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Part2 I am uneasy in tomorrow1/2

 ここは笹下町。空気が冷える朝方の時間帯は誰も外に出ていない。

狭い商店街の裏通り。この薄暗い場所に数人の男女が集まっている。

「ハァ~!? こんな所にも『滅仏士(じょぶつし)』がいんのぉ~?」

「この町は我々の同類が少ないと見ていたが・・・矢張りそうだったか」

数人の内の2人は、例の鹿角の男性と牛角の女性だった。

「ああ、僕と『ベア』はこの目で見たよ」

「何それ? 私もう疲れたんだけどぉー?」

「文句なら僕じゃなくて、その『滅仏士』に言ってくれよ・・・」

鹿角の男性と話しをしている2人の男女もまた妙な格好をしている。

1人は言葉使いの悪い女性だった。その頭には猫の耳の様な物が生えている。

「そいつとは、一戦交えたのか?」

「ああ、中々骨のある奴だったね。歳はまだ若い方だと思うよ」

「若者か・・・それなら我々が気にする心配は無いだろう」

もう一人は無精に髭を生やした黒コートの男性。その頭は所々に白く染めてあった。

この2人以外は路地の奥側にもう1人の男性がいた。その男性は話しに入って来ない。

「ここで暫く身を隠すつもりだったけど・・・どうする?」

「お前が見つからなければ、我々は慌てる必要は無かったのだぞ」

「それは、そうだけどぉ・・・―――」

「結局『イブ』のせいじゃねーかよ! オメェ死ねよ!!」

彼女が口悪く言うと牛角の女性が前に来て無言で彼女の服の胸倉を掴む。

服を掴まれた猫耳の女性は、牛角の女の頬に手の甲を当て、その顔を睨んだ。

その手の人差し指と中指には、マニキュアが塗られた鋭く長い爪が生えている。

「『ベア』! 『カーリー』!」

黒コートの男性の罵声を受けた2人は、何も言わず互いに少し離れた距離に移動する。

「イブ・・・見たのはその1人だけか?」

「今の所はね。『カラス』はどう考えてる訳?」

「向こうの対応しだいでは、また他の場所に移へ――」

「――そんな必要はねぇーよ!!」

突然、奥にいた男性が黒コートの男に向かって叫んだ。

グレーのキャプを被ったその男は気だるい態度で2人の元へと歩いてくる。

その男の両腕には数本の鎖が巻かれている。その鎖が動く度に音を立てた。

「見つけたら、喰えば良いだけの話だ!」

「『フェンリル』・・・いくら良い人間がいないとは言え――」

「――ビビってたら喰えるモンも喰えねぇーんだよ! 分かるか!?」

男がそう叫ぶと『カラス』は黙りこんでしまった。周りの空気に重みが増した。

『イブ』『ベア』『カーリー』『カラス』・・・そして『フェンリル』と呼ばれる男。

この五人からはその姿に相応しくない『存在感』が燦々と滲み出ていた。

「おい『イブ』! そいつを見つけたら叩き潰せ!」

それだけを言うと男は地面を蹴って飛躍して建物を乗り越えて行った。

『カーリー』と呼ばれている猫耳の女も、男の後を追って建物を乗り越えた。

「・・・このチームのリーダーを彼に任して良いのだろうか?」

この場に残った『カラス』は『イブ』に声を掛ける。

「そもそも『HUNTING×PHANTOM』を作ったのは彼だしね。そこは仕方ないよ」

『イブ』がそう答えると「そうか」とだけ言って路地裏の奥へと姿を消した。

「さぁ・・・僕達も行こうか。『ベア』」

『イブ』は『ベア』と共に裏路地を出て人が多い表路地へと出た。

出勤やごみ出しで外に出ている人がチラホラと見える。

周りの人達は路地を歩く奇妙2人組に何の反応を示さなかった・・・―――


―◆―◇―◆―◇―◆―


私は今、シャワーを浴びている。全身にお湯をかけて体を温める。

あれから私はベッドの上で眠ってしまった。汗の臭いが服に染み込んでいる。

昨日の事は思い出さない様にしている。冷静になった今からしてはとても信じられない。

優しいおじいさんの後に不気味な人。とても変わった少年。訳の分からない一日。

私は暫く何も考えないでシャワーを浴びた。熱いお湯で目が覚めるだろうから。


目は覚めた。頭の中もスッキリしてきた。それでも体がダルイ。

これは筋肉痛というものだ。昨日は必死になって走ったからこうなったのだろう。

普段から運動と呼べる程の事をしていないから体中が痛くて仕方が無い。

バスタオルで体を拭いてから服を着る。そうしてリビングへ向かう。誰も居ない。

私の家は父と母が両方とも早朝から仕事に出ている。朝は私と三匹の犬しか居ない。

「・・・・・・――――」

キッチンの隅で固まって寝ている三匹の犬を踏まない様に歩いて冷蔵庫を開けた。

サランラップに包まれた皿の中にソーセージと目玉焼きが置いてあった。

犬を踏まない様にしてキッチンを出てレンジでそれを温めた。その間にパンを焼く。

キッチンの床にだらしなく寝ている三匹の犬は言うまでもなく家のペットだ。

三匹のゴールデンレトリバー。名前はメリーとリリーとメニー。三匹ともオス。

仕事で家を開ける事が多い両親が、可愛い動物が好きだった私の為に買ってきた犬だ。

最初は小型の犬と勘違いしていた。今くらいの大きさになって大型だと気が付いた。


レンジの音でリリーが目を覚ました。眠たい頭を私の足に寄せて来くる。可愛い。

リリーに手を伸ばしていると、オーブンに入れたパンが程良く焼けた。

上にスライスチーズを乗せて焼いたパンの香ばしい匂いで他の二匹も目を覚ます。

目玉焼きとソーセージとパン。これが今日の朝ごはん。一人で食べる朝だ。

もう何年も同じ様な朝を繰返している。食べる物も殆ど同じ物。面白みの無い朝。

犬達に餌をあげてから洗面所へ向かう。歯を磨いて顔を洗う。これも同じ。

ハンドバックに教科書と筆記用具を入れたら準備万全。靴を履いて外に出る。

まだ寒い三月の朝。私は新学期が始まる北小学校へと向かう。

これが私の朝。多分これから先も変わらない朝。これが一日の始まり。


―◇―◆―◇―◆―◇―


 星ノ宮市立北小学校。略して北小。私が六年間通う小学校。

他の小学校に行った事が無いから断言はできないけど至って普通の学校。

『自由と団結』をモットーにしている学校なので合唱には力を入れている。

私は小門から校舎に入って玄関で上履へ履き替えてから新しいクラス表を見た。

私の居るクラスは『六年二組』だった。これで三年連続の二組になる。

二組には知っている人が居なかった。少し落ち込んだ私の所にチズとシキが来た。

「おはよう!・・・ってどうしたの? そんな暗い顔して?」

ショートが可愛い『シキ』こと『(るい)(かわ)四季(しき)』が私の落ち込んだ肩を軽く叩いた。

「どうせ、同じクラスじゃなかったから落ち込んでるのよ」

シキと反対にロングの『チヅ』こと『安東(あんどう)千鶴(ちづる)』が私の思考を鋭く突いて来た。

「2人と同じクラスが良かったな・・・シキとチヅは何組なの?」

「私は四組でシキが五組なの。私達はバラバラになる運命にあったの!」

「そんな怖いこと言わないでよ!」

決まってしまった事に反対を押しつける真似はしない。それでも―――

「――最後の一年間なのにクラスに友達がいないのは辛いな・・・」

「何言ってんのよ。クラスが違うだけで友達は変わらないでしょ?」

「そうだよ! 新しい友達を作ればいいんだよ! ね!」

親友の2人に勇気付けられた私は渋々二組へ向かった。六年の教室は最上階にある。

六階まで階段を上るのは大変だった。これから毎日上るのかと思うとゾッとする。

そんな思いで教室へたどり着いた。真っ先に視界に入ったのは窓からの眺めだった。

今まで行った事がなかった六年の教室から見る敷涙町の景色。初めて見た。

私が知っている町だけあって、その階から見た町が小さく見えるのが分かる。

私達が住んでいる町がこんなにも小さく見えるとは思ってもいなかった。

車や歩く人の細かな動き。建物の間を流れる風。町から生まれる音。私の町の記憶。

12歳になったばかりの私の中に、その全てが一瞬で流れ込んできた様な気がした。

もちろん気がしただけ。こんな事でこの町が理解できるハズがない・・・――――


―◆―◇―◆―◇―◆―


赤姫が顔を出している窓の反対側には北小のグラウンドがある。

風が吹く度に砂埃が宙を舞うグラウンドの中心には大きな木が寂しく立っていた。

その木は北小創設当時に植えた桜である。北小と共に時を歩んで45年目になる。

北小のシンボルである桜を見ている一人の少年がいた。黒のニットを被っている。

綺麗な花を咲かせた桜は、風が吹く度に淡い桃色の花弁を静かに散らして行く―――


「綺麗な桜でしょ? この学校のシンボルなの!」

「・・・・・・――――」

桜を見上げる少年に声を掛けたのは教職員の『久美野鎖夜世(くみのさやよ)』である。

金髪に染めた頭に顔のピアスが印象的な体育教師で、この少年の担任でもある。

笑顔で側に寄る久美野に対して、少年は教師の言葉を無視して桜を眺めている。

「私はこの桜が好でね・・・矢親くんは花とか観賞するのは好き?」

「・・・・・・――――」

余程、その桜に集中しているのか、少年から返事は返って来なかった。

そんな少年に久美野は小さな溜息を吐いた。新米の教師には荷が重い生徒だ。

久美野が少年に目を戻すと、少年は手を前に出して人差し指で下を指していた。

口を大きく動かして何かを訴えている。まるで桜に指示を出している様だった。

その行動を疑問に思った久美野は意を決して少年に声を掛ける。すると―――

「矢親くん? 何をやって―――」

「いいから、早く降りてこい!!」

少年は怒涛に溢れた声を出して桜を叱った。それ驚いた久美野は少年から後退した。

桜に話しかけている感じでは無かった。見えない何かに話し掛けている方が正しい。

結果はどちらにしても、この少年が普通で無い事は十分に理解できる。


「えっと・・・矢親くん?」

もう一度恐る恐る少年に声を掛けると、それが耳に届いた様だ。

桜に怒鳴っている少年は久美野の存在に気付く。桜から目を放してこちらを向いた。

「あれ? 居たんですか?」

「さっきからずっと居たんだけどね・・・それよりさっきの何?」

「ああ、気にしないでください。独り言ですから」

等と簡単に言われても久美野はそれで事を収める気には成れなかった。

少年が喋り終わるとチャイムの音が学校に鳴り響いた。ここから学校の一日が始まる。

チャイムを聞いた久美野は携帯の時計を確認してから少年に教室へ向かうように伝えた。

「教室に戻ったら矢親くんの自己紹介と簡単な挨拶を済ませるから。緊張しないでね!」

「もう慣れてるから平気ですよ・・・―――」

そう言って少年はグラウンドを後にした。途中に何度も桜に目を向けた。

久美野は気になって少年と同じ様に桜を見たが至って普通の桜であった。

「・・・じゃあね、バイバイ!―――」

少年を真似して久美野も桜に手を振った。無邪気な童心に返った気分だった。

それに答えるはずがない桜を後にして久美野は急いで職員室へ戻って行く。

「―――バイバーイ!」

久美野は立ち止まって後ろを振り向いた。視界に映るのは砂風に揺れる桜だけ。

眉間に皺を寄せる久美野は桜の元に戻ろうとした、が、時間が迫っている。

自分の興味より職業を優先して、久美野は桜を後にして職員室へと戻る。

その後ろ姿を見ている者が居るとも知らずに・・・――――


―◇―◆―◇―◆―◇―


 教室の中は新しいクラスに興奮を覚える生徒達の活気で一杯になっている。

同じクラスになった事に喜びを感じる生徒。気の合う仲間と楽しく騒ぐ生徒。

私もそうやって騒ぎ立てる方なのだが、今は静かに机に突っ伏している。

友達が居ないクラスに嫌気を指す深々とした内心が見事に態度へ表れている。

寂しいなぁ・・・チズとシキは今頃どうしているのだろうか?

「どうしたんですか? 元気ないですね?」

隣の席に座っている女子が気だるい私に優しく声を掛けてくれた。

その女子は読書中だった。私の事が余程気になったのだろうか?

「友達と別々のクラスになっちゃって・・・」

「じゃあ、それで落ち込んでいるんですか?」

セミロングに似合う優しい笑みが、私の心を軽くしてくれるのを感じる。

「う~ん・・・まぁ、そんな感じかなぁ」

「その気持ちは分かりますよ。1人になるのに慣れていないんですね」

えっ?・・・一人に慣れていない? それってどういう事なの?

「家にいる時は何時も一人で平気だけど・・・やっぱり、学校にいる時は違うのかな?」

そうだよ。家には誰も居ない。父親も母親も私を見てくれないんだもの。

チズにシキもクラスが変わったら付き合いが無くなるのかもしれない。

私は1人という物を身近に感じている。隔離に似た感覚が私の中で渦巻いている。 

「もしかしたら家に居る時は、一人じゃないのかもしれませんよ?」

彼女はそう言うと、手に持っている本を開いて再び読書に没頭した。

その優しい目が『神秘と創造』と書かれた本を真剣な眼差しで見つめている。

私は彼女の言った事を詳しく聞こうと声を掛け様とした。だけど―――

「――ハーイ! みんな席に付いて!」

先生が教室に入ってきた。このクラスの担任になった久美野先生だ。

相変わらず派手な頭にシャツとジャージだけの質素な格好はこの先生の特徴でもある。

去年この学校の教師になったばかりなので、この先生の事はまだ詳しくは知らない。

「えーと、六年二組の担任になりました、久美野鎖夜世です!」

この学校の先生に興味がある訳じゃないけど私はこの先生の事が少し気になっている。

先生は見た感じ明るくて元気な人だ。私は表だけでもそんな風になりたい。

落ち込んでばかりの私じゃあ色んな人から心配ばかりされちゃう。それは嫌だ。

「私の自己紹介よりも、新しく来た転校生の自己紹介の方が大事よね!」

先生のこの一言で二組の空気に期待と興奮が加わった。転校生が来る何て聞いてない。

そもそも新学期の転校生は、始業式に全校生徒に紹介されてから教室に来るはずなのに。

どうして始業式の前に教室に来るのだろうか? 何か特別な理由でもあるの?

そんな細かい事を気にしているのは私だけだろう。周りの生徒達はそれ所では無い。

新しい生徒の顔が気になって仕方がない様子だ。そうでも無い生徒も少数いた。

「静かにしなさい! それじゃあ、入って来て!」

先生が教室のドアを開けた。何事も無い様な顔をした一人の少年が教室に入って来た。


その瞬間、私は声を出して驚いた。その少年は昨日の少年と同じ顔だった―――


                   ◆I am uneasy in tomorrow1/2◇ ―≪END≫―


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