達が一斉に魔族に向かって弓を放ち始めました。
「ま、魔族がほんとに・・・」
その様子を呆然と眺める村長を余所に、武器を手にした男達が集まり始めました。
「絶対に村の外へは出ないで!まだ結界は生きているわ!」
今にも魔族に向かって走り出しそうな男達へと指示を出しながら、村長の妻は自身も弓をとり魔族へと矢を射掛けました。
「煩わしい!」
無数に降りかかる矢を気にして、魔族は障壁を張り後退します。そして、次第に弱まる火矢の炎で姿が闇へと溶け込もうとした時、突然村を囲う浅い溝から走るように炎が立ち上りました。
「なに!」
その炎の壁に照らし出され、ようやく魔族の全容が明らかにされました。
「な!吸血鬼か!」
青白く生気を感じさせない白い肌、真っ赤な色の目、そして、見まごうことの無い唇から突き出た2本の牙。そのすべてがこの魔族の正体を教えてくれていました。
「ばかな!病人達に吸血痕はなかったぞ!」
「愚か者達が、いまどき吸血痕を残す吸血鬼がいたらお目にかかってみたいものよ」
細長い剣を静かに引き抜き、吸血鬼は真っ赤な唇を歪めて目の前に広がる炎の壁に向かってその剣を振り下ろしました。そして、その振り下ろしによって発生した凄まじい剣風によってあっという間に炎の壁は打ち消され、そして何かが砕ける甲高い音が響きました。
「そ、そんな!」
結界に弱められた風を受けながらも、たった一撃で結界が破壊された事に愕然として立ち尽くす村人達に、正に冷酷な微笑みを浮かべながら吸血鬼は村へと一歩踏み出しました。
「ゆ、弓隊放て!」
我に返ったモルドが自身はショートソードを構えながら立ち尽くす村人達へと指示を飛ばします。
「邪魔だよ」
しかし、吸血鬼は弓を構えようとした村人に対し、無造作に腕を突き出しました。そして、手のひらから出た青白い光が次々に弓を構える男達に突き刺さっていきました。
「ギャアア~~~!!」
光が当たった場所から青白い炎が立ち上り、一瞬にして男を飲み込んで燃え広がります。そして、地面に転げまわる男の炎を必死で周りの男達が消そうとしますが、炎は勢いを弱めることなくしばらくすると炎に包まれた男は動かなくなりました。
「フフフ、それはHPを炎に変えるからね、HPが切れるまで消えないよ?」
楽しそうに笑いながら、その吸血鬼がゆっくりと村の外の浅い溝を跨ごうとします。しかし、足を上げた状態で静止しました。
「ん?これは?」
「きゅ、吸血鬼は川を渡れん、これはこの世界に定められた理じゃ」
「へぇ、そんな話しらなかったよ。でもさ、これって水が無くなればいいんだよね?」
「なんじゃと?」
老婆の問いかけに対しても薄ら笑いを浮かべたまま、吸血鬼は先ほどの剣をまたもや無造作に振り払います。すると、またも凄まじい剣風が起き大地を大きく削りました。
そして、削られた大地の元、溝はあっというまに姿を消しました。
「ほら、溝なんてなくなっちゃったよ?」
前に出ていた男達を溝を打ち消すついでのように致命傷を負わせて地面を真っ赤に染めます。
「な、なんで」
「結界石なんて耐久以上の攻撃を加えれば壊れるし、こんな溝なんか消しちゃえばいい。まぁ吸血鬼がこんな水を注いだだけの溝を渡れないなんて僕も知らなかったけどね。教えてくれてありがとうね、お礼に皆殺しにしてあげる」
満面の笑みを浮かべ剣を振り上げる吸血鬼を、村人達は絶望の眼差しで見つめました。
元々、アンデッドにおいて上位に位置づけされる吸血鬼に対しこの村の住人でなんとかなるはずが無かったのです。
「化け物め」
モルドが吸血鬼に対しそう吐き捨てると、その呪いの言葉を聞いて吸血鬼は更に嬉しそうに笑顔を浮かべました。
そして吸血鬼が今まさに村人達に向かって剣を振り下ろそうとした時、背後から複数の気配が近づいて来ているのに気がつきました。
「なんだ?敵か?」
一瞬、先に目の前の村人達を皆殺しにしてから背後を警戒するか迷ったのですが、目の前の村人達などさして気にする必要がないと判断し、背後の気配を探ります。
「結構上位の気配がするな、まぁ僕にとっては雑魚でしかないが」
そんな判断の元、背後に向かって手のひらを翳し、攻撃を加えました。
すると、手のひらから飛び出した複数の光弾が真正面に飛んだ後、強引に捻じ曲げられたのを感じました。そして、その事に警戒を強めたとき叫び声が聞こえてきました。
「うみゃ~~~なぜ追いかけてくるの~~~」
「なんだ?」
その叫び声を聞き、吸血鬼は訝しそうに攻撃の手を止めました。そして、その事が吸血鬼にとって正に最悪の悪手となってしまったのです。
うん、キュアリーのいる場所と、世界の情勢の乖離がひどいですね!
キュアリーももう少し頑張らないと他の人に主人公の座が奪われそうです!