プロローグ
プロローグの為、設定が書き込まれておりちょっと長めのプロローグです。
題名は、悩んだ末思いつかなかった為仮となっております。
いずれ変更するかもしれません。
長老の名前を直しました。ご指摘ありがとうございます。
この世界が2度目の大きな転換を迎え、イグリアを中心にして戦争の抑止力として、経済の活性剤として、なにより農業の発展を担っていた転移者達の大多数がこの世界から消えてからすでに10年の月日が流れていた。
イグリアでは、国王であった秋津洲を含め、転移者で作られていた騎士団の主要メンバーが異界へと戻って行き多くの混乱を生み出した。ただ、幸いな事にユーステリアでは国内で内乱が発生、イグリアへと再度侵攻する事は敵わなかった。又東の大国ジスペント、西の大国マリイナでは情報の真偽を確認するに留まりイグリアは混乱の中でも一応の平和を維持し続けていた。
そして、一月もすぎると各国はそれぞれ戦争を始めるなどの余裕が無くなっていった。なぜなら、各地で以前とは比べ物にならないくらいの魔物の発生が確認され始めたからで、そして、魔物の少ない時代を生きてきた兵士達では到底相手に出来ないほどの魔物も多数現れ始めたのだった。
各国はそれぞれ軍隊を動員して、魔物の討伐に当たるが当初予定していた以上の被害を出し人族の生活領域が大幅に削られ始めたのだった。
そして、これに歯止めを掛けたのが、イグリアで転移者達の残していった冒険者省の存在だった。
転移者達と共に戦い、それぞれ魔物との戦い方を身につけていた冒険者達は的確に魔物を狩り、そしてその存在は自然と各国に広まり始めていた。
そして、かつて転移者達が自らの集まりをギルドと呼んでいたように、いつしか冒険者達は国を超えてギルドを組み、冒険者省は国の管轄を自ら離れ冒険者ギルドと呼び、呼ばれるようになっていった。
その冒険者ギルドには、未だに転移者がいるなどの噂はある、ギルドを統括するギルドマスターは転移者だ、何々村を救った冒険者は転移者だった、などの噂は多数流れるが、事の真偽を確認した者達はいない。
そんな世界情勢の中、キュアリーはコルトの森へと戻ってきていた。
キュアリーはこの世界に残る事を決め、その後ラルクの街の家に向かい、そこで一月ほどの月日を過ごした後、またこのコルトの塔へと戻ってきた。
なぜなら、当初ラルクの村での生活を考えていたキュアリーだったが、キュアリーがラルクの森にいるとの情報を得たイグリアが動き出すのにそれ程日にちは掛からなかった。
イグリアは、各地に兵士達を送りこの世界に残った転移者達の情報を必死に集めようとしていたのだ。
その為、転移門の存在しないラルクの村に対しても2日後には調査隊が到達していた。
そして、キュアリーの存在に気がつき、王都へ招聘しようと動き始めたのだった。
又、この情報を聞いたエルフの森の長老であるアルルは、すぐさまキュアリーの下へと使者を出しエルフの森へ保護しようと動き始めた。
ちなみにアルルがこの世界に残留した事に対し、1年ほど過ぎたある日側近となっていたサイアスが聞いた所
「このわたしがなぜこの楽園を去ると思ったのだ?あの世界にはエルフはいないのだぞ?」
と不思議そうな顔をして逆に尋ねられたと言う。
この転移者確保の動きは他の各国においても知る事となり、更にはユーステリアにおいてはキュアリーがエルフの巫女との誤った?情報も伝わりラルクの村にいる事が難しくなったのだった。
しかし、一旦はエルフの森へと保護されたキュアリーであったが、その半年後にはエルフの森を出てこのコルトの森へと帰ってきていた。
コルトの森へと帰ってきたのはエルフの森の木々が、未だにキュアリーをコルトの森のエルフと呼び、又、エルフとはいえ集団で生活する事に今ひとつ耐えれなかったという理由もある。いつの間にかキュアリーをエルフ達も巫女姫と呼ぶようになったのが大きな原因の一つでもあるのだが。
そして、10年の月日が流れ、コルトの森も以前の枯れ果てた死の森とは思えないほどに緑溢れる森へと変貌を遂げようとしていた。
マナの活性地である事が原因なのか、それともキュアリーが気の向くままに作った植物活性剤の影響なのか、キュアリーは本来はありえない速度で育っていく木々をみて最初は驚きに目を見張っていた。それでも、次第に森から木々の喜びの声が聞こえ始めるとこの地に根を張る事を決断したのだった。
しかし、コルトの森へは度々王都からの根強い勧誘が後を絶たず、又、定期的にエルフの森からも様子を見る為の使者が訪れている。この事に対し中々悩みが消えない現状があった。
ただコルトの森の木々はキュアリーの意思を尊重し、迷える森へと変貌を始めていた。そして、それに合わせるかのように魔物の数が増え始め、この為容易に辿り着く事の出来ない不可侵の森へと姿をかえていったのだった。
「それなのに、あたしはなんでこんな所にいるんだろう?」
言葉にちょっと疲れを感じさせながら、キュアリーは傍らに蹲るルンの頭を撫でながら溜息をついた。
「ヴォン!」
キュアリーと違って、ルンは頭を撫でられ嬉しいのか元気良く答えます。
今、一人と一匹がいるのはコルトの森の中とはいえ、キュアリーの家のある中心からは遥かに離れた北端に位置する場所であった。
そして、一人と一匹がこの場所になぜいるのかというと、端的に言えば自分の家から逃げ出したのです。
コルトの森が次第に回復していくにつれて、どこからともなく逸れエルフや、迫害や貧しさから追い立てられた獣人、そしてキュアリーの警護も兼ねたエルフの森からの移民など、ここ数年であっという間にキュアリーの住む家周辺が開発、開拓され村が出来てしまったのだった。
ましてや、エルフの森からの護衛の存在や、以前からあったエルフの巫女説などが憶測に憶測を呼び広まり、何処にいても注目を受ける存在になってしまったのだった。
そして、その状況についに耐え切れなくなったキュアリーは、ついに逃亡を計画したのだった。
「あたしはのんびり暮らしたいだけなのになぁ」
最初は、コルトの森を出てとも考えたキュアリーではあったが、はっきり言ってこの世界でキュアリーの土地感のある場所などしれている。又、まったく自分の知らない場所へ行くのは不安が強い。この為、妥協案として人の来ないコルトの森の北側へと進んだのだった。
「たしか、この先に小さな山があったよね、鉄鉱石とか採れたはず?そこで暮らすしかないなぁ」
もうすでに薄れ掛けたMMOの記憶を掘り起こしながら、なんとか暮らせそうな場所を思い起こしていく。
「さて、もう一頑張りだね、ルン行こうか」
そう言ってキュアリーは再度歩き始めた。
しかし、MMOの時代とはすでに最低でも60年は異なる事、更にはその間に幾度も戦争があった事、コルトの森が一度は壊滅していた事などすっかり頭から抜け落ちていたキュアリーはこの先で当初の予定が大幅に変更を余儀なくされるのであった。
キュアリーがそんな家出を慣行した頃、コルトの村ではキュアリーの護衛を主任務としていたサイアスは顔を真っ青にしてドタバタと村を走り回っていた。
「おい!見つかったか!」
サイアスは前から走ってくる同じエルフの森から来た兵士達に声早に詰問する。
「いえ、お姿を確認した者はおりません。村の出入り口でも確認しましたが、村を出られた形跡はありません」
その言葉に若干安堵の顔を浮かべ、サイアスは兵士達に指示を出す。
「それならば早く見つけ出すのだ、あの大きなルーンウルフを連れておられるのだ、そうそう隠れる場所は限られてくる!」
「「「は!」」」
指示を受け村中の捜索を開始する兵士達を見ながら、サイアスは溜息を付く。
「探さないで下さいの置き手紙だけで何処へ行かれたんだあの方は・・・、何か御身にあったらどうされるつもりなんだ」
そして、サイアスも再度キュアリー宅に隠れる所はないのか、更には何か手がかりが無いのかを調べる為に村の中心へと戻っていった。
この後、いくら探してもキュアリーどころかルンすらも見つからず、村の外へと出かけた以外考えられないと結論がでたサイアスは、呆然とした表情を浮かべた後、あわててエルフの森のアルル宛に伝令を走らせたのだった。
又、コルトの森には基本的にキュアリーを害する意識のあるものは、森の精霊達がそれを知らせる為住む事は出来ないが各国や各集団はキュアリーの動向を知る為にそれぞれ数人の調査員を送り込んでいた。
この為、その調査員達はそれぞれの主となる者達に一斉に連絡を飛ばしたのだった。
”エルフの巫女がルーンウルフを伴いコルトの森を立つ”っと
そして、この微妙に間違った連絡が各地に様々な騒動を引き起こす事となる。そして、キュアリーはそんな騒動が始まっている事など想像もせずに安住の地を探して、あくまでコルトの森の中を彷徨っていた。
「微妙に方角がわからないな~あっちかな?」
「ヴォン!」
「あ、ルンもそう思う?暗くなる前に宿営地は決めないとだね」
のんびりとそんな事を話しながらもエネミーサーチとルンの気配察知を存分に働かせながら一応の目的地である山へと近づいていった。
そして、そろそろ山が見えてもおかしくない場所まで来ているはずなのだが、いまだにそれらしい景色が見えない為怪訝な気持ちが出てきていた。
「あれ?もしかして又方角間違えた?」
「クゥン?」
「あのね、こっちに山があるはずなんだけど見当たらないの」
キュアリーとルンがそんな事を話しながら先に進むと、エネミーサーチに白い点が複数現れました。
「ん?ノンアクティブ?それとも人?」
キュアリーがノンアクティブやNPCがいるような場所ではないのに?っと疑問を浮かべながらも森を更に進むと、そこには巨大な穴が存在していました。
「うわ~~~なにこれ!山どころかおっきな穴があるよ!」
「ヴォン!」
自然に出来た谷などではなく、明らかに人の手で作られたと思われる巨大な穴を見下ろすと、所々に階段や横穴が作られていて、更には無数の人がせっせと作業を行っているのが見えました。
「ん?ここってもしかして鉱山っていうか山じゃないから坑道?でいいのかな?」
そんな事を思っていると、横から誰かが近づいてくるのを感じました。
「お~~い、あんた何してるんだ!」
大きいけど、どこかのんびりした感じの響きを持つ声にその相手を眺めると、そこには体長2メートルは越す巨大な熊が洋服を着て、二本足で歩いていました。
「ファンタジーでは良くある話だけど、洋服を来た熊って可愛いっていうより怖いだよねぇ」
キュアリーはそんな場違いの事を思いながらその人を眺めていると、その熊さんの声を聞いた為か更に二名ほどの人が走ってくるのが見えました。
「おや、エルフか」
「えっと熊人?でいいの?かな?」
「ん?俺はどっからどう見ても熊人以外に見えないと思うが?」
その熊人の後方から来るのは、ネコ耳バッチリのごついおじさんとウサ耳バッチリの同じくむさいおじさんでした。
ネコ耳とウサ耳なのに熊人と変わらない筋肉隆々の姿に衝撃を受け、思わず目眩がしたキュアリーは傍らのルンへとすがりつきました。
「うう、あの姿で筋肉ピクピクさせてるのは視覚の暴力だよ」
そんなキュアリーを余所に、そのおじさんトリオはキュアリーを囲むような形で声を掛けてきました。
「なんだエルフか!ベアルが大声を出すから何事かと思ったぞ」
「うむ、また人族がいらぬちょっかいを掛けに来たのかと思ったぞ」
「いや、そこのエルフがなにやら掘穴を身を乗り出して覗いてたんでな、気になって声を掛けてみただけだ」
そう言うと3人の視線がキュアリーへと集中する。
特に威圧的な視線ではなく、ただ言葉そのままに不思議そうな視線だった為ルンもキュアリーも大きく警戒する事無く恐る恐る3人に声を掛けた。
「あの、あたし達は前にこの辺に山があったはずで、それでそこを目指していたんです。迷っちゃったみたいですけど」
キュアリーの言葉に、3人は顔を見合わせました。
そして、熊人のベアルがキュアリーに問い掛けました。
「エルフのお嬢さん、前っていうといつぐらいかな?この辺に山なんてありはしないが」
「え?あれ?MMOとは違うのかなぁ、えっと大体60年くらい前だと思います」
キュアリーの言葉を聞き、獣人3人は驚いたような表情を浮かべています。
「「「あんた俺より年上か!」」」
3人の声が見事に重なって聞こえました。
驚く男3人を見ながら、キュアリーはこのおじさん達より年上って何だかすっごく嫌!って思いつい珍しく怒鳴り声をあげました。
「女の歳を口にするな!」
「ヴォン!」
同じく女であるルンも同意の声をあげています。女二人の冷めた視線を受け、同様の広がる男たちはとりあえずこの場所を移動するように提案してきました。
男達に案内された場所は、この鉱山?鉱谷?で働く人たちで作られた街でした。
規模はそれ程大きくなく、ベアルさんが言う所によると常時滞在している人は30人程との事です。
「で、お嬢ちゃん・・・じゃないなぁ、おばさn・・・、えっと、そのなんだ、あんた名前はなんだ?」
一瞬、まさに殺る気を放出したキュアリーに男は溢れ出す汗をハンカチで拭いながら名前を尋ねてきました。
「人に名前を尋ねる前に自分がまず名乗るって教えられなかった?」
温かみのまったく感じさせない声に、顔を引き攣らせながらも熊人が名乗りをあげます。
「お、おう、俺はこの村で警備を担当しているベアルだ、見ての通り獣人だ」
「俺はウルズ、同じく獣人だ」
「わたしはラビド、同じく獣人だ」
「あたしはキュアリー、見ての通りエルフよ」
お互いに自己紹介が終わると、辺りに沈黙が漂います。
お互いにこの状況で何をしたら良いのかの判断がつかなく口を開く事が出来ないようでした。
「あ~~、なんだ、キュアリーさんは何しにこの谷へときたんだ?」
「鉱石が欲しくて来たのと、あと、こっちはあんまり人が来ないから静かに暮らせるかなっていうのが理由かな?まさかこんなに人がいて山が無くなってるとは思わなかったけど」
キュアリーの言葉に、ベアル達3人はお互いの顔を見合わせました。
「ん?どうかした?」
その様子に疑問を感じたキュアリーは咄嗟に質問をします。
「いや、エルフのあんたが鉱石なんて何に使うんだろうなってな」
「へ?鉱石だから普通に道具を作る行けど?」
「は?エルフが?」
中々話が噛み合わない状況のもと、ようやく話の糸口が繋がるのに更に時間がすぎました。
「まぁ、とりあえず60年くらい前なら確かにこの辺は鉱山だったな。まぁ実際見た事はないのだが」
「ドワーフと共に鉱石が豊富な地域が消失して、それで数少ない鉱山はいまではどこも穴だらけさ。まぁドワーフなぞ見た事無いがな」
「昔はその大陸で様々な鉱石が取れたそうだよ、ミスリル、アダマンタイトなどな。まぁ名前しかしらんが」
3人はそれぞれ思い思いの話をします。ただ、最後に一言余分な気がするキュアリーでした。
「ん~~おかしいなぁ、ここでもミスリルくらいは採掘できたはずなんだけど、掘り尽くしちゃったのかな?」
「「「なんだと!あんたミスリルを見たことあるのか!」」」
「え?いえだって、この腕輪とかミスリル製だよ?」
「「「おおお~~~」」」
3人はキュアリーの腕をとってまじましとその腕輪を見詰めます。
でも、その光景は第三者からみるとおそらくすっごく異様な光景でしょう。小屋に入ろうとした若い猫族の人が中の様子を見てそのまま扉を閉めて帰って言ったことからも想像できます。
「ちょっと!手を離してください!」
必死に手を引っ込めようとするキュアリーを余所に、3人はしっかりと腕を掴んで話そうとしません。
そして、そのキュアリーの様子に怒ったルンが、大きな声で吠えました。
「「「うわぁ!」」」
その吠え声でようやく手を離した3人は、まだ未練の残った眼差しをその腕輪へと注いでいます。
ゴホン!
「いや、しかし、なんだその、そのミスリルだが譲って貰えはしないよな?」
「「おい!抜け駆けは「お断りします」よせ!」」
「「「え~~~~」」」
「え~~って歳ですか!むさっ苦しいです!」
もはや忍耐度も0になったのかキュアリーも段々と態度が横柄になってきました。
「むさっ苦しくなどないぞ!俺はワイルドなんだ!」
「ワイルドの意味を調べなおしてから言ってください!」
「おい!この女すっごい失礼だぞ!」
「うむ、失礼だな」
「ふ、女子供には真のワイルドはわからんのだよ」
「「だよな!」」
頷きあう男達に、キュアリーは呆れた顔をします。
「でも、それだと女性にもてませんよ?」
「「「!!!」」」
今始めて気がついたというように表情に絵に描いたような驚愕を浮かべる3人を見て、キュアリーは思わず溜息を吐きました。そして、3人にこんこんと駄目だしをします。
「うう・・・頼む、これ以上は・・・」
「俺、もう復帰できんかもしれん」
「・・・・・(パタリ)」
机の上に突っ伏す3人を見て、キュアリーはさすがに言い過ぎたかと反省します。
「まぁ、もう30は過ぎてるでしょうから」
「「「俺たちはまだ20代だ!」」」
「え~~~~」
「いや、あんたもいい年を・・・」
ギロッっと睨み付けるあたし、そして、しばらく睨めっこをしたあと、4人揃って溜息を吐きます。
「話が進みません、話を元に戻しましょう」
キュアリーの提案にみんなが頷きますが、そこで再度話が振り出しに戻ります。
「で、何の話でした?」
「「「さぁ?」」」
再び沈黙が広がります。そして、その沈黙を打ち破るように外で人の叫び声が響き渡りました。
「「「「ん?」」」」
4人揃って顔を見合わせた後、小屋の外へと出ると、村の入口でなにやら悲鳴や、剣戟の音が聞こえます。
そして、所々で魔物といった声が聞こえます。
「まずいな、魔物が出たのか」
ベアルは傍らに置いてあったバトルアックスを手にとり、村の入口へと走り出しました。そして、他の二人もそれぞれ得物を手に走り出します。
キュアリーとルンは、しばらくどうした物かと迷った後、3人の後を追いかけ始めました。
村の入口付近では、数人の男達がそれぞれ剣や槍を構えて前を睨んでいます。そして、その後ろでは傷ついた男達を数人の治癒士と思われる人が必死に治療していました。
ただ、村の入口が狭すぎて、数人ずつでしか戦闘が行えないようになっていて、その為に逆に自分達が次々倒される要因になっているようでした。
「状況はどうだ!」
「ベアルか!オークだ、俺たちだと荷が重い!頼む!」
「おう!まかせとけ!」
道を開けた男達の間をベアルが突き進んでいく。そして、前方で槍を突き出しオークを牽制していた男と入れ替わるようにして前に出た。
そして、オークと互角に剣戟を交わしていくのを見ながら、キュアリーは後ろで怪我をして倒れている男達のほうへと向かいました。
「いてぇ、ちくしょう!」
「ち、血がとまらねぇ」
数人の重傷と思われる男達の傍に近寄ると、治癒魔法がすでにMP切れしたのか、治癒士と思われる男が必死に怪我の部分にガーゼらしい物を当て血止めをしようとしていました。
「すいません、ちょっと離れてください。治癒します」
キュアリーの声に振り向いた男の傍らに立ち、キュアリーは傷の部分に手を翳して治癒魔法を唱えました。
「メガヒール」
魔法と共に傷が治っていくのを確認したキュアリーは、すぐに次の人へと移動します。
そして、一通りの人を治癒した後、村の入口へと視線を向けると、オークとの戦闘はベアルの勝利で決着を迎えていました。
「おお!あんた治癒士だったのか、悪いな助かったぜ」
戻ってくるベアルを見て、キュアリーは最初から気になった事を確認します。
「あの、あなたたちはなんでオークを村の入口内に引込んでみんなで滅多打ちにしないんですか?わざわざ一対一にしなくてもいいのでは?」
キュアリーの言葉に、ベアルが呆れたような顔をしました。
「あんた戦闘ってものが解ってねぇな、戦闘ってのは一対一で力の限り戦ってこそ楽しいんじゃねえか、大勢でなんてつまらん」
周りの男達も賛同の声が聞こえます。そして、その様子を感じてカルチャーショックのような衝撃をうけました。
「あの、それって真面目に言ってます?」
「ん?俺はいつでも真面目だぞ?」
そのドヤ顔を見て、キュアリーは説得をしようとしていたのを諦めました。
「そいつらに何を言っても駄目だよ?頭の中まで筋肉だから」
周りにいる獣人達のなかから、小柄な猫の特徴を色濃く持った獣人が前に出てきました。
「貴方は?」
若干氷のように冷たい響きを感じさせてキュアリーはその獣人の豊満な胸を見詰め、そして視線を顔に移しました。
そして、その響きになぜかベアル他の獣人がすっと後ろに後ずさった気がします。前に出てきた獣人もなぜか顔を引き攣らせています。
「え、えっととりあえずあたしらは敵じゃない、よね?」
「ええ、もちろん敵じゃないですよ?(もげろ)」
「え~っと、今何か最後に呟かなかった?」
「別に」
「あ、その、わたしはホウマって言うんだ、見ての通り猫族さ」
「あたしはキュアリー、エルフです。(豊満ですか、嫌味ですか?)」
さらに温度が低くなったように感じるのか、周りの男達が腕を摩ります。
「みなさん、どうしたんですか?こんなに暖かいのに腕を摩ったりして、可笑しいですね」
「あ~~、その、な、まずは村の集会所へ行こうや」
発言をしたベアルに一斉に視線が刺さり《・・・》ます。
思わずその圧力?または痛み?に顔を青くして後ずさるベアルを無視して、キュアリーも同意をしました。
「そうですね、ここにいてもしょうがないですよね」
「ヴォン!」
居心地の悪そうに伏せた格好のままソワソワしていたルンも、やっと同意の鳴き声を上げ、圧力から開放された嬉しさからか尻尾をぐるんぐるんして立ち上がりました。
「うん、ルンもそう思いますよね?」
実に器用にルンは溜息を付くと、歩き出したキュアリーについていきます。
そして、そのキュアリーの後ろからみんながゾロゾロと歩き出して少しして、急にキュアリーは立ち止まりました。
「ところで、集会所ってどこですか?」
「「「「知らないで歩いてたのか!」」」」
みんなの声が村全体に響き渡りました。
◆◆◆
その頃、イグリア王都ではキュアリー出奔の報告に王宮は上よ下えよの大騒ぎになっていました。
「あっちゃ~~、出奔しちゃったかぁ、見張ってたの誰よ、お仕置きしちゃうぞ!」
「あんたがそんなだからこっちに引込めなかったんでしょうが!」
「フェリス~~あたしこれでも一応王様だよ?態度考えないとお仕置きしちゃうよ?」
「で、国を崩壊させますか?わたしがいなくてとてもイグリアを統治できますか?」
「で、できるもん!」
「いえ、もんってあなた歳幾つですか」
「うるさい!歳をいうな~~~!とにかく騎士団出してもいいからキュアちゃんを探し出せ!」
「了解です、他国に取られでもしたら洒落になりませんからね」
王宮の皇帝執務室で怒鳴りあう二人を見ながら、ブラッドラブリー二代目ギルマスとなったエリーティアはなんでこの世界に残っちゃったかな~っと複雑な顔をして二人を見ていました。
◆◆◆
イグリアより少し遅れて、ユーステリアにおいてもキュアリー出奔の情報は届いていた。
そして、ユーステリア第二の都市であるキエフにおいてキュアリー出奔の情報は第一級の緊急情報として届けられていた。
「オルトナ!エルフの巫女様が出奔したのは間違いないのか!」
「はい、新に入りました情報によればまず間違いないかと」
かつて、第三公女と呼ばれた少女も、その後ユーステリアを二分する戦いの末ユーステリアの半分を占拠し神聖ユーステリアという国を立ち上げていた。そして、その影にはイグリアの支援が存在してたとはいえ、今ではユーステリアをかつて支配していた人類至上主義の教会を自らの統治地域より排除し、新に自らを教主とするエルフの巫女を神の使徒として仰ぐ新たな宗教国家を築き上げていた。
この事により、未だに旧ユーステリアと新ユーステリアにおいて泥沼の宗教戦争へと突入しながらも、エルフ、獣人など異種族の支援をも受け次第に支配領域を拡大してきていた。
「むぅ、今巫女様に何かあったら一大事じゃ!恐らく旧教会の者どもが尊きお命を狙いかねん!」
「は、イグリアも、ジスペント、マリイナも同様に動きを見せております。至急神聖教団より精鋭を派遣し巫女様を必ず我々が保護奉ります」
「うむ、よろしく頼む」
深々と頭を下げ、謁見室より退出したオルトナは謁見室を出た後、周りの視線も気にせずに走り始めました。
そして、神聖教団の詰め所へと辿り着くと団員達へと指示を飛ばし始めました。
指示を終えると、団長室へと戻りその団長室に掲げられている肖像画を眺め呟きました。
「巫女さまを必ずこの国に」
壁にかかったっていたのは誰が書いたのか、もし本人が見たら恥ずかしさで七転八倒しそうなまでに美化されたキュアリーの肖像画でした。
3人称が不慣れの為、語り口調が大きく変化してたりします。
10年が過ぎて、若干キュアリーが駄目な方向に進化しているかも!
あと、ルンが女の子であった事が判明しました!!!
あと、前作と今作との10年の出来事は異界への扉で後日談で語っていくつもりです。