1-23:お風呂の後のビールって美味しいの?
思わぬ長風呂にて若干逆上せ気味のキュアリー達は、その後共同浴場の横に併設されている居酒屋兼食堂へと来ていました。
「ぷは~~やっぱりお風呂上がりの冷えたビールは美味しいですね」
エリーティアがそう言いながらグビグビとビールを飲み干していきます。
その横では、キュアリーときゅまぁが二人で冷えたミックスジュースを飲んでいました。
「う~ん、なんかごめんなさいね、あたしだけビールなんて飲んじゃって」
エリーティアの普段は透き通るような肌が湯上りの為ほんのり赤みがさして差して、思わぬ色気を醸し出しています。でも、キュアリーやきゅまぁの前ではまったく意味のない猫に小判状態です。
「お風呂上がりだからさっぱり系がいいかなぁ?」
「お肉、お肉は必須ですよ!」
キュアリーときゅまぁはメニューを覗き込んでいます。
そんな二人をそっちのけにエリーティアは予想以上に種類の豊富なドリンクメニューに頬が緩みっぱなしです。そして、それぞれが適当に注文を入れる中、お店の入り口からベアルが入ってきました。
「やっと見つけたぞ、こんなとこにいたのか」
その声に3人がベアルの方を向きます。そして、その瞬間先ほどまでほんのりと色付いていたエリーティアの顔色が、あっという間に白を通り越して青白くなりました。
「ベアルさんなにかあった?」
「ほむいほふほっほ?」
エリーティアの変化に気が付かないまま、キュアリーが尋ねます。そして、きゅまぁも口にお肉を入れたまま尋ねました。
「いや、なんか急ぎであんたらを集めろって言われてたんだが、その張本人さんがそこで酒飲んでるしなぁ」
呆れたようにエリーティアを見るベアル、そして、そのベアルの視線につられてキュアリーときゅまぁもエリーティアへと視線を向けました。
「あ、あ、忘れてました!い、急がないと!」
そう言うとエリーティアは手に持ったビールのグラスを一気に飲み干しました。
そして、まだ口の周りに泡を付けたままなのを気にもせずに身を乗り出しました。
「キュアリーさん、きゅまぁさん、急いでイグリアへと戻ってください!今、魔族転移者の侵攻を受けてるんです!」
「「???」」
エリーティアの必死の訴えも、口の周りについた泡がすべて台無しにしています。それに加え、魔族侵攻と言われても今一つピンとこない二人はきょとんとした顔でエリーティアを眺めました。
「ああ~~もう!のんびりしてる暇はないんです!少しでも戦力が欲しいんです!だからわたしが迎えに来たんです!」
普段のエリーティアであれば、もっと理路整然とした説明をして二人を納得させたと思います。しかし、運の悪い事にのんびりお風呂に入って、お酒を飲んでいたという負い目が焦りを生み出していました。そして、更にはすでにお酒が回ってきており思考が単純化してしまい、有効な説明が出来なくなっています。この為、同じ事を何度も繰り返すだけでキュアリー達はとりあえず魔族の侵攻の部分しか理解できませんでした。
「エリーティアさん、落ち着いてね、今慌ててもそんなに変わらないから」
「ですよ~、ほら、まずご飯食べちゃいません?」
キュアリー以上に呑気な反応を示すきゅまぁに苛立ったのか、エリーティアはガシッっときゅまぁの頭を鷲掴みにしました。
「きゅまぁ?なに呑気な顔をしてるの?お馬鹿なの?ねぇお馬鹿なの?」
「い、痛い!痛いです!」
今にもギシギシと音がしそうに掴む手を、きゅまぁが悲鳴を上げながら剥がそうとしています。けれど、ピクリともしていません。
「ふふふふ」
「あ~その、本線からまた脱線しそうなのは俺の気のせいか?」
エリーティアの様子に若干引きながらもベアルが割り込みました。そして、それに合わせてキュアリーが助け舟を出します。
「え、エリーティアさん?まずは落ち着いてね、とにかくイグリアへ戻らないとなんだよね?」
「はい!急いで戻らないとなんです!」
そのキュアリーの言葉に、エリーティアが反応します。ただ、それに対してベアルが疑問を述べました。
「キュアリーさん、戻るのはいいが当初予定してたギルへの応援はどうする?」
「あああ~~~!忘れてました!」
「おい!」
この村へ来て早々病気の治療などでドタバタとしていた為、素で忘れていたキュアリーが慌てたようにベアルへと向き直ります。
「そういえば、ギルさん達は大丈夫なんですか?もしかしたらもう戦闘が始まってたりしないですよね?」
そう告げるキュアリーを安心させるようにベアルが告げました。
「ああ、そこはキャサリンさんがドズル達と話をして、ひとまず鉱山と、この村との間に定期的に連絡線をはっている。ああ、そんなにしょぼくれるな、キュアリーさんがこの村で病人を治癒してくれたからこその協力でもある」
その言葉に少し安堵の表情を浮かべながらも、キュアリーは今後の対応を考え始めました。
このままイグリアへ向かうにはギル達を見捨てることになる可能性が高いと思えるためです。
そして、そのキュアリーの思いは、今エリーティアの話を聞いたベアルにも共通する思いです。
「あの、エリーティアさん?きゅまぁさんだけ戻ってもらって、あたしはここに残るんじゃまずいのでしょうか?」
キュアリーの真剣な表情に一瞬エリーティアが考え込みました。しかし、イグリアにおける現在の状況は少しでも魔族側への対応可能な戦力を集めたい、この一言です。その為、キュアリー側の事情が把握できない状況にありながら、それでもうんと頷く事はエリーティアには出来ませんでした。
「無理をいうかもしれないけど、キュアリーさんにも戻ってほしいの、はっきり言って相手側の戦力がまったく把握できない。それに、こちら側はすでに多くの転移者達が帰還してしまっているから」
エリーティアのその言葉に、それでもギル達を見捨てる事にならないかと判断がつかず躊躇うキュアリーに対し、エリーティアは更に言葉を続けようとしました。
「まぁまてや、そこの姉さん。とりあえずドズル達にも話を聞いて貰おう。この村には転移者や転移者の子孫が残ってるっていうか固まってるからな。何人いるかはわからんが」
「え?!ここに転移者がいるの?!」
ドワーフの転移者がこの村にいるというのは初耳だったのか、エリーティアは驚きの声を上げました。そしてその様子を怪訝そうに他のメンツが眺めます。
「あれ?エリーティアさんもしかしてここがどこかわかってない?」
「え?ドワーフ領の村ですよね?」
「あれれ?それだとなんでエリーティアさんはここに来たの?」
「いえ、わたしはキュアリーさんが見つかったとの報告を受けて、それで見失う前になんとかコンタクトしようと情報を辿ってここまで追っかけてきたんです。ですから、ここに来たのはキュアリーさんがいたからですよ?」
エリーティアのその答えに、みんなは納得して頷きました。道理でエリーティアさんがキュアリーときゅまぁ以外に対して関心をあまり抱いていないのか理解できたのです。
「あ、もちうろん後でドワーフの方達と今後の装備の安定供給などについても打ち合わせはさせていただくと思います。ただ、それはわたしではなく、ほかの交渉担当者がお邪魔すると思いますが」
「えっと、ここの村はドワーフ領にいる転移者が集まって作った村なんです。お会いしているかは不明だけど、村長のドズルさんも転移者ですよ?」
「え?」
キュアリーの説明に、ポカンっと口を開けてこちらを見るエリーティアに、うん、なんか色々残念なお顔ですねっとキュアリーは思いました。ただ、今ここでエリーティアに説明を続けてもなんの解決に繋がっていかないです。ギルの安全を確保しないと、イグリアに戻るのは厳しそうですね。
そんな事をキュアリーが考えていると、ベアルがみんなでドズルの家に移動する事を提案しました。
「元々この村にはギルの協力を頼みに来たんだしな。キュアリーさんは治療に専念してたからしかたないがキャサリンがすでにドズルから一定の協力を引き出している。まずはドズルを交えて話すべきだな」
しごく御尤もなご意見に反対するものはなく、そのままみんなで移動しました。
そして、ドズルさんに訳を話すと村に現在居る転移者を集めてくれる事になりました。
「まぁキャサリンにすでに5人ほど同行して行ってるがな。ただ、俺たちは基本生産職だ、戦闘は基本的に論外だからな、そこを期待しないでくれ」
ドズルさんはそう釘をさしました。
ビールは美味しいのでしょうか?
っという事は置いといて、お話が相変わらず進まない症候群に!
次で一気に進む・・・といいなぁ
イメージは出来てるんですけど何かそこへの繋ぎを強引にしないようにって思うと話が進みません><
エリーティアさんを話を進ませるために投入したのにこのキュきゅコンビは・・・