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六話

 仕事から帰ると週間二位になってました。

 お読みいただいている皆さんに感謝を。

 では、お楽しみ頂けたら幸いです。



「うちに何か用? もうそろそろ店閉めるとこなんやけど? 用あるんやったら明日にしてくれる?」


 立ち尽くす俺を見て、その猫耳女はそう告げてくる。とても客商売の言葉とは思えない。


(関西弁かよ!? ってツッコむのはそこじゃねぇ!)


 そして、そんな一人ツッコミで悶々としている俺を見て、何かを思い当たったようにその女は手を打った。


「あぁ、あんたトールやろ? トゥレーネちゃんからも、ロ―ザからも聞いとるわ。まぁあの二人は言うてることが違いすぎて、ホンマに同一人物について語ってんのかわかれへんかったけどな、黒ずくめやて言うとったし、『煙草』欲しがっとるからよろしく、とは言われとったからそろそろくるんかとは…………ってなんやの? さっきから黙ってばっかで、トールちゃうの?」


 まだ衝撃から立ち直り切れていない俺が黙ったままなのを見て、そう言ってくる。

 慌てて俺は頷いた。


「そうだ、トールだ。あんたが………」


「キャルや。『錬金術師』で、この『猫耳亭』の店主やっとる」


 俺が、名前を思い出せなくて詰まっていると、キャルと答えたその女性がそう指さしながら答えてくる。

 そこには、確かに店じまいだったのであろう、しまいかけの看板が置いてあった。


 『雑貨屋 猫耳亭』


「猫耳亭? そのままか!? ………っていうか何だその耳は? 尻尾は!?」


 俺は、ここ数分で何個目になるのかわからないツッコミどころに更に混乱しながら、そう疑問の言葉を吐く。


「アホか、目ぇついとんの? それとも見えてへんの? これが猫耳と猫のしっぽ以外の何に見えるんよ」


 そんな俺に、はぁ? と言った口調で告げてくるキャル。


「っ!…………そう見えてるから問題なんだろうが!」


 そうたまらず叫んだ俺をうるさそうに見ながら、キャルは端的に言った。


「最初からこうな訳とちゃうわ。大体そんな設定はこのゲームにはないし、ネコ好きやから自分で作ったに決まってるやろ? アホなんかあんた、一遍医者行ったほうがええんとちゃう?」

 

(駄目だこいつ、かみ合わない上に精神力が削られていく……きっとこいつは、紙一重の方だ)


 そんな風に、よく動く口からポンポン現れ出る毒舌に何もかも諦めて肩を落とした俺に、ほれ、とキャルが手を出してくる。


「…………え?」


 間抜けな声を出す俺に、イライラしたように告げる。


「『炎の魔石』。持ってきたんちゃうの? 作ったるから()よう寄越(よこ)し」


「あ、あぁ、そうだった」


 俺はその言葉に自分が何をしに来たのかをようやく思い出し、オブジェクト化した『魔石』を手渡した。


「……へぇ、結構純度の良い魔石やん? 奥までいったん?」


 それを見て、少し感心したような声で言うキャル。

 

「あぁ、トゥレーネとな……えっと、知り合いなんだよな?」


 俺は疑問にそう答え、確認する。


「そうや、っていうかあの娘が作ったってくれて言うから、待っとったんやんか」


 キャルが、その薄い胸を張って答える。


(いや、あなた明らかに最初追い返そうとしてましたよね? 店閉めようとしてましたよね?)


 そんな俺の内心をよそに、キャルが俺に尋ねてくる。


「まぁええわ、あんた属性は?」


「あぁ、『闇』だが?」


「わかった、今からすぐにできるから、そのへんのもんでも見て待っとき」


 どうやら、属性が関係あるらしい、言うことだけ言うと、キャルは少し奥に行き作業を始めてしまった。

 待っていろと言われた俺は、手持ち無沙汰なまま店内を散策することにする。

 

 そして、俺は()()を見つけた。――――見つけてしまった。


『透視スコープ』


 そう札が貼られたそれは、5000ナール。他の回復薬が50ナールや100ナールであることを考えれば、明らかに高いが、俺はそんな事よりもその効果に目を惹かれていた。


『ダンジョンなどで、壁を透視して、その障害物の先にあるものを見通すことが出来る』


 そう説明書きが書かれていたそれを見て、俺はキャルの方を振り向く。


(こ、これはまさか漢の夢! 服の下の、あんなものやこんなものまで透視できる、伝説の……!)


 俺がそのあれこれを想像して、拳を握り締めていると、そんな俺の内心を見透かしたように、キャルが手を動かしながら淡々と告げた。

 俺の夢をぶち壊す現実を。

 

「……あんたがアホなんやなぁって言うことと、今何考えてんのかは解る気ぃもするけど、多分あんたには使われへんで、自分の属性『闇』なんやろ? それ視覚効果に必要やさかい、『光』属性プレイヤーの限定アイテムやねん。大体、どっちにしたって『闇』属性のプレイヤーは反属性の『光』のアイテムは使われへんやろ」


「なん……だと……っ!」


 その告げられた言葉に愕然としながら、俺は再度それを見る。

 確かに、先ほどの説明の続きにそう書かれていた。


「ちなみに言うとな、それは凄い分厚い壁でも透視できる代わりに、微調整にはむいてないねん。使う度にMPも持って行かれるから、盗賊のあんたやったらどっちにしろ無理や。何せスーパーカー並の馬力で、街中走るくらい燃費悪いもんやからな」


 止めを刺された俺は、がっくりと肩を落とす。


 そう言えば、属性についての明確な説明がまだだったか。

 この世界の属性の基本については前に言ったと思う。そして、それにはそれぞれ反属性というものがあるのだ。どういうものかというと、こんな関係性になっている。

 

 『反属性』

 火⇔水

 地⇔風

 光⇔闇

 無


 アイテムにも様々なもの(回復薬や投げつける攻撃アイテムから、設置型の罠など)があり、回復薬などは属性『無』、ダメージ判定を持つものや、特別な装備アイテム等は各属性をもっている。


 それが自分の属性であれば効果が二倍、反属性であれば使用できない、または特定のアイテムは使用出来ても効果が半減してしまう。


 ちなみに、生産職はその様々なアイテムを使えなければいけないという特性もあり、全て『無』属性である。

 そして、『性質』は変化することも稀にあるらしいが、『属性』は変わることはない。正確には、『火』が『炎』になったりすることはあれど、『火』が『水』になることはありえない。



 つまり、何が言いたいかというと――――俺には一生このアイテムは使用できないのだ。



(神よ……俺は恨む……何故だ、何故俺は闇……! しかし! まだだ、きっと同じ志を持つ人間がいるはず。そうだ、『光』属性の魔術師か僧侶を探せば、そして『光』属性ならば、視覚同調スキルを持つものもいる筈……!)


「ちなみに言うとくとな、多分やねんけど、性格って属性に表されよんねん、『光』なんていうたらフェイルの旦那みたいな真っ直ぐな奴ばっかとちゃうか? 多分あんたの思うてることに協力するような奴は、皆『光』属性ちゃうと思うわ」


 そう最後の希望にすがる俺の心を読んだかのように、淡々とキャルが告げる。口元に笑みが浮かんでいるのが悔しい。

 

(…………くっ、漢の夢を、そんな簡単に諦められるか!)

 

 俺は、心に決めた。

 たとえどんなにレアであろうと、この条件に見合うプレイヤーを見つけ出すと。


(く……せいぜい首を洗って待っていろ!)


 そう心の中で決意し、ビシッ、と『透視スコープ』に向けて宣言する俺を見て、呆れたような声でキャルが出来上がった『煙草』を差し出してくる。


 見かけは、唯の一本だけの煙草だ。

 違うのは、それが紙で葉をくるんだものではないということ、俗に言う電子タバコのような形状だ。


「ほれ、あんた専用の『煙草』や。残念ながら吸って短くなるもんちゃうから、本物の感じは出せんけどな。味は、『吸う』という事実があんたの感覚から補完して、一番覚えてるもんにしてくれるはずやけど、どうしても違ったら、追加料金で微調整したるわ。……後は、使うたんびにMP少し使うから、ダンジョンとかでアホみたいに吸っとったら、いざというときに戦えへんから気ぃつけや。火は、その口に(くわ)える側を歯で噛んだら動作するようになっとる……大事に使い」


 そう説明をしてくれるキャル。

 俺は、キャルの了解を得てから、早速それを使ってみた。


 肺に染み渡る煙、そして吐き出した煙が宙に漂って拡散する。


(こいつは……天才だ)


 その現実と寸分変わらぬ煙草の感触と、先ほどのアイテム『透視スコープ』を作成したキャルを、俺は本気で尊敬した。

 そしてその心からの思いを告げる。

 

「俺は、お前を尊敬する。何か必要な素材があれば、何でも言ってくれ。特に、『闇』属性でも使えるアレを開発するためなら、俺はどこへでも行こう」


 こいつなら出来る! そう確信を込めて俺は告げる。

 そんな俺を面白そうに見上げながら、キャルは言った。


「それを女のうちに堂々と頼む当たりがホンマにアホやな。……まぁ、そう言うてくれるんは正直嬉しくないことも無いし、うちも鬼ではない…………あんたがうちの言う通りに色々融通してくれたら、いつか作ったる事もできる()()な? ………………多分無理やけど、こいつ使えそうや(ボソッ)」


「な、何!? 本当か? 本当だな?」


 後半はぼそぼそと呟いたのでよく聞こえなかったが、いつか作る、の部分以外は何も聞こえなかった俺は、肩に手をやり叫ぶ。

 そんな俺に、天才『錬金術師』キャル様は告げる。


「うちは作品に関しては嘘はつかへんよ(……ちゃんと『かも』て言うたしな)。……せやから頼むわ、今度来るとき、アイナちゃんを連れてきてくれへん? うち、あのちっさい可愛らしい子にこの猫耳と尻尾をつけて愛でたいんや。なのにあの娘一回着せ替え人形にしたら来てくれへんねん」


「よし、任せろ」


 俺は断言する。

 アイナには悪いが、漢の夢には変えられん。


(すまん、俺の夢の為に、犠牲になってくれ、アイナ。今度何か奢ってやるから)


 そう心の中で謝る俺を見て、可笑しそうに笑いながら、キャルはしまいかけの看板を店内に引き込み、告げる。


「じゃあ、行こか。あんたも攻略前の決戦式とやらに行くんやろ?」


「……あぁ、そういえば、そんな事言われてたな、何でもすごく美味い飯を出す所があるとか」


「びっくりするで? うちなんかと(ちご)うて、ホンマもんの職人であり天才やで。……ちょっと気むずかしいのと、『料理人』の癖にフィールドでとるから、あんま店はやってへんねんけどな」


 そう言い、ニヤッと笑うキャル。

 

(まぁ、焼き鮭定食以外の美味いものがあるなら大歓迎だな)


 俺はそう思って、キャルに頷き、その銀の騎士団御用達という定食屋に向かうのだった。



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