第2話 私の日常
―おはようございます
その一言を告げながら私は1階にある多くの生徒を抱える研究室の1つである部屋へ入って行った。
私の研究室は教授、准教授、助教授がいるため生徒が多い。それぞれの先生に対して研究室配属の人数が決まっているため先生を3人持つうちは生徒の数が多くなるのだ。
そして生徒の数が20人以上なので部屋も2つに分かれている。私が選んだ部屋は12人中8人が4年生で先輩が4人しかいないので、気が楽だ。なのでついつい騒いでしまって先生に怒られてしまうのだけれども。
「「「「おはよー」」」
「おはよう。今日も暑いね、家から学校まで大した距離じゃないのに汗かいちゃったよ」
「だよなー!ほんっとあっついわ!!」
「おんぼろ1号館はクーラーないからなぁ。扇風機で過ごすって限界あるよな…」
「「うんうん。」」
研究室に先に来ていたのは青木と北澤君だった。
「アイス食べてなんとかしないと…もたない」
「昼飯食ったら買い行くか?」
「もちろんっ!」
「何食うかね~。やっぱ氷系のやつかな。」
「スイカのやつだろ夏は!」
「あっいいね。この間のチョコの種いっぱい入ったバージョンは気持ち悪かったから今度はノーマル食べよ」
「あれはまじでないわっ。ほくろか!ってくらい入ってたからな。ひいたわ…」
「確かに…」
私たちが言っているのはスイカを真似した棒付きアイスのことで、それにはチョコで出来た種が入っている。いつも上手に出来ているなぁと思わずにはいられないそのアイスに、最近種増量バージョンが発売されたので私たちは思わず買ったのだが…増量とだけあってか、尋常じゃないくらい種が入っていたのだ。もう種でスイカの赤い部分が見えないほどに。それが気持ち悪くてあんまり気持ちよく食べられなかったのはついこの間の話。
青木が種をほくろに例えたときはその通りすぎてみんな大爆笑だった。
「あれ、そういえば今日先生いる?」
「あぁ。赤平なら今日健康診断で休みだってさ。」
「そうなの?じゃあ今日は騒ぎ放題じゃん。って言っても今日やることいっぱいあるんだわ…」
「あっ先生で思い出した!!私さっき1号館前でかっこいい男の人見たんだ~!背高くって青いシャツが素敵だったの~!!いい後ろ姿だったなぁ。」
「またイケメンかよ…ほんっとイケメンに弱いよな。しかも背高いの好きとか。やっぱ女の人って背が高い人好きなんだよなー」
「でも騒ぐけど本気にはならないよね?…で、先生で思い出したって?」
「あっそうそう。その人さ、学生には見えなかったんだよね。でも先生にしては若すぎるっていうか、でも、格好とか生徒っぽくないし。」
「ドクターとか?ドクターくらいの年ならスーツっぽくてもありじゃないか?」
「ドクター?えぇ?違う気がするんだけど…」
「じゃあ何なの?」
「…それがわかんないんだよね。謎!!」
「ふーん。まぁどっかの業者の人とかかもな。今工事とかしてるし」
「そうだな。それも一理ある。」
「うーん…」
「おはよー!!おっなんかの話題で盛り上がってる?でも…盛り上がってるとこ悪いんだけど、来週コロキウムあるって覚えてる?もちろん…その様子だと終わってるんだよね?」
「「「………。忘れてました。…やばーーーー!!」」」
二人が出した結論にいまいち納得がいかない私は悶々としていたが、先輩の一言でそのことなんてすっかりどこかに飛んでしまっていた。
この日もいつもと変わらず仲の良い男友達とわいわいはしゃいで一日を過ごした。
明日も明後日もずっと変わることなんてないと思っていた。
だって何年も変わり映えのない日々を過ごしていたから。
ひとつの出会いはいろんなものを運んでこようとしていたのに。
私は何にも考えていなかった。
ちなみにここで言うドクターとは大学院の博士課程のこと。
マスターは大学院の修士課程。
主人公は工学部4年生でキャンパスは工学部のみ。
工学部では半数近くが大学院進学をするがドクターまで進む人はほとんどいない。
という設定です。




