1-13:不運な人はどこにでもいますよね
キュアリーやきゅまぁがどたばたとしている頃、イグリアにおいては遥やファリス達がコルトバの報告を聞いていました。
そして、コルトバの説明が終わりを迎えたとき、全員が厳しい表情を浮かべていました。
「やはり魔族が入り込んできてたかぁ」
「そうですね、予想はしていたといえ対応が難しくなりました」
「それにしても、コルトバ殿はよく魔族を倒せたな、貴殿を侮るわけではないが予想外の戦果です」
「だね、これは嬉しい誤算だね」
遙の言葉にコルドバは深く頭を垂れました。そして、客観的な意見を述べます。
「普通に戦ったならおそらく我々は全滅したでしょう、ただ、以前に陛下より向こうの世界の話をお聞きしていたのと、相手が油断したからこその成果です」
「うん、まさか転移魔法と相手に誤認させるとは思わなかったね」
その言葉にコルトバはニヤリと笑い、そして手に持った剣を両手で捧げ遙へと差し出しました。
「お借りいたしました剣です。この剣が無ければ不意を討ったとはいえ勝てたかどうか」
そう告げながらも名残惜しそうに剣を眺めます。
「うん、その剣は今回の報酬代わりにあげるよ」
その言葉に驚いて遙を見返すコルトバに、遙は軽く頷いた後周りを見回します。
「で、魔族が確認できたんだけどこれからどうすればいい?」
その言葉にそれまでじっと考えていたファリスが遙を見返して告げました。
「相手が転移者であろうとも不意を突けば倒せるとの証明が叶いました。あとは、倒せるだけの装備をどれだけ揃えられるかですね」
「そう簡単にいくとも思えませんが、皆さんクラスの敵が出てきた場合とても相手が出来るとは」
ファリスの言葉にサイラスが意見を述べます。
「しかし、それ以外に今出来ることはありますか?」
「ところで獣耳のほうには連絡ついた?」
「いや、連絡員は出したのだがまだ帰還していない」
「ふ~ん、でもそれって遅くない?」
遙はファリスの返事を聞き、獣人達の街とイグリアでの往復時間を考えながら顔をしかめました。
「何かあったかな?誰を送った?」
「クマッタ騎士団の兵士を2名、もちろんだが転移者ではない。それでも並みの転移者くらいの強さは持っている者達だ」
「う~~ん、判断材料が少なすぎるね」
現在の戦力を早急に立て直さないとならない状況で、獣人との交渉は必要不可欠な事でした。
その為にも防衛協定などは急ぎ結ばなくてはならない、そんな事を思いながらも実際に魔族がこの世界に入り込んでいる事が確定した以上動かせる手駒はより限られてきます。
「我が隊が向かいますか?」
コルトバの言葉に遙はしばらく悩みますが、結局コルトバは現状通りキルト方面の防衛の任務を与えました。
そして、魔族が侵入を開始した事を受け、イグリアにある3つの鉱山における武器防具の生産を改めて指示します。
「む~~それにしてもこんな時にキュアちゃんがいてくれたらなぁ」
思わず洩れた言葉に、周りの人達は笑ったりせず真剣に頷きます。
「彼女の生産スキルは貴重ですからね、まさにこんな時には」
「きゅまぁの天然レーダーに期待しちゃおう」
「はぁ、天然過ぎて何か突拍子も無い事してそうですが」
ファリスのその言葉にようやくみんなの顔に笑いが浮かびました。
「さて、みんなも急いで準備をよろしく!」
「「「了解しました!」」」
その言葉を切っ掛けに、遙も含め全員がそれぞれの役割を成すために動き始めました。
◆◆◆
ドワーフ領に進入したキュアリー達は、その後ギルの案内で行政府の会議室へと来ていました。
そして、その会議室には今、キュアリー、ベアル、キャロ、後獣人2名とルン、ドワーフ側よりギル、キャサリン、他3名が顔を見合わせていました。
「ふむ、それで馬鹿どもが近衛を送ってきたのか」
一通りドワーフ側の事情を聴いたギルがそう吐き捨てます。
そして、その様子に恐縮した様子でドワーフ3名が首を竦めました。
「こちら側に残っていた近衛8名はあたし達が倒しました。殺してはいないので、尋問も可能ですわ」
「尋問しても聞けることなど少ないだろうが、しかし今回近衛を使ったのが大きいなこれは戦になるか」
ギルの言葉にキャサリンさんが頷きます。そして、キュアリー達はただ説明を聞いているだけでただ首を右左に振って聞いているだけで何が何やらわかっていませんでした。
「キャサリン、こちらにはどれくらいの勢力がつくと思うか?」
「そうですね、乙女騎士団、近衛4番、冒険者の一部はこちらに付くかと思いますわ、第一王子には近衛1から3、王都警備、あとは近郊の貴族が味方するかと、戦力比でいっても4対6といった所でしょうか?」
「厳しいな、あとは超越者達がどちらにつくのか・・・」
「超越者?」
その言葉に今まで黙って聞いていたキュアリーが反応しました。
「ん?そちらには超越者はおらんのか?ほれ、ちびっこい子供のような姿のくせに異様に強かったり、鍛冶にすぐれた者たちの事だ」
「わたしもかつて一度だけ手合わせした事があるが、相手にもならなかったわ。あの者達は異常ですわ」
ギルとキャサリンが声を揃えて言います。でも、その言葉にキュアリーは一層確信を深めました。
「あの、こちらでは転移者という言葉はありますか?」
「転移者?しらんな」
「しりませんわ」
二人の言葉にキュアリーは確信しました。そして、その会話でベアル達も理解しました。
「なぁ、それって伝説のドワーフ娘の事だよな?ちっこくて可愛い」
ベアルの言葉にキュアリーとキャロが冷たい視線をおくります。そして、その視線にベアルは途端に挙動不審になりました。
「その超越者は何人くらいいるんですか?」
「う~む、確かな数はわからんな。彼らはわしらとあまり交流をしないからな」
「ですわ、以前は何度か私達の街へも来ていたようですけど、自活できる基盤が出来た途端に街へこなくなったんですわ」
「うむ、気のよい者もいたので、なんとか一族へ引き込みたく娘を紹介した者達もいたそうだが、なぜかその途端街に来なくなってなぁ。どれも美人ぞろいだったのだが」
「だな、ほれ美人と噂に高いゴルドのとこの長女でもダメだったらしいからな」
「そういえばキャサリンとこの乙女騎士団でも何人か振られたのがいなかったか?」
キュアリーの質問にギルとキャサリン、ドワーフ達がそれぞれ話し始めます。そして、その会話を聞くうちにキュアリーも獣人達もなんとなく彼らが引き篭もった理由が判った気がします。
「え~っと、うん、なんとなく状況はわかりました。あの、もしよければその超越者達に会いたいんですが可能ですか?」
「む、どうかな?それこそ第一王子達も動いているだろう。確か奴の所には適齢期の娘もいたからな、今頃は娘を餌に交渉をしていてもおかしくない」
「む、フローラ様か、確かに武勇も美しさも並ではない。フローラ様を嫁にできるなら超越者も味方に引き込めるか、厳しいですな」
ギルの言葉にドワーフの一人が厳しい表情で相槌を打ちます。でも、イグリアメンバーはみんな微妙な表情を浮かべていました。
「え~っとギル、そのフローラ様ってよ、どんな体型?」
ベアルの言葉にキャサリンが若干軽蔑した視線を向けます。そして、ギルも苦笑を浮かべながら答えました。
「そうだな、女性の前で言うのも憚られるが、胸も腰も、すべてダイナミックだな。あの姿に目を向けない男などいるまいな、言ってはなんだがキャサリンでも若干見劣りする」
「ふん!」
ギルの言葉にキャサリンは鼻をならしますが、否定はしませんでした。そして、その言葉にキュアリーは安堵の溜息を付きます。
「申し訳ありませんが早急に超越者の村まで案内していただけませんか?」
「ああ、ただ確実に妨害がはいるだろうからな。護衛はどうするか」
「いえ、案内を一名いただければ私達でその村までいきます」
キュアリーのその言葉に、ドワーフから無謀だ、危険だなどの意見がでましたが、最終的にはキャサリンが同行する方向で話がまとまりました。そして、最終的には獣人達からも4名の合計6名PTでその超越者たちの村へと出発する事となりました。
その夜、ギルの誘いを断って街中の宿屋で食事をしながらキュアリー、ベアル、キャロ達が今後の方針を打ち合わせします。
「う~ん、転移者達がいてくれると楽になるよね~なんとか仲間にしたいね」
「転移者の姉さんなら話が付け易いだろうさ、ただドワーフ内の争いには加担するのか?」
「どうかな?ギルは悪い人に見えないけど、情報は不足してるからね。もう少し情報が集まらないと判断できないかな?」
「ベアルさぁ、あんたはギルの味方をしたいんだろ?」
「うむ、まぁギルは悪い奴に思えないからな。キャロの言うとおりどうせならギルに味方をしてやりたいな」
「そっか~、でもとりあえず他の人にはイグリアとのゲートを守ってもらわないとだしね。当面ギル達の味方として動きながら情報収集かな?」
「まぁそれが無難だね」
「だな」
キュアリー達がそんな会話をしている時、ギルやキャサリン達ドワーフも今後の方針を打ち合わせていました。
「ギル様、彼らはどれくらい信用できるんですか?」
「わからん!だが悪い奴らではない」
「そんな不確かな!」
ギルの言葉にキャサリンと、老齢と思われるドワーフが顔をしかめます。
「ゾルよ、そう言うがまだ知り合って間もないのだ。ただ、近衛の不意打ちの際助けてくれたのは彼らだ、その彼らを信用せずにどうする」
「むぅ、しかしギル様、キャサリンを彼らに同行させるのは保険なのですかな?」
「まぁ純粋にキャサリンの武勇を頼みにしている所もある。だが、彼らとの繋がりを維持したいからな」
「それほど彼らを買っているのですか?確かに獣人はスピードと力においては強力と聞きます。それにエルフもいますから」
「そう結論を急ぐな、急いては事を仕損じるぞ。ただキャサリンには負担をかける」
そう告げギルはキャサリンに頭を下げました。
「ギル様のお役に立てるのです。わたくしは本望ですわ」
「さて、それでは明日の段取りでも考えますかな」
「ゾルすまんな」
「なんの、慣れておりますよ」
そう告げると、ゾルは静かに部屋を出て行きました。
「ゾルにはいつも無理をさせるなぁ、俺もまだまだよ」
「何を仰いますやら、その割りにギル様は楽しそうですわ」
「まぁな、退屈してた所で色々と始まりそうだからな」
そういうとギルは笑い出しました。それを微笑ましそうにキャサリンは眺め、そして自分も準備を始めるために部屋を後にしました。
◆◆◆
「ぬぅぅ!」
「はっ!そこそこLvは高いようだけどまだまだだね~」
鋭い突きがプードルにとび、体勢を崩しながらも何とかプードルは剣でその突きを受け流しました。
そして、その崩れた体勢のままプードルは地面を転がり距離をとります。
アイーシャはプードルの元へと駆け出そうとします。しかし、そのアイーシャの前にも一人の魔族が立ちふさがりました。
「おっと、お嬢の邪魔されちゃ困るね」
「邪魔だ!」
振りかぶった剣を勢いに任せて叩きつけます。でも、その魔族はその剣をいなして逆にアイーシャへと切り付けました。
「くぅ・・・」
咄嗟に剣を避けようとしたアイーシャですが、攻撃した勢いが強く避けきれずに前に出ていた右足を大きく切り裂かれ転倒しました。
「弱いねぇあんた」
魔族が転倒したアイーシャに剣を突きつけます。そして、プードルも同様にだんだんと追い詰められていきます。
プードル達の周りにはすでにイグリア兵は誰一人生き残っているものはいません。そして、その現実に合わせてアイーシャの前の魔族が更なる追い討ちをかけます。
「あ、一応だけどさ、あんたらが逃がした連中は俺が全員殺しといたから。悪いけどこっちの情報を持ち帰られると困るんでね」
「ぬおおお~~~」
その言葉が聞こえたプードルが、剣を大きく振り回し一旦距離をとります。
そして、何かアイテムを取り出しました。
「貴様ら、やはり転移者か」
「そうね、おそらくそう呼ばれている者の一人かしら」
「まぁNPCが俺たちに敵うはず無いって、これでも俺達上位プレイヤーだしね」
そんな言葉にプードルは顔を歪めます。そして、プードルと同様にアイーシャも何かを取り出しました。
「叩きつけろ!」
プードルの叫び声と同時にアイーシャも取り出した物を相手に投げつけました。
「ん?俺たちに生半可なアイテムは効かないって」
プードルとアイーシャが投げつけた物は魔族二人の足元に叩きつけられます。
「おや?何をって、え?!」
その瞬間、二人の足元が金色の光に包まれます。そして、光の中に何かが現れ咄嗟に魔族二人はその物に攻撃を仕掛けました。
ガキン!
ギャルル~~
剣が弾かれる音と同時に、重低音の叫び声が聞こえました。そして、その叫び声を聞いた瞬間、プードルは魔族を無視してアイーシャへと駆けつけました。
「くそ!何が起きてる!」
剣を弾かれた瞬間、魔族は急ぎ後方へと飛びのきました。そして、目の前にいる物の姿を確認します。
すると、目の前には太い足が見えました。そして、視線を上に上げていくとそこには蜥蜴のような頭がありました。
「ばかな!こんな処でドラゴンだと!」
「暗黒騎士!なんで!」
二人の魔族が揃ったように声を上げました。そして、その声に反応したようにドラゴンと暗黒騎士が襲い掛かります。
「まさか!混乱の金か!くぉ!」
魔族の一人がなぜこんな場所にボスクラスの魔物が現れたのか思い当たります。そして、自分が咄嗟に攻撃を行ったため敵認定をされた事も気がつきました。
「カミラ!まずいぞ!」
「うるさい!」
それぞれが必死に攻撃を掻い潜りながらもスキルで相手を倒そうと動きます。しかし、本来上級プレイヤー達がPTを組んでなんとか倒せるクラスの相手のため、決定打を与える事などできません。そして、合わせて同時に相手から逃げる事も至難の業となっていました。
魔族達が魔物との戦いに没頭されている間にプードルは急いでアイーシャにHPポーションを飲ませていました。そして、足の傷が治ると同時に撤退を決めます。
「アイーシャ、引くぞ!」
「でも、この状況を利用すれば」
「俺たちではどちらが生き残っても勝てん、それに今の状況を陛下に伝えるものがもうおらん」
プードルの言葉に少し躊躇ったアイーシャですが、それぞれ移動速度アップのポーションを飲み撤退を開始しました。ドラゴンや暗黒騎士と戦っている魔族達はその動きを気にする余裕も無く、なんとか自分達も撤退しようと必死に動きます。いくつかのポーションを飲み、なんとかカミラが暗黒騎士の敵対認識エリアから脱したとき、今まで相手をしていた暗黒騎士がドラゴンと戦っている魔族へと攻撃を向ける姿が見えました。
「畜生!総一郎は持ち堪えれないな」
そして、遠目に暗黒騎士の剣が総一郎の背中から胸へと突き刺さり、その後ドラゴンのブレスに飲み込まれるのが見えました。
「あ~~~あ~~~、こんちくしょう!NPC如きにやられるとは!どうするか、追いかけるか!」
カミラはプードルとアイーシャが向かったであろう方向を見ながら、思案しました。
「駄目だな、まずは報告に戻るか」
そう言うと魔族領の方向へと走り始めました。
ドラゴンと暗黒騎士は戦う相手を求めしばらく周辺を彷徨い、そして召還から1時間の時間切れで消滅しました。
そして、その消滅までの間に更に一名の不運な魔族が倒されていたのは誰も気がつきませんでした。
あけましておめでとうございます。
気がつけば前回投稿してもう1ヶ月に!
今までで最長の間隔が空いてしまいました><
もう少し小まめに投稿できるように黒豆を一杯食べました!
その効果はでるでしょうか?