1-14:きゅまぁの悲劇
チロ村では今まさに3台の馬車、そして多くの村民達がゆっくりと出発を始めていました。
2台の馬車には荷物が山のように積まれ、残り一台には老人と幼い子供達が乗り、その前後に村人達が列を成して歩いています。そして、集団の前後をユルグ達近衛部隊の面々が警護する形で付き従います。
当初近づいてくるユルグ達に対して警戒していた村人達ですが、きゅまぁがユルグ他の面々と面識があり、彼らを認識したと同時に緊張した雰囲気などそっちのけで手を振り始めたため村人達も一気に安心して彼らを迎え入れ始めたのでした。
その後、メアリーが状況を簡単に説明した後、すでに準備を開始していた村人の避難をユルグ達も手伝い、なんとか予定通りに昼前にはチロ村を出発する事ができたのでした。
「う~む、この速度で夜までにコルトバの所まで辿り着けるか?」
ゆっくりとした進み具合を眺めながらクインが呆れたように呟きます。
「これ以上は早くできないよ、ただの村人に無茶言っちゃ駄目だって、でもちょっと夜には厳しいかもね」
ビエラも同様の事を思いながらも視線は先頭に居るきゅまぁへと注いでいます。
「ねぇそれもだけどさ、きゅまぁ隊長に気をつけろってユルグが言ってたけどあれマジ?」
「ああ、きゅまぁ隊長の迷子率はそうとう高いらしい。だから絶対後方配置は駄目だ、前方で変な動きをしないかみんなで見張る必要がある・・・らしい」
「らしいって」
クインの発言に疑わしそうにビエラは前方を見つめました。すると、その視線の先では突然きゅまぁが右方向へと駆け出しました。
「なに!なんかあったの!」
慌ててビエラが飛び出します。そして、クインもエネミーサーチを再度発動させきゅまぁの進行先を警戒します。しかし、特に敵対存在は検知されませんでした。
「なんだ?サーチに引っかからない敵か?全員周辺の警戒を強めろ!敵がいる可能性がある!」
警戒を強め、クインは周りに指示を出します。
そして、きゅまぁの移動した方向を見ると、きゅまぁが何やらビエラに向かって叫んでいるみたいです。
そして、きゅまぁはちょっとした窪みの方向へと消えていきます。そしてビエラはこちらに戻ってきました。
「おい、どうしたんだ?敵じゃないのか?」
その言葉をうけてビエラは溜息をつきました。
「敵じゃないよ、ただ単にお花摘みだった」
「はぁ?こんな所で花摘んでどうするんだ?」
クインの言葉に、冷たい視線を返しながらビエラは頭を両手で掻き毟ってから再度溜息を吐きます。
「ねぇ、ちょっときゅまぁ隊長に過剰反応をしすぎなんじゃない?子供じゃないんだし」
「そんな事俺に言われたってよ」
クインも困惑を隠せない様子できゅまぁの消えた方を眺めました。すると、突然ビエラがクインの頭を叩きます。
「じろじろ見ないでよ!変態!」
「はぁ?なんだよ突然!変態ってどういう事だよ!」
頭を叩かれたクインは、訳が判らず騒ぎ始めました。周りの兵士達もその様子に危険はなかったのかと警戒を解き始めたとき、きゅまぁが消えた方角で突然爆発音が響きました。
「なんだ?!」
「なにがあったの!」
周りにいた兵士達も含め一斉に爆発のあった方向に動き始めようとしました。
それに対し、クインが回りに怒鳴ります。
「ばかやろう!周囲を警戒しろ!エネミーサーチに引っかからん可能性がある、定期的に範囲魔法を周辺に叩き込め!」
その指示に従って周辺で炎や氷などの魔法が炸裂し始めました。
そして、その瞬間、今まで何も無かった場所に突然人影が現れました。
「敵よ!前衛前に!」
ビエラの指示に前方にいた兵士2名がすかさず前に出ます。
そして、それに前後して魔術師達が詠唱を開始しました。
その時、突然姿を現した者が慌てたように叫びました。
「ま、まってくれ!敵じゃない!敵対する気は無い!」
そう叫ぶと両手を上に上げて戦闘の意思が無い事を示します。
「攻撃待機!」
クインやビエラの後方からコルグの声が響きました。今まさに攻撃魔法を放とうとしていた魔術師達が慌てたように魔法を散らしました。
「コルグ隊長!危険です!攻撃をするべきです!」
クインの叫び声を片手で押さえ、コルグは男のほうへと向かいました。
コルグには男がフード付のマントを身につけている為、その容姿を確認することが出来ません。
ただ発動しているエネミーサーチにおいて敵対者の赤表示がされていない為、すぐに戦闘となる事は無いだろうと判断しました。それでも油断しないよう相手を直接見ることなく、エネミーサーチの表示を見なが一定の間隔を空けて相手に相対します。
「フードを取っていただけませんかな?顔もしらない相手と交渉する気はないのでね」
コルグの言葉に、その男は静かにフードを後ろに降ろしました。そして、その素顔を見た時、コルグ達は更に緊張を高めます。
「魔族の方ですね、で、侵略者が何の用ですかな?」
「敵対心がないなんて!現にこの村人達は襲われています!」
それでも冷静にコルグは相手に問いかけました。
「「「魔族だ!」」」
そのコルグ達の後方では、魔族の男を見た村人達から明らかに恐怖の色を含んだ声が聞こえてきます。
警戒、疑惑、不安、恐怖様々な思いが周りの雰囲気をどんどんと緊迫したものに換えていきます。
それでも、その魔族は必死にコルグ達に訴えかけました。
「信じてくれ!俺は敵対するつもりは無い、それどころか助けて欲しくて必死にこちらの世界に来たんだ」
その必死な様子にコルグの表情に戸惑いが一瞬浮かびます。しかし、ビエラの次の言葉に再度緊張を深めました。
「敵対する気がないくせになんできゅまぁ隊長を攻撃したのよ!」
「そういえばきゅまぁ隊長は無事か!爆裂音が聞こえたが!」
クインもその言葉に急いできゅまぁのいた方向に視線を向けます。
「攻撃なんてしてない!俺は無実だ!」
「嘘を言うな!きゅまぁ隊長はヒーラーだ!だから火の攻撃を自分で出す事など出来ない!」
それでも魔族は必死に言い訳を口にします。しかし、ビエラはその様子についに直接行動にでました。
「問答無用!」
「ビエラ!」
コルグの静止の言葉すら間に合わず、ビエラが剣を構え飛び出しました。
「うわ!」
ビエラの必殺の気合を込めた突きを体勢を崩しながらも魔族はなんとかかわしました。しかし、流れるような動作で次々に途切れなく放たれるビエラの攻撃にしだいに追い詰められていきました・
「やめろ!ほ、ほんとうに、戦う、気はないんだ!」
ビエラの突然の攻撃に心配し咄嗟に加勢しようとしたコルグも、その魔族の動きを観察してビエラで問題はないと判断してクインにきゅまぁの確認に行くように指示を出します。そして、自らはビエラと連携をとろうと前進しました。
そして、コルグの指示を受けクインがきゅまぁいた方向へ走り出したとき、その窪みの中から全身煤だらけで髪の毛すら爆発状態のきゅまぁが現れました。
「あぅぅ、酷い目にあっちゃいました・・・」
そんな事をブツブツと呟きながら、ふと顔を上げたきゅまぁは、いつの間にか戦闘を中断したビエラを含め今この場にいる全員の視線を受けて思わず仰け反ります。
そして、慌ててみんなに対して弁解を始めました。
「え、えっと、別になんでもないよ?ほら、証拠隠滅に火炎ボトルの火炎水を零して零しすぎたんじゃないからね!」
そのきゅまぁの叫びを聞いても、誰一人として言葉を発することなくきゅまぁを見続けます。
そして、その無言のプレッシャーにきゅまぁはより一層慌てだします。
「あの、べ、別にトイレの匂い消しのようにマッチを刷るとかそんなんじゃないからね!」
し~~んと静まり返ったその場にきゅまぁの言葉だけが響きます。
魔族の男もどうしていいか判らない状態で、ただただビエラときゅまぁを交互に見続けます。
「ほら、エチケットだよね!女の子だもんね!ね、ビエラ?」
ビエラも攻撃を止め、ただ自分の激情が思わぬ形で停止され、思考能力が停止していました。そして、これが思わぬ結果へと突き進みます。
自分がいくら説明しても、誰も反応を返してくれません。その為、次第にきゅまぁは涙目、涙声になっていきました。
「えぅ、ひっく!し、自然現象なんだよ?な、あんんで、み、みんにゃに、うわ~~~ん」
ついに泣き出してしまいます。そして、その状態にようやく正気に戻った一同が慌ててきゅまぁを宥めにかかります。しかし、きゅまぁの方向へとクインやビエラが慌てて向かおうと一歩踏み出したとき、きゅまぁはみんなとまったく逆の方向へと走り出しました。
「みんなのばか~~~~」
それは、とてもクインやビエラ達では追従できる速さではありませんでした。
「ま、まずい!きゅまぁ隊長を止めろ!」
コルグが慌てて叫んだ時には、きゅまぁっは誰にも追いつけない程の距離に遠ざかっていました。そして、結果的にですが、きゅまぁとコルグ達とはここで別行動となったのでした。
すいません、思わぬ方向に話が走ってしまいました。
なんでこんな話になったのでしょう・・・・きゅまぁごめんね・・・まだ流離う事になっちゃったね!
(謝るところはそこか!って突込みがきそうです)