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どこかの異世界で

ラスモブは記録中

作者: 浮月重月
掲載日:2026/07/03

ここ、人類が言うところの魔族領。

魔王城謁見の間、漆黒の扉が重苦しい音と共に左右に開かれ、一人の男が姿を現しました。


あ、わたし魔王陛下直属の書記官やってます。陛下からやや離れた位置で記録とってます。


「この場所までよくぞたどり着けたものだ。そうは見えぬが貴様が勇者か」


陛下御指摘のとおりで、現れた男は武器も持っているように見えませんし、防具もつけていません。

それなりにきっちりした服装はしていますが、場違い感が半端ありません。

勇者一行の四人組には外見の事前情報があったのですが、その誰にも当てはまらないような…。


「いや、ボクは勇者じゃないっスよ。記録係っス。勇者一行の活動や勝敗報告を記録して、本国へ通信魔法で送ってるんス。勝てた場合はいいんスが、最悪全滅したりしたら次の勇者候補とか探さないといけないらしいんで、彼らとはすこーし離れて付いてきてるんス」


なるほど、人間側もわたしみたいな役割の者がいるのですね。わたしも戦闘はからっきしですし。

…ん?なんで記録係だけここに来てるんでしょう?


「記録係とやら、なぜおぬしだけここへ来たのだ?勇者一行はどうした。先日放った魔王四将軍と戦って全滅でもしたか?」


陛下も疑問に思われたようですね。でも全滅したなら記録係がここに来る必要もありませんし。


「あー…そちらの四将軍?のひとりとうちの勇者が駆け落ちして、剣豪と魔法使いと聖女が連れ戻しに行ってるんス。仕方ないんでここで待ってようかと」


『はい?』


あ、しゃべるつもりなかったのに思わず陛下とハモっちゃいました。いや駆け落ちて。


「…『誘惑のベラドンナ』だな…あやつは何を考えておる。四将軍に自由にやれ、とは指示したが」


「うわ、そんな色気ある名前だったんスか、あのおっさん。ちゃんと記録しておかないと」


「ん?人間から見てもあやつは女に見えるだろうに。大ぶりの乳房も隠しておらんのだし」


「乳房っつうか、あれは大胸筋じゃないスか?ムチムチというよりムキムキの」


陛下、やや素が出ておられます。なんというか会話がかみ合っているようないないような。


「全身刺青の、両腕に血錆の浮いたでかい鉈持ったおっさんに見えたんスが」


『あ。』


また陛下とハモりました。とんでもない誤解だったようです。


「そやつは『虐殺のグレゴール』ではないかっ!あやつは本気で何を考えておるのだっ!」


「あ、やはりおっさんなんスね。なんか『真実の愛に目覚めた』とか言ってたッスよ、そのひと」


こんなところで人間界大流行中のセリフを聞くとは思いませんでしたよ。目覚めちゃったんだ。


「お互いに死線を潜り抜けるような激闘で目覚めちゃったんスかねぇ。ほら、吊り橋効果とかいう」


「違うだろぉっ!それはっ!何かがっ!!」


確かにお互い生命の危機だったとは思いますが、わたしも吊り橋効果とは違うと思います。

陛下も戦闘ではないのにエキサイトされておられます。無理ありませんが。


「いや待て。四将軍の他三名はどうしたのだ。駆け落ちしたグレゴールを連れ戻しに行ったのか?」


そう言えば他の方々がいましたよね。棒立ちだったとも思えませんが。


「色々理由つけてどっか行ったっスよ、みなさん」


「どっか行ったってなに」


陛下、もう威厳をお忘れですよ。もう遅いかもしれませんが取り繕いませんと。


「あー、全身ドクロの装飾だらけのひとは『自分探しの旅に出る』とか言ってたっス」


「『墓土のノクトゥス』っ!戦闘中に目覚めるな、そんなもんっ!」


「で、お色気担当っぽい青肌のおねえさん?は『勝負下着忘れた』って」


「『誘惑のベラドンナ』っ!普段からほぼ全裸だろうがあやつはっ!」


「あと、口以外のっぺらぼうの白いひとは『目の中にゴミが入った』と」


「『無貌のネモ』っ!あやつ物理的な目玉ついてないだろうっ!」


わめきつつ頭をかきむしる陛下。僭越ながらお気持ちは分かります。主戦力がこれでは。

最強を誇るグレゴールさんがいなくなったんで、勝機なしと思ってみなさん逃げちゃったんですかねぇ。


「…なんというか、人間界侵攻が馬鹿馬鹿しくなってきたぞ…なんのために戦っているのか」


魔族は基本身勝手ですので部下の裏切りぐらいは想定されてたのでしょうが、これは職場放棄ですし。

魔王軍とかあってもなくても思いのまま動いちゃうんでしょうね。ゴーイングアウァウェイで。


「あ、ここまで来ておいてなんですけど、ボクここで待たせてもらってていいスかね?」


「あーもう好きにせよ。予は寝る。ふて寝する。勇者一行が来たら呼ぶがよい」


かしこまりました。お休みなさいませ、陛下。

しかしこの直前のグダグダで、後日最終決戦やるのでしょうか。まあわたしは記録するだけですが。

虐殺のグレゴール

…巨体と膂力を活かした物理攻撃で魔王軍最強を誇る。割と尽くすタイプ。


墓土のノクトゥス

…ネクロマンサー。ドクロの装飾品には何も効果がなく、かっこいいと思って着けている。重症。


誘惑のベラドンナ

…魅了と猛毒の使い手。能力ゆえ攻めすぎたコスチュームが災いし、未だ初彼氏にたどり着けない。


無貌のネモ

…未来視でより都合よい未来を引き寄せる特殊能力者。最善の未来で三枚おろしだったので逃亡。

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