第3話 周りの男と私の実情
「「「かんぱーい」」」
「たこわさきたよー」「唐揚げもきたー!」「これそっち回してー」
今日は研究室のみんなと定期的に開いている飲み会で、夏ということもあって冷たいお酒が美味しくてみんなどんどん飲んでいく。
「やっぱビールうまいな~」
「ね!枝豆が合うわー」
安い値段で飲み食いできるチェーン店の居酒屋でも、気の置けない友人だと十分に楽しめるので私はこの日もお酒と料理に満足していた。
「なあ、そういえばさ、篠田は進藤先輩と結局どうなってんだ?」
「んぐっ…っげほっ」
「ちょっと、せいら大丈夫?」
「ん、だいじょ、ぶ。ちょっとお酒つまっただけだから…」
せいら―――篠田せいらは私が働いていたお店のアルバイト仲間ということもあって研究室に配属される前から友達だった。そして、せいらは大学受験で浪人しているので私たちよりひとつ上の、つまり、年でいえばマスター1年と同じ年である。でも、同じ学年ということもあり、みんなタメ口で同じように話をしている。ただ、ちょっと気になることが、進藤先輩との関係だ。
進藤先輩はマスター1年で、研究も出来て頭もいいなんでも出来る人なのだが、実は、せいらと中学の同級生だというのだ。そのせいか二人には私たちが入り込めない何かがある。せいらは学年が下ということもあってか遠慮して距離を置いているのだが、進藤先輩は何も気にせずせいらによく話しかけている。そして、せいらに対しての態度がどうも違うような気がするのだ。―それはせいらにも言えることであり前からみんな気になっていたのだ。
「んっ…はあ…急に来るからびっくりした…」
「「「で、結局どうなのよ」」」
「………、まあ、いろいろあって。…まとまりました、よ。」
「………」
「…それって、」
「つまり…」
「………」
「おっおめでと~!!せいらー!!」
「まじかー!!」
「やっぱ進藤先輩、篠田のこと狙ってたんだな!」
思いがけないせいらの告白で私たちは再び盛り上がった。そしてそれをきっかけに恋愛の話に移って行った。
「み、みんなはどうなのさ」
「俺はね~かっわいい彼女一筋ですよ~。もうねえ、あいつ本当に可愛い!」
「はいはいでました、木原の彼女自慢」
「この話になると本当うっとおしいんだから…」
「いや、聞けよ!!俺のお話!!みのりちゃんのこと聞いてくれよ!!」
「お話、て…」
「何言ってんだよ…みのりちゃんと付き合うまではちゃらんぽらんだったのが信じられないねぇ。よくなったんだろうけど、これはこれでどうかと思う…」
私と1年の頃から仲が良い木原は自他ともに認める女好きだ。入学してすぐに私や友達に声をかけてきたほどで、なんてフットワークの軽い奴だと思ったものだ。そのおかげか男女関係なく友達が多いのだけれども。
今の彼女とは2年の春から付き合ったのだが、それまでの木原の言動はあまりにひどいものだった。チャラ男、という言葉がぴったり当てはまるような。彼女、みのりちゃんと知り合いだった私は木原をあまり薦めたくはなかったので木原の話になるとほとんど悪口しか言ってなかった気がする。…まあ最近みのりちゃんから、「さくらちゃん、木原君と友達なのに全然良いこと言わないから不思議だったんだよね~」と言われたほどだ。背が小さくて可愛く、しかも胸はファンタジーカップ(つまりF )のいい子のみのりちゃんを汚したくなくて木原の話題は避けていたのだが、木原の告白にOKを出してしまったと聞いた時はショックで思わず「何やってんだよ!」と木原に渇を入れてしまった。どうしてみのりちゃんが付き合うことにしたのかは未だによくわからないのだが、二人を見ていると付き合って正解だったのだと思う。
木原とみのりちゃんは半同棲していて、たまに木原の家に遊びに行くとたくさんの料理を作ってもてなしてもらえる。ご飯だけでなく、お酒に合う美味しいおつまみまで作ってくれるので、嬉しくてつい「良いお嫁さんになるね」と言うと、「さくらちゃんおやじみたいだよ?」とつっこまれるのが恒例だ。二人はらぶらぶな雰囲気というよりは仲の良い友達みたいだ。いや、いい意味での熟年夫婦?とでも言うのだろうか。「それ取って」と言えば、「ああこれね」と理解しあえるほどの。二人ともかなりのお酒好きで、アイドル好き、バンド好き、アニメ好き、と趣味が一緒なのだ。しかもどちらも実家が農家とまでくると、もう付き合う運命だったのだろう、と言いたくなるほどの共通点がある。
つまり一緒にいても飽きないし話が合うのだ。性格もどちらもマイペースなのでいらつくこともない。―――価値観が合う、とはこういうことを言うのだなあと思う。二人は私の憧れであり、目標だ。一緒にいてまともに話が出来ないくらいの素敵な人とドキドキした恋愛をしたい、そんな気持ちもあるけれども、この人といるとほっとする、将来この人とこの人との子供と一緒にいっぱい笑って騒いで楽しく暮らしたい、そう思える人と出会いたい、とも思うのだ。
「で、さくらは結局どうなんだよ?」
「私?私はなんにもないよ、いつもどーりです!」
「ほんとか~?」
「なんかいっつも思うんだよ、お前謎が多すぎて。」
「…謎ってなによ」
「例えばさ、お前休日何してんの?っていえば別に~なんもしてないとか言うじゃん。友達といっつも遊んでる風もないし、実は男いるんじゃないかって思ったりするんだよ」
「はあ~?いないから…私の生活見ればわかるじゃん。彼氏いたらいろいろもっと頑張ってるし、メガネもかけてきません。」
―――休日は家に引きこもってオンライン小説読んで過ごしてます、なんて言えるか…!!しかも恥ずかしくなるくらい甘い恋愛小説をにやにやしながら読んでるなんて…言えない、とてもじゃないけど言えない…!私のキャラで乙女小説を読んではいけないんだよー!!
謎が多いっていうのもわかるんだ。私は仲が良い人にも言ってないことがたくさんあるから。ネットの恋愛小説が好きって言うのも恥ずかしくて言えないから、ハードカバーのミステリー小説が好きということにしている。…たまに読んだりするから嘘は言ってない。
それに私が大のぬいぐるみ好きだということも秘密にしている。…こっちには一番お気に入りの猫のぬいぐるみ1つしか持ってきてないが、実家の私の部屋にはたくさんのぬいぐるみがあるのだ。ソファがぬいぐるみで埋まるほど。大事すぎてソファをぬいぐるみの居場所にして私がソファを使えないほど。…それで母には「ソファの意味ない!」といつも言われてしまうのだけれども。あの子たちのためにソファではなくラグの上で我慢して座るのだ。
「いや、いっかいお前の一日の行動見てみたいわ」
「見んでいい!!」
「まあ謎は多いな…でもさ、美人で聞き上手で話が面白いのに彼氏いないってのは、お前に彼氏を作る気がないからだろ。」
「それに加えて美脚でもあるからね!…後、さくらちゃんに彼氏がいないのは夢見がちっていうのもあるかもね。王子様とか好きだもんね?」
「?!べ、べつにそこまで王子様好きじゃないよ?!」
「うんうん、後理想も高い。」
「…いや、なんというか、年をとるたびにどんどん理想が高くなっていくと言いますか…って、私ばっかり責めないでよー!!」
「別に責めてねえよ?ただ、さくらに彼氏がいない原因を考えてみただけで」
「酒の肴にすんなー!!もうっ」
―私だってわかってるよ。このままじゃだめなんだってこと。現実をそろそろ見なきゃいけないんだってこと。
「まあ、本当に欲しくなったら紹介してやるよこの木原さまが…!」
「いや、いらない」
「ぐっ…ひ、ひでえ。ばっさりじゃねえか」
「さすがだね、優しさのかけらもない…」
「大丈夫、俺もいるよ?」
「いや、大丈夫。青木は大事な友達だから」
「うっ…三度目、いや、五度目くらの告白を見事に振られたっ…しかもばっさりと…!」
「いや、あんたのは本気じゃないでしょ」
「はっきり言うな~温情のかけらもなかったぞ?」
「男前だね発言が」
「うっさい…まあ、とりあえず今のところはいらないから大丈夫よ」
―わかってるから、もう少しだけ、もう少しだけ待ってみてもいいよね…
―こんなこと22歳で考えるのはおかしいかもしれないけど
―早く私を迎えに来て、攫いにきて
―待ってるから
―ねえ…私の王子様はどこにいるの




