1-11:ドワーフ女性を見たことありますか?
バルとのほのぼのとした交流?をひとまず終えて、キュアリーはまずドワーフ領へと行ってみたい旨を提案しました。あの兵士たちがこちら側へと来たという事でドワーフ領がどのような状況になっているのかを把握する為にも一度ドワーフ領を見てみないとと言うのが提案の主旨です。
滔々と理路整然に説明するキュアリーに対して、話せば話すほど回りの視線が怪しくなってきます。
「あの、なんでみなさんそんなに疑わしい眼差しを向けてくるんですか?」
「いやぁ、姉さんが余りに流暢に説明するからこれは嘘だなと」
「だな、どう考えてもただせいぜい見てみたいだけとかだよな」
バルとベアルの言葉に周りにいる男たちも一斉に頷きます。
「酷!みなさんあたしをそんな風に見てたんですか!」
「いや、それ以外どう見ろと?」
「だな」
「酷!」
更なる追い討ちによろめくキュアリーをいっさいまったく無視して、バルが真剣な顔で聞きます。
「で、結局は見てみたいだけなんだろ?」
「当たり前じゃないですか!」
「「「はぁ」」」
一斉にため息を吐く男たちに、キュアリーは必死に言い訳を始めます。
「ちょ、ちょっと待ってください。行った事のない場所が目の前にあれば見てみたいですよね?特に障害もなく行けるんですよ?新天地なんですから、もしかしたら新しい出会いがあるかもですよ?早い者勝ちかもですよ?!」
「む!」
呆れた顔つきで眺めていた男たちは、突然顔色を変え目を輝かせます。
「「「出会いか・・・」」」
奇しくも今ここにいる男達の声が重なります。
そして、その事にみんなが気がつき、お互い顔を見合わせます。そして、探るような、牽制するような眼差しへと次第に変化していきました。
「あ~~、そうだな、偵察は必要だな。よし、俺が行ってこよう」
「ベアル、お前はこの村で重要な位置にいるんだ、そんなお前に行かせるわけにはいかん、俺が行こう」
「いや、俺が!」
「馬鹿やろう、危険だから俺が!」
もう誰が発言しているのか判らないぐらいにみんな其々が声を上げ続けます。そして、その様子をまったく無視してバルとキュアリーがコソコソと会話をしています。
「そしたら一旦ドワーフのみんなと、あたしで向こう行くでいいよね?」
「そうだな、こっちに今いる連中は信用できるからな、あっちがどうなってるのか判らんだけに全員で動いた方がいいだろうな」
「バルはこっちに残っていたほうがよくない?」
「そうも行かないだろうよ、俺でないと進められない話もあるだろうしな」
「う~ん、ま、とりあえず行こうか」
騒ぎの合間を縫ってキュアリーとバル、そしてドワーフ達がそっと通路へと足を踏み入れます。
ただ、流石にドワーフ全員が動いたことにより今の今まで騒いでいた獣人達にも気がつかれてしまいました。
「あ!汚ねぇ!抜け駆けだ!」
「何!おい待て!俺も行くぞ!」
「俺もだ!」
獣人たちは一人が動き出すのと同時に一斉に狭い通路へと押しかけましす。
そして、広いところから狭い通路へと人が流れ込むと、それはそれは大変なことになってしまいます。
「うむ~~狭いぞ!」
「通れん!」
「おい、後ろの奴押すな!」
はじめに動いていたため難を逃れたキュアリー達が呆れたように眺める前には獣人団子が出来ていました。
「うわ~~、この中には絶対入りたくないですね」
「暑苦しそうだな」
「これで圧死なんかしたら死んでも死に切れませんね」
そんな事を話している傍らでは、心優しいドワーフが前の方にいる男たちを何とか引っ張り出そうとしています。
「あっちが安全かを確認しないと無闇に送り込めんのだが」
「送っちゃってもいいんじゃない?」
無責任な発言をするキュアリーを見て、再度溜息を吐いてバルはドワーフ領へと向かって歩き始めました。
「あ、まって、先頭はあたしが行ったほうが良いと思う。エンジェルリング!」
突発的な事態に対しての防御魔法を唱え、キュアリーはバルを追いかけて走り始めました。
そして、ルンも後を追うように走り出します。その後ろでは、未だに自分が先に行こうと引っ張り合って団子から抜け出せない獣人たちが何か叫んでいました。
「俺も連れてってくれ~~」
「パラダイスが~~~」
いつの間にか勝手にドワーフ領がパラダイスへと脳内変換され、そしてそれが広まっていました。
◆◆◆
「予想はしていたが、ある意味予想外だったな」
聞いた人が首を傾げそうな言葉を呟き、コルトバは眼前の状況を眺めました。
コルトバの前では、キルトへと伝令に向かった一名を除く4名のPTメンバーが緊張した面持ちで武器を手に壁を作っています。
そして、その彼らの前にはつい先ほどまでは無害と思われた村人たち約30名が村長を先頭に詰めかけていました。
同行していた3PTをチト村へと偵察に派遣した後、現在滞在する名もない村を当面の防御拠点へとする為柵を作り、溝を掘りながらも陣地構築を急いでいました。しかし、日が落ち始めた段階で村の四方に篝火を焚き村人へと警戒を任せて村の中央の集会所へと腰を落ち着けた一同が今後の打ち合わせをしようとした時、突然回りの状況が一遍しました。
メンバーでエネミーサーチを交互に発動し状況を常に監視していた為、突然自分たちの周りが敵だらけになったのです。そして、慌てて集会所を出るとその眼前では敵となった村人たちが次々と集まってきています。
そして、その先頭にいる村長の出す気配は昼間のものとはまったく違っていました。
「村長よ、お前人ではないな」
油断なく剣を構えながらコルトバは村長を睨み付けます。
「ほっほ、一応目端は利く様だ。魔族のレンブラントと申します。コルトバ殿お見知りおきを」
「ふん!魔族が真面目にいたとはな。で、魔界との通路でも出来たか?」
「さて、わたしを倒せたらお教えしましょう」
「死んだものからどう聞き出せと?」
「ふむ、確かに。ではヒントだけですがお教えしますかな。まもなく私ども魔族の時代が参ります」
「意味がわからんな、まぁ良い。お前は転移者か?」
「良くご存知で、一応転移者の末席におりますよ」
コルトバと会話していたレンブラントはそこで実に酷薄な笑みを浮かべました。
「おそらくあなた達NPCでは相手になりませんな」
「気持ち悪いRPGをするもんだな。だが、俺たちも早々やられはせんぞ!」
そして、その言葉をきっかけにコルトバ達は一斉に腰につけていた何かを取り出し足元に投げつけました。
そして、その瞬間周りに強烈な輝きが包み込みます。
「く!光系アイテムか?!」
レンブラントは一瞬光によって目が眩み、不意打ちを避けるように大きく後方に飛びのきました。
そして光が消え、目の前を油断なく見据えたレンブラントは、すぐに呆然とした表情をします。そして、一応周りを確認した後叫びました。
「ありえね~~戦闘もせず逃げやがった!っていうか転移アイテムなんてあるのかよ!」
そんな叫び声を魔族が上げていました。でも、それを聞いている村人は虚ろな目をして誰一人それにコメントする者はいませんでした。
「くそう、いい経験値になったと思うんだがなぁ、しかし、転移アイテムかよ、欲しいぞマジで」
ひとしきり叫んで気が晴れた魔族は、村人を見回して溜息を吐きます。
「使えね~、せっかく苦労して操り人形にしたのに、次あいつらが来てもまったく意味無いじゃねぇか」
先ほどまでとはまったく違う言葉遣いでブツブツと呟きながら、次の行動を思案した時突然背中から何かがぶつかり、そして背中と胸に焼けるような痛みが走りました。
「くはっ・・・、な、なにが・・・」
胸元を見ると、心臓のあたりから剣が飛び出しています。そして、後ろを振り向こうとした瞬間、首筋に焼けるような痛みが走りました。
そして、視界が一瞬上へと跳ね、そして落下していきます。その瞬間、魔族の目には先ほど消えたはずのコルトバ達の姿が見えました。
「ファイア!」
そんな言葉が遠くで聞こえた気がした瞬間、目の前が真っ赤に染まり、そして魔族の思考も、視界も闇へと消えていきました。
目の前で魔族が胸を貫かれ、更には首を跳ねらた後、炎を上げて燃え尽きていく様子を眺めながら、コルトバ達は周りの住人達からエネミー反応が消えていくのを確認しました。
「いやぁ、さすがですね。こんなに上手くいくとは思って無かったですよ」
副官がそんな事を言いながら首を切り落とした剣を鞘に収めています。
そして、コルトバ自身も胸を貫いていた剣を鞘に収めました。
「前にユパ様から聞いたことがある、転移者たちは昔自由に拠点に帰る事が出来たとな。それでこの発光石とステルスの同時使用を思いついたのだ」
「はぁ、さすがは隊長ってとこだと思うんですが、よくこんなマント用意できましたね」
「備えあれば憂いなしだ」
「いえ、聞いているのはそういう事じゃないんですが」
相変わらず言葉が通じているようで通じていない隊長に、副官は何時も以上に疲れを感じながらも部下達に村人たちの状況を確認させていきます。
「どうやら衰弱はしてますが死んでいないようですね」
「ふむ、とりあえず集会場に全員集めておくように。俺は結界石の状態を確認してくる。それと、夜明けとともにキルトヘ戻るぞ。魔族確認の報告にいく」
「了解です」
命令を出した後、結界石の確認に行くコルトバの後姿を見ながら、副官は魔族との戦闘のあとよく平気で一人で歩けるなと呆れたように思いながら、部下の一人にコルトバと同行するように指示を出し、自分は村人達を集会場へと運び始めました。
ドワーフの女性はどんなお姿なんでしょう?
次回へ向けての宿題になってしまいました。
背丈は低いのでしょうね、でもイメージは日本の母みたいな?