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堕ちる夢  作者: 白戸黒
2/2

後編

R-15程度の表現はあります。

直接的な暴力表現や性表現はありませんが、気になる方は、まあ、気にしながら読んでいただけると嬉しいなぁ。

 外から差し込む朝日が眩しくて、俺は目が覚めた。

 何か忘れているような気がする。それも、とても大事なことだ。

 思い出そうと、昨日を振り返る。いつものようにアルバイトに行き、帰りにいつもの屋上へ行き、自殺を考えるだけ考え、帰路に着いた。道中怪しげな店を見つけ、謎の薬を買った。そしてそれを飲んだ俺は―――。

「そうだ・・・。俺、変な薬を飲んだら異世界に飛ばされて、そこで俺は確かに殺された」

 服を脱ぎ、刺されたはずの背中を触ってみるが、刺されたような痕は感じない。首元を鏡で確認しても、ノコギリで抉られたような痕は全くない。

「どうなっているんだ?だってあれは…」

 確かに感覚は鮮明に思い出せる。あの刺されたときの痛み、ノコギリで首を抉られた時の虚無感。何もかも、あれは俺にとってリアルだった。

「夢…だったのか?」

 夢にしては、それはとてもリアルだった。ネオンの光、校舎を駆け巡ったときの疲労感、そして殺された時の感覚。全てが夢と一言で済ませるには、それはあまりにも、俺にとって納得のいかないほどにリアルだったのだ。これが夢だったのならば、どうして俺はあんな夢を見てしまったのか。

「そういえばあの女、自分の見たい夢や欲望を、夢を見ることができるって言ってたな」

 つまり、俺が体験したものは夢で、殺されるのは俺の願望だったということなのだろうか。馬鹿らしい。俺は人に殺されたいなんて思ったことなどない。しかし、考え方を変えてみれば、殺されることを望んでいたわけではなく、死ぬことを望んでいたというのならば確かに俺の願望に合致しなくもない。誰かに殺されるという過程はただの舞台装置にしか過ぎず、結果として殺されることによって、俺の死にたいという願望が満たされたのか。我ながら回りくどい。

 いやしかし、これはうまく使えば自分の見たいもの経験したいことを自由自在に扱えるということではないだろうか。例えば、俺だけのハーレム王国を作りたいと願えば、夢の中で俺はハーレムを作ることができるのだろう。

「ふふ…はははは…なかなか面白い薬じゃないか!」

 興奮した思わず立ち上がってガッツポーズを取ろうとしたが、勢い余り過ぎて膝を机にぶつけてしまった。あまりの痛さにしばらく悶えてしまったが、ふと床を見ると一枚の見慣れない紙が落ちていた。

「なんだこれ。説明書?」

 そこには、微妙に字にずれがあるため手書きだと思うが、まるでワープロで打ったかのような機械的な文字が並んでいた。

「薬を飲んだ後は性欲が失われる。連続で服用すると、とてつもない疲労に襲われ、場合によっては肉体に疲労が溜まり過ぎ、死に到る場合があるため連続服用は避けることを推奨する。尚、これを使った後の性欲の消費量は尋常ではない為、強制的に性欲を回復させない限り、通常通りに戻すためには(個人差はあるが)大よそ一日は必要」

 これは前置きらしく、続きがあった。


 この薬を飲むと半強制的に夢の中へと連行される。夢の中では自分で行動することが可能であり、自分自身で行動を決めることが可能。それに伴い、夢の世界では自分が考えたとおりに事が進む。例を挙げると、壁を通り抜ける。空を飛ぶ。異形の者を召喚する。道具を創る。使用者は神になったかのように創造するころが可能である。しかしこれには注意が必要である。想像したもの全てが創造される。想像した瞬間に創造されるため、不用意に何かを想像してはいけない。また、場合によっては元の世界に還ってくることが出来なくなることがある。以下のことを現時点で気をつけることが必要である。なお、例外は論外とし、夢の中で死ぬ、又は元の世界に還りたいと願えば、夢から開放されるであろう。これをもって、現時点での説明を終了する。


「そういうことだったのか」

 説明書を読む習慣がない俺だったが、今回は少しばかり後悔した。この説明書の言うとおりならば俺が不用意な想像をしたせいで、死にたいという願望に導くために、殺されるという過程ができてしまった。

「いろいろ試してみる価値があるな。でも、とりあえず今は無理かな」

 説明書にあったように、疲労感が強かった俺は休むことにした。しかし、今まで寝ていたことには変わりなく、体はかなりの疲労感があるが眠気が無いため寝られず、横になることにした。



 今日の予定といえば、何もない。今日はシフトが入っていないため、何の用事もないのだ。出かけてもいいのだが、金がない。五百円と言っても俺にとっては破格の出費だったと言わざるを得ない。もし昨日五百円を使っていなければ、これを昼飯代にして残りでおパチスロに行っていただろう。いつものことだが、改めて情けない日常だ。

 しかし、そんな情けない日常にも色が出てきたと思いたい。この薬を使えば自分の思い通りの世界に行けるのだ。

「そういえば、あの女の店に行ってみるべきだったかな」

 説明書があるとはいえ、説明はもっとあっていいと思う。夢のある薬だが、危険な薬でもあると思う。こんな薬を紙っぺら一枚で説明が済むとはなかなか思えない。もしかしたらもっと有効的な使い方を教えてもらえるかもしれない。

「面倒だからいいや」

 俺は、夢の中でやりたいことを考えることにした。


「現実世界で出来ないことに興味が惹かれるよな。例えば、空を飛んだり、派手な魔法を使ったり…。あぁ、そういえば、外見を変えることも可能なんだろうか」

 幽体離脱の場合、ほぼ全てのことが出来るようになるらしい。

 この薬が幽体離脱を簡易的に誘発することが出来るのであれば、内容は幽体離脱と同じということになるだろう。昨日の体験と説明からして、効果はそれと同じと見える。ならば、外見を変えることも可能なはずだ。

「外見を変えるとなると…、クリーチャーとか、か?いや、気持ち悪いだけだ。他は、まあ妥当な辺りでイケメンとか女とか、かな」

 しかし、やってみないと効果はどんなものなのか全く分からない。本当に外見を変えられるかも定かではない。

「ま、やってみれば全て分かることか」


「さて、やってみるか」

 時刻は夜の十一時。普段と比べれば、寝るにはかなり早い時間になるが、いてもたってもいられない。早くやってみたい。

 昨日と同じように薬を一錠飲んだ。

 飲み込んだ瞬間に昨日と同じような目眩が俺を襲い、気を失った。


「うぅ、ここは…どこだ?昨日と違う?」

 目が覚めると、そこは昨日見た緑と青の世界ではなかった。

 幾何学模様のような何かが幾つも地面に敷き詰められていて、それは言葉に全く表せない、人間の概念では表すことができない世界だ。相変わらず訳がわからない世界。

 状況をある程度は把握できているため、昨日よりも冷静に行動できる。自分がやりたいことをぼんやりと思い出しつつ行動することにした。

「まずは、自分の姿を変えてみることから始めるか」

 しかし、今の自分の格好を確認することができない。自分で考えれば自分の姿を確認することができるはず。一番手っ取り早いことは、

「鏡を目の前に創造すればいいのかな」

 俺は目を瞑って鏡を想像した。目を瞑ったのが悪かったのか、それとも鏡を想像した時、それを漠然と創造したせいか、目を開けると上下左右全てが鏡で出来た、鏡だけの部屋にいた。鏡が反射を繰り返しているせいで、この部屋の広さが全く分からない。

「た、たしかに鏡だし、四方八方から自分の姿を確認できるな」

 変なことは考えず、まずは自分自身ではなく服装を創造した。某RPGで有名な緑の勇者の格好を想像し、緑の服装を創造した。案の定、俺は、

「すげぇ、顔は俺だけど、服装が変わった」

 服装が変えられることが分かった。

 その後、髪の長さや髪型、身に付けるもの、装飾品など道具、そういった物も創造できることが分かった。

 とりあえず全てをリセットし、最初の格好に戻した。

「よし、問題の外見だ。まずは何からしてみよう」

 外見を考える前に、自分の姿をもっと見やすくしようと考えてみた。

「何が見やすいかな…。……あぁ、俺をもう一人創造すればいいのか」

 鏡に映っている自分自身を想像すると、俺の目の前に俺が創造された。

「ハハ、よう、俺」

 あまり詳しく想像しなかったが、自分の体だからか、どこをどう見てもそれは紛れも無く俺になっていて、若干不気味だ。

「そういえば、これでこの世界に人を創造することも可能ってことが解ったな」

 次に外見を全て変えてみることにする。

 最初に頭に浮かべてしまったのがクリーチャーだった。

 想像してしまった直後、俺の姿はとてつもなく醜い、頭部はエイリアンのような形をしていて、胸部がゴテゴテしていて、足が妙に細く、腕が恐ろしく太い。見るからに化け物になってしまっていた。見た瞬間、自分でビックリした。

「だ、ダメだ。気持ち悪すぎる」

 しかも創造対象が、もう一人の俺ではなく、俺自身にしてしまった為、気分が悪い。

 まあ結果として、自分の容姿を変えられるということが解ったため、成功とも言える。

 次は、アニメの美形主人公を想像していた。

「お、すげぇ。二次元が三次元になった瞬間だ」

 まるでそれだった。恐ろしいぐらいに、想像したとおりにもう一人の俺が創造された。

「ははは、これじゃもう一人の俺が俺である意味が無いな!」

 これまでの実験結果的に、おそらく何にでもなることができる。となれば、異性にだってなることができるはずだ。もちろん、すぐに自分の体で試した。

「本当に何でも有りなんだな、この世界は。しかし、それにしてもいろんな意味で危なかった。服も一緒に創造していなかったら、いくら今は自分の体とはいえ大変なことになっていたな」

 完璧に変わっている。でも、まだ自分の体という実感は無いし、本物の俺は紛れも無く男であるから、やはりそれに抵抗はある。理性が保たれていて良かった。

 もっと他にも試してみようと思ったが、目眩に襲われ一瞬にして視界が真っ暗になった。それは、薬を飲んだ時と同じ感覚だった。

 

 何となくだが俺は気が付いた。

 体が元に戻ろうとしている。

 俺はまだ帰りたくなかった。現実の世界に。

 ここまでやって気が付いた。俺はこの世界に居続けたい。

 

 現実の世界に戻っても俺は何も良いことがない。不条理なことばかりで、俺は何一つ現実世界に満足することが出来なかった。

 しかし、ここは違う。

 この世界ならば、俺の考えているように事が進む。まだ、試していないことは多いが、ここまでやれば分かる。人が恋しくなれば、もっと人を創造すればいい。腹が減れば美味い食べ物を創造すればいいし、空腹を感じなくすればいい。やりたいことは全て叶う。何の問題がある。何もないじゃないか。

 俺は必死に目眩を堪えた。ここで目眩に負けてしまえば現実世界に戻されてしまうだろう。そして、またつまらない毎日が、不条理な毎日がやってくる。この世界を知ってしまった俺には、既にあの世界は耐えられなくなっていた。なにか、この世界に居続ける方法はないのだろうか。


「薬を飲んだ瞬間、性欲が失われる」

「これを使ったあとの性欲の消費量は尋常じゃない」


 俺は説明書に書いてあった内容を思い出した。性欲が、おそらく鍵になる。

 これは仮定だが性欲の消費量というのは、これは薬を飲んだからではなくて、薬を飲み終わったこの行為事態に性欲を消費しているのではないだろうか。もしそうならば、異性の形になるこの行為が性欲の消費を増幅しているのではないだろうか。特に自分自身に負担のかかる行為は性欲の消費量が増幅すると考えられるのは不思議じゃない。この世界で死ぬことにより現実世界に戻される。これは自分自身に変化がある。つまり、自分自身に変化が起きればそれだけ性欲の消費料は増える。昨日よりも早く現実世界に戻ろうとしているのも、これが理由なのではないだろうか。昨日は殺されたから現実世界に強制的に送り込まれたが、仮に殺されなければもっとあの世界にいることが出来たかもしれない。

 もしこの仮定が正しいのならば、いま俺が本来の姿に戻れば、性欲の消費を控えることができるかもしれない。

 すぐに、俺は本来の姿に戻ろうと想像した。次には俺の身体は元通りに戻っていた。

 仮定はおそらく正しかった。目眩は止まってくれた。

 しかし、問題がある。おそらくこのままなにもしなくてもこの世界に居続けるだけでも性欲は消費するのだろう。もし性欲に器があり最大値が決まっているのであれば、自分に自信はあるが、無限にあるわけではない。回復はするだろうが、消費量に追いつけるほどの回復量があるのか確認する術はない。

「節約する、あるいは、この世界で回復するか増やすしかない」

 しかしどうすればいいのだろう。

 性欲、というのはどうすれば回復するのだろうか。消費する術は多く知っているのに、回復する術というものを考えてみれば、なかなか思いつかないものだ。

 まずは、消費量を節約しつつ方法を考えよう。


 俺は、現実世界に帰ることを放棄した。

 これが俺の願望であり欲望であり、夢だから。


「…また、一人」

「は?どうかしました?」

「別に」

 そこには中年男性と、黒衣を纏った黒髪の美少女がいた。

「あ、では話を戻しますね。その、体験版を購入したいのですが」

「…わかった」

 中年男性は薬を三錠受け取り、顔を綻ばせながら薄暗い部屋を出て行った。

 そしてその部屋にはいるのは少女だけになった。

「溺夢誘発薬」

 中年男性に渡した薬を一錠手に取った少女は、耳を澄まさないと聞こえないぐらいの声量で溢れるように呟いた。

「飲んだ人間は夢に溺れる」

 少女はその薬を持って外に出た。外はもう夜が明けそうだ。

「溺れる。何故?それは必然?」

 少女は空を見ながら自問自答を始めた。

「違う。自分の欲望を制御できなくなるから夢に溺れる」

「どうして制御できなくなるの?」

「制御しなくなるが正しい」

「どうして制御しなくなるの?」

「それが一番楽だから。自分のしたいようにできるなら、それが一番楽で幸せ」

「その幸せは、本当に幸せなの?」

「当人が満足しているなら、それでいいと私は思う。でも―――」

 

 幸せに答えなど無い。人それぞれなのだから。

 夢に溺れることは決して悪いことではない。それで当人が幸せならば、それでいいのだろう。簡単に夢が叶うのならば、願ってもないことだろう。

 しかし、容易く手に入る夢に何の価値があるのだろうか。夢を追い続けるその過程にこそ、自分への対価があり経験として自分自身を強くしてくれるのではないのか。

 私にはまだその答えを得ることができずにいた。

 この薬を買った人間は、皆目の前の容易く手に入る偽りの夢に騙されている。

 夢とはなんなのだ。

 叶えばそれでいいのか。

 それで終わりなのか。


 少女は、答えを探す為に次の街へと旅立った。

結果的に夢ってなんだろうというお話でした。

うまくまとめることができなかった話で、書き直しながらうまくまとめてみようかと思ったけど、やっぱ無理でした。ほぼ書き直しになります。


これを書いていた頃はちょうど自分の将来が見えていなかった頃でした。や、今も見えてないんだけど。

でももっと漠然とすらしていなかった頃だったので、これを書きながら自分の夢についても考えていたのはよく覚えています。


もし自分の夢が今すぐ叶うと言われたらどうしますか?

僕は喜んで食いつくと思います(笑

でも叶った後ってどうなるんでしょうね。

その後、自分を振り返ったとき何を思うんでしょうね。

その答えは、夢を諦めずに自力で頑張って苦労して掴み取った時に、やっとわかるのだと思います。

僕はまだ分かりません。


いつものように誤字・脱字・不明な点や感想等がありましたらご連絡ください。

最近誤字・脱字が多くなってきてるので気をつけます・・・。

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