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1-1 それぞれの過去

――少女は暗闇の中から目覚める。

 気づくとそこはいつも寝ていた冷たい床ではなく、暖かいベッド。それもふかふかだ。


(どうして、こんなところにいるのだろう……)

 少女は自分の記憶を少しずつ思い出そうとする。

 たしか、少年が私たちのことを解放して、少年のあとを追っていたんだ。

 そうか、思い出した!そのあと少年を追っている途中で力尽きたのだった。

 でも、どうしてベッドで寝ているのかは思い出せない。というより記憶にない。


「やあ、気がついたかい?」

 そこには、少女を助けた少年の姿があった。

 だが、その一言があまりにも不意をついていたため、少女はビクッと体を強張らせた。


「驚かせちゃったかな?まあ、そう怖がらないで」

 少年はそういうと、ニッコリと微笑んだ。

 その笑顔に安心したのか、体を強張らせていた力がスッと抜けていった。


『ぐ~っ』

 音は少女のお腹から響いた。緊張が解けたためか、少女は空腹であることを思い出した。

 その直後、少女の顔は真っ赤なりんごのように赤くなった。


「お腹がすいているみたいだね、まああの中なら無理もないか。ちょっと待っててね」

 少年はそういうと、少しの間少女の前から姿を消した。



 数分後、戻ってきた少年の手にはカップに入れられたスープと、皿に乗せられたパンが握られていた。「これ食べるといいよ。少しでも食べれば元気がでるしね」 

 そういうと、少年はスープとパンを手渡した。



 少女はそれを受け取ると、口へと運んだ。


(おいしい……)

 こんな感情が生まれたのはいつ以来だろうか。

 そんなことを思いながらも少女はあっという間にスープとパンをたいらげた。


 久しぶりに胃が食べ物で満たされる感覚だ。


「どうやら、お腹も満たされたみたいだね」

 少女は首を縦に振った。


「それじゃあ、シャワーでも浴びてくるといいよ。いつまでもそんな格好じゃかわいそうだしね」

 少女は改めて自分の姿を確認した。服は使い古された雑巾のようにボロボロであり、所々破けている。それに全身は土やほこりで汚れており、長い髪はボサボサである。

 再び、少女の顔が赤くなった。少女は一礼すると、恥ずかしさを隠すためか小走りでシャワー室のほうへと向かう。


 少女は、服を脱ぐとシャワー室へと入った。蛇口をひねると温かいお湯が頭の上に降ってきた。

(気持ちいい……)

 今思えば、奴隷となってからシャワーなんて浴びたことがない。あったとすれば何度か冷水をかけられたくらいだろうか。あの時は辛かった。



 シャワーを浴び終えると少女の前には一着の白いワンピースがおいてあった。

(あの少年が置いていってくれたのだろうか?)

 そんなことを思いながら少女はそのワンピースを着る。

(サイズもぴったりだ。それにかわいい!)

 気に入ってしまった。少女はワンピースを着たままその場を後にした。



「ワンピース気に入ってくれた?君の服をベースにして魔法で再練成してみたんだんだけど」


 少女は顔を赤らめながらも首を縦に振った。 

 

「気に入ってくれてよかったよ。そういえば、まだ自己紹介がすんでなかったね。俺の名前はレム・クロウ・フォード。レムとでも呼んでくれ」


 そう言われると、少女は自分の伝えたい言葉を口にしようとする。


 だが、声がでない……


 少女は焦り、自分の両手を喉に当てる。その時、手首についている枷どうしがぶつかるが、今はそんなことは問題ではない。

 必死に声を出そうとするが、でてくるのは吐息だけだ。


「どうしたの?もしかして……声が出ないの?」

 少女は落胆し首を縦に振る。

「奴隷だったときのストレスだろうか?それとも、他のなにかが……」

 レムはふと考えこむ。

 しかし少女は、心が絶望でいっぱいだった。奴隷だった頃とは違うような、けれど心が握りつぶされそうになるほど悲しみで溢れる。

(どうして、自分がこうなったのか虚しくてしょうがない)

 その悲しみは少女に一粒の涙を流させる。


「そうだ、いいものがある」

 そういうと、レムはどこからか小さな石を取り出した。海のように淡い青の石だ。


「この石は少し特別な石なんだ。君にあげるよ」

 レムは、その石を少女に差し出す。

 少女は、零れ落ちた涙を拭き、石を受け取る。


「その石を握って言葉を伝えたい人のことを思ってみて」

 少女は言われるままに、石を強く握り言葉を伝えたい人のことを思う。

 少女が伝えたいこと、それはレムにお礼を言いたい。

(私を解放してくれてありがとうと)


「ありがとうだなんてなんだか照れくさい気分だな」

 その一言に、少女はポカンと口をひらいた。

(どうして、私の言いたいことがわかるの?)

 そんな顔をしていた。


「ごめん、ごめん。説明がまだだったね。その石にはある魔力が含まれていてね、その魔力を使って声を使わずに相手に気持ちを伝えることができる代物なんだ」

 少女は納得した。だから声を出さなくても言葉が伝わったわけか。


「それじゃあ、意思疎通ができるようになったし改めて自己紹介しようか。

 俺の名前はレム、魔術師さ。君の名前は?」


(スフィア……っていいます)


「スフィアか、いい名前だね。そういえば奴隷になる前は何をしていたの?」


(――あまり、覚えてません)


「そうか、やっぱり奴隷のときの精神的ショックが大きいのかな?」


(ただ、1つだけ覚えていることがあります。奴隷になる前に私は大切な本を持っていました)


「本か、じゃあその本を見ればなにか思い出せるかもしれないね。その本はどこにあるの?」

(埋めました。私がつかまる前に、たぶん探せばあると思うんですけど)


「そっか、じゃあ探しに行こうか。この俺でよければ探すのを手伝うよ」


(えっ)

 少女は驚きを隠せなかった。なぜ、私にここまでしてくれるのだろう?何のメリットもないのに……



(1つ、聞いてもいいですか?)

 少女は恐る恐る口を開いた。

「なんだい?」

(どうして、私をこんなにも助けてくれるんですか?そこらへんにいた奴隷と変わらないのに。それに私を助けても何も得ることはできませんよ)


「うーん、罪滅ぼしかな。詳しくはいえないけど、俺は昔、大きな罪を背負ったんだ。それも、人が何十人も死ぬようなね。だから、それを少しでも償うためにね」


 少年の瞳はどこか虚ろだった。少なくとも少女はそのように感じた。

 その姿を見て、少女は思った。自分を助けてくれたお礼になにかできないだろうか。

 そして、その考えは1つの結論にたどり着く。


(レムさん、改めてお願いです。私の本を探すのを手伝ってくれませんか?)

 これが、少女のだした答えであり、少女かできる最善の策だった。


 レムは満面の笑みで答えてくれた。

「もちろん、この俺でよければね」 

(ありがとう)

 少女も、満面の笑みで答えた。


「それで、本は何処に埋めたんだい?」


(うん、それはね……)


 そこは少女には忘れられないところ、忘れることができないところだった。

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