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1-2 黒の魔道書


 少女らは、再びこの地を訪れていた。少女を長い時間縛り付けていた場所、奴隷収容所へと。


 中に入ると、奴隷の頃の記憶が強烈に蘇る。あの地獄のような苦痛の日々が……

 こんなところにいたなんて、信じることができない。



 しかし、今の収容所は人影はなく、閑散としている。



(レムさん、私、どこに埋めたかは覚えてないんです。確かにここに埋めたんですけれど)


「大丈夫、心配しないで。先にあいつがもう見つけているはずだから」

(あいつって誰ですか?)

「まあ、それは後のお楽しみってことで」

 そういうと、レムは収容所の奥へと進んでいった。

 スフィアも遅れないようについてゆく。


 たどりついたのは、収容所の最深部だった。レムはその一番奥にある監視室へと向かう。


 監視室の中は薄暗く、汚れている。と言っても奴隷たちのいたところよりは数倍きれいだ。


「お、いたいた。あいつだよ」

 レムは本棚の方を指差した。そこには、1つの人影はいた。

「よう、久しぶりだな」

 その一言で、人影はこちらがいることに気づく。

「なんだ、レムじゃないか。どうしてまだ、ここにいるんだ?依頼は終えたはずだろ」

「まあ、いろいろあってな」

 レムの前に立っているこの男、年齢は同じくらいで身長は少し高いくらいである。


(あの、レムさん。この人は?)

「ああ、説明が遅れたね。こいつはライル・ノワール、俺の知り合いでアンダーテイカーであり、悪魔と契約したやつさ」

「そういうこと。そんでレム、このかわいい少女は誰だよ。それにあの石をなんで使ってるんだ?」

「この子は、スフィア。元ここの奴隷で今はいろいろ事情があって俺が保護してる。声が出ないのもわけありってやつだ」


「なるほどな。それにここの元奴隷か、ということは唯一の……」

「その話は、ここをでてからにしようぜ。この場所はあまりいいところじゃないからね」

「それもそうだな、ひとまずでるか」

「さあいこう、スフィア」

(うん……)


 さっきの話、ライルさんが言いたいことを無理やり割って入ったような……気のせいだろうか?

 少女の心にはなにか引っかかるものを感じた。




 収容所の外に出ると、辺りは夕日に包まれていた。

「それでレムは仕事を終えたのにどうしてここにきたんだ?」

 ライルから質問が飛んでくる。

「なあ、ライル。この中で一冊の本を見なかったか?」

「本?もしかしてこれのことか?」

 そういうと、ライルは一冊の本を取り出した。その本の表紙は漆黒に包まれていた。

「収容所の床の中に埋められているのを見つけたんだ。中身を見てもなにも書かれていなかったが、この本がどうかしたのか?」

 ライルは不思議そうにその本を見つめる。

「スフィア、あの本なのか?」


 スフィアは、その本を手にとってみる。触ってみると懐かしい手触り、間違いない!自分が探していた本はこの本だ。


 スフィアは、レムを見つめ、そしてニッコリと笑みを浮べながら首を縦に振った。

「そうか!見つかってよかったな」


「おいおい、2人だけわかったような顔をして、この本がどうかしたのかよ」

 自分だけ仲間はずれにされた気分のライルは少しふてくされている。


「この少女は記憶喪失なんだよ。だけど、スフィアは自分の大切にしていた本のことは唯一覚えていたってわけだ。それがこの本ってわけだ」


「そういうことか、つまりレムはこの本を足がかりにして少女の記憶を少しでも思いださせようってことなんだな」

「まあ、そんなところだ。だからライル、この本譲ってくれないか?」


「うーんどうするかな……」

 少女は、不安な表情でそれを見つめる。

「そういうことなら、しょうがねえか。いいよ譲ってやるよ」


「まじか?やったな、スフィア!」

(うん!ライルさんっていい人だね)

「ホントは、こういうことしちゃあんまり良くないんだけどな。今回は特別だ」

「恩に着るぜ、ライル。やっぱお前はいいやつだな」

「当たり前だ。ただ、妙なことがある」

「妙なこと?」

「ああ、その本はなにか特別な施しを受けているみたいだ。おそらく、その本も魔道書の一種だ。まだ、一部しかわかっていないが、その本はデュエルをすると自立的にシールドを組むような術式があった。おそらく他にもいろいろな力を宿しているようだが、俺には解読できなかった」


「そんな、力があるのか。なんかすごい産物だな」

「俺もそんなものを見たのは久しぶりだったよ」

 ライルの表情が生き生きしている。おそらく、本当に珍しい本なのだろう。


「なあ、スフィア何かその本を持って気づいたこととか、思い出したことがあったか?」


(特には……ただ、この本を持っているとなんだか懐かしい気がします)


「そっかー」



 少女はこのとき嘘をついていた。

 つこうとして嘘をついたわけではないが、なぜか本当のことを話せなかった。

 本当は、この本を手にしたときから何かを感じ取っていた。この本を通してなにかが自分の中に流れてくるような気がした。

 それに、僅かながらも、記憶が蘇る。


(ここは、どこだろう?わからない……だが、たくさんの人々の悲鳴が頭の中にガンガンと響く。

 その光景はまるで、世界の終わりが来たかのようだ。


 そして、どうしてあなたが、あなたたちが私の記憶の中にがいるの?教えてよ)



 そう、少女の記憶の中にいた人物、スフィアの知っている人。

 

 レム・クロウ・フォードとライル・ノワールの姿がそこにはいた。

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