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魔王に愛を教えなきゃ世界は滅亡するそうです……?

掲載日:2026/06/09




 いわゆる、聖女召喚というものらしい。

 私がトチ狂っていなければ、だけど。


『やだわぁ。だから本当に聖女なんだって!』


 脳内に響く、ダンディ声なのにオネェ言葉の自称女神いわく。

 え? 夢? とか思ったけれど、頬をつねってみろと言われてつねったら、普通に痛かった。


『この先にある鬱蒼としたお城が魔王城よ。じゃ、頑張ってね!』

「えっ、ちょっと!? 待ってよ! なんで私が!」


 女神がエステの予約時間だからとかなんとか言ったあと、脳内でブツッと何かが切れるような音がした。

 たぶんテレパシーとか何かそういうのを切ったのだろう。

 イラッとした私の脳血管が切れた音じゃないことを祈る。


「…………なんで私が」


 そうボヤいても、鬱蒼とした森の中には誰もいない。


「ハァ。もおっ!」


 ここは魔王領にある魔の森で、危険な魔獣たちがいるらしい。今は女神パゥワーとかで散らしている魔獣たちだが、一時間程度で戻ってくるらしい。魔獣たちに食べられたくなければ、魔王城に急げとかオネェ女神が言っていた。

 一応その言葉を信じることにして立ち上がり、制服のズボンに付いた枯れ葉や土を払って魔王城を目指すことにした。


 


「女神の遣い…………だと? これで何人目だ」


 ――――何人目?


 鬱蒼とした森を抜けた先にあったのは、鬱蒼としていてボロッともしている苔まみれのお城だった。

 門にいたワニ顔の二足歩行の人に魔王に会いに来たと言うと、お城の中に案内されてあれよあれよという間に魔王との面会が叶ってしまった。

 こんなに簡単に会えていいのだろうか。

 魔王というのは、いわゆる国王もしくは社長のようなものではないのだろうか。


 広い謁見の間にぽつんと置かれた豪奢な椅子に盛装をした白銀ストレートロン毛の男性が足を組んで座っていた。真っ赤な角と、真っ赤な瞳。明らかに日本人ではない見た目の魔王のおかげで、ここは本当に異世界なのだなと納得できた。


 そして、先ほどの魔王のセリフ。

 おいこら女神、何人も送り込んだ後なのか。しかも、送り込んでいることが魔王にバレてるのか。

 もう、ツッコミどころしかないじゃないの。


「これで八人目でございます」


 魔王の斜め後ろに立っていた執事のような山羊頭の人が、腰を折りながら魔王にそう伝えた。


 ――――八人って!


「ハァ……で、お前はなぜここに来た」

「先ほども申しましたように──」


 高校の学生寮で住み込み寮母として働いていた。仕事に誇りを持っていた。

 食べ盛りの子たちの胃を満たすべく、大量の唐揚げを揚げ終えたところで、ヒュンとこの世界に飛ばされてきた。火を消したとは思うが、ちょっと定かではないのが心配ではある。

 

「ハァ……あの女神は馬鹿なのか? 愛を教える? 正面切ってそれを言われて、ハイそうですかと受け入れるヤツがいるとでも? そもそも、それで受け入れる程度なら、愛を欲している自覚があるからすぐ解決するだろうが。そんなんでいちいち異世界から人を呼び寄せるとか、女神の方が悪質じゃねぇか。れっきとした誘拐事件だろ」


 グゥの音も出ないほどの正論だった。

 いやほんとそうなんですよ、代弁ありがとうございます! と言いたい。


「まぁ、とりあえず……お前は帰れ」


 ――――ですよねぇ。


「あの、帰れと言われましても、帰る場所を失いまして」

「女神に送り返してもらえ」


 素気なく答えるこの感じ、まさに魔王。逆に? 好感度はあるが、自分に適応されるとちょっと困る。


「エステに行くから! と、脳内通信?を切られました。私からの連絡方法はありません」

「「……は?」」


 魔王も執事の人もポカンとしていた。

 これはもう畳み掛けてどうにか有耶無耶にしつつ、安全確保に努めたい。


「とりあえずでいいので、女神と連絡が取れるまでここに置いてはいただけませんか?」

「お前が俺たちに危害を加えないという保証がないのに?」


 真っ赤な瞳に、明らかな敵意を乗せて睨まれてしまった。流石に怖い。

 というか、何の力もないか弱い人間に、魔王や魔族の人たちをどうにか出来るわけないと思うのだけど。

 でも、『危害』と言うってことは、過去の八人で何かがあった、とか?


「本当に、迷惑なんですよね。色仕掛け、テンプテーション、毒殺、洗脳……いろいろありましたねぇ」

「毒殺!?」


 毒殺ってなに!? 愛を教えるために派遣されたのよね? なんで毒殺!?

 あまりにもビックリしすぎて、声が漏れ出てしまった。


「お前の世界には『吊り橋効果』というものがあるのだろう?」

「え……っと、はい。ありますが……?」

「毒に倒れた俺の看病をしたら、吊り橋効果とかいうやつで愛が芽生えるとかなんとか、命乞いしていたぞ」


 ――――命乞い。


 待って、その人はその後どうなったの? どうなっても自業自得ではありそうなんだけど。聞きたいようで聞きたくない。


「たっ、確かに、そのような状況が続いていたら……お前は帰れって対応、逆に凄いですね?」


 おっと本音が漏れ出てしまった。

 よく考えたら、魔王の方が優しいってどういうことなのよって、脳内が大忙しすぎる。 

 

「ハァ。このまま城の外に放り出してもいいが、勝手に野垂れ死なれても寝覚めが悪い。客間は与える。あまり外に出るなよ」


 マジか。最悪牢屋とか覚悟してたのに、まさかの客間。ほんと、魔王って人が出来すぎてない!?

 女神、見習って!




 魔王城に来て一ヵ月。

 女神との連絡は取れていない。

 あと、あり得ないほどの好待遇で、居た堪れない。


 豪華な三食、昼寝付き。監視は付くものの、人間からすると魔族は怖いだろうからと、ケルベロスの子犬の監視。

 頭は三つあるが、ほぼただの子犬。

 出会って五分もしないうちに、お腹を撫でさせてくれて、毎日一緒に寝ている。名前はまだない。

 勝手に決めていいのか分からないから、ケルベロスちゃんと呼んでいる。

 

「ねぇ、ケルベロスちゃん、お散歩に出てもいい?」

「わふぅん!」


 基本的に真ん中の頭の子が返事して、部屋から飛び出して誰かに許可をもらってきてくれる。

 オッケーだったら、ワフワフ言いながら尻尾を振って戻ってくる。駄目だと、分かりやすくしょんぼりして戻って来る。


「わっふわっふ! ワフゥン!」


 あ、この感じはオッケーなのか。

 部屋にあるハサミとバケツを持って、お散歩の準備完了。


 魔王にあまり外に出るなと言われたから、部屋から一歩も出なかったら、一週間経ったころに心配した魔王が部屋に来た。意味が分からなかった。

 ケルベロスちゃんにやりたいことを言えば、確認を取りに来るから、とりあえずなんでも希望を伝えていいと言われたので、それなら窓から見える庭園の散歩をしたいとお願いしてみたら、「…………そんなことでいいのか?」と至極不思議そうな顔で許可された。ハサミではあるものの、刃物だ。駄目だろうなと思いつつ欲しいと言ったらくれた。

 たぶんその程度では、魔族の人たちを傷つけられないから。

 なんだろう……本当に客人扱いすぎるし、優しすぎる。

 

「今日は何のお花もらおうかなぁ」

「わふぅ? わふん!」

「ふふっ。なんて言ってるのか分かんないよ」

「わふぅぅぅ」


 ケルベロスちゃんは私の言葉を理解できる。

 私はケルベロスちゃんの言葉を理解できない。

 そこだけが、少し悲しい。

 でも、イエス・ノーみたいな感じで答えられる質問をすれば、ちゃんと意思疎通は出来る。

 ケルベロスちゃんを監視にしてくれて、本当にありがたい。

 知らない世界でひとりぼっちは、少し怖いから――。




■■■




 この世界には女神が五柱いる。主神アディルヘイルと副神たち。

 主神がこの世界の全てを作ったと言われている。

 主神がこの世界の全ての生物を生み出したと言われている。

 そして、その主神は、魔族を作る途中で力尽きて長い眠りに落ちた。だから、魔族は人のなりそこない。人ならざる見た目で、魔力を暴走させるだけの危険な生物。

 そう言われている。


 副神の一人が、なぜか俺に女を充てがう。

 何が『愛』だ。愛から生まれない唯一の種族なのに。

 俺たち魔族は不完全すぎる。

 人や動物は、男と女がいて、産まれる。俺たちは、魔力溜まりから産まれる。

 魔力溜まりから産まれ、強いものが魔王になる。

 俺が産まれて五百年。その理が変わることはなかった。そしてこれからも変わることはないだろう。

 魔族に愛は必要ない――――。


『まおうしゃま、ユキが、おさんぽいきたいそうでしゅ』

「ん、許可する」


 女神から呼び出された異世界人の監視はケルベロスに任せていた。人の世界にはケルベロスに似た動物がいるから。ケルベロスと異世界人は仲良く出来ているらしい。

 異世界人――ユキは、今まで送り込まれてきた誰よりも大人しかった。

 なるべく部屋から出るなと言ったら、本当に一歩も出てこないから、部下たちが逆に心配しだした。


「あの異世界人、死んでるんじゃ!?」

「餌は与えていただろう!?」

「部屋から笑い声が聞こえるから生きてるぞ!」

「お前、ちょっとケルベロスに確認してこいよ」

「部屋を覗いたら、ケルベロスを抱きしめて寝てたぞ!」

「え、俺も見てぇ」


 そんな会話が魔王城内で繰り広げられるくらいには、魔族たちは新しい異世界人に興味津々だった。

 魔力が有り余っている魔族は、あまりにも頑丈すぎて、人間程度の力では怪我もしない。

 警戒しようがなかった。

 唯一警戒すべきはテンプテーションなどの魔法だったが、あの異世界人には魔力が全くないことから、全員の警戒心は皆無に等しかった。

 珍しいペットを手に入れた、そんな感覚なのだろう。


「おい、散歩に行くらしいぜ、見に行こうぜ!」

「……ハァ。ケガはさせるなよ」

「「はい!」」




◇◇◇




 ケルベロスちゃんと庭園に出て、カエルの庭師さんに挨拶。

 初めてのお散歩のときに、沢山咲いているお花を綺麗だと褒めたら、好きに切って持っていっていいと言われた。

 前回もらったものが枯れたので、今日は新しいお花をもらうためにお散歩に行くことにしたのだ。

 正直、こんなにのんびり過ごして何やってるんだろうとは思うものの、女神が音信不通なのでどうしょうもない。


「こんにちはー」

「おや、久しぶりだね」


 お花をもらいに来たことを伝えると、温室で珍しい花が咲いたから持って行くといいと言われた。

 早速温室に向かうと、むせ返るほどの甘い匂い――――で、昏倒したらしい。


「びゃぶぅぅぅ、びゃん! ぶゅがぅぅぅぅ!」


 目が覚めたら、ベッドの上。

 枕元には大泣き鼻水ビシャビシャのケルベロスちゃん。

 そして、顔面を舐めまくられて、色んなものでベチャベチャにされた。


「きちゃない……」

「ん、起きたか」

 

 声のする方を見ると、ベッドの横に銀髪イケメン魔王。

 イスに腰掛け、優雅に座っている。

 出会ったときは豪奢な魔王装束! って感じだったけど、今は白シャツに黒いズボンのみ。

 ノータイの会社員感の服装なのに、異様にカッコイイのは白銀の髪と角や人ならざる色した瞳のせいだろうか。

 って、そういうのはどうでもよくて。


 確か、お庭に出て温室に行ったら、どえらい目眩に襲われて座り込んだところまでは覚えてる。


「何があっ――――」

『きゃぁぁぁぁ! よかったわぁぁぁぁ! んもぉ、死んじゃうんじゃないかと思ったわよぉぉぉ!』


 聞き覚えのある、ダンディオネェ声。

 一ヵ月振りくらいだろうか。


「ユキ?」


 ――――ん?


 誰だ今私の名前を呼んだのは。ケルベロスちゃんにしてはイケヴォ過ぎ…………って、魔王か!

 眉を寄せてちょい困り顔で、少し首を傾げている。仕草が可愛すぎるくない!?


「どうした?」

「あ、久しぶりに女神が脳内で叫んでます」


 そう伝えた瞬間、魔王の眉間にギュンと深い深い渓谷が刻まれた。

 あの谷を渡るのは大変だろうな。


「…………迷惑だな?」

「まぁ、はい」

『ちょっとぉぉぉ、聞き捨てならないんだけどぉ!?』


 脳内でギャンギャン騒ぐ女神が本当に煩い。

 そもそも、なんなのよ、『魔王に愛をワカラセないと、世界が滅亡するから、さっさとブチュッとカマせ!』って。


「あのですね女神様、ブチュッとキスをカマしたところで、愛とか芽生えないですけど!? そんなんで本当に世界が救われるなら、犬に噛まれたとでも思ってやりますけども……」

『えー? 身体から始まるカンケイってアツくなぁい?』

「いや全然。身体からって、貴方それでも女神ですか! そもそも声が野太すぎるんですけ――――へ?」


 女神がどこにいるのかは知らないけど、なんとなくの感覚でベッドの上を向いて話していた。

 はたから見たら、だいぶヤバい独り言。

 

 横に座っていた魔王が立ち上がったから、呆れて部屋から出ていくんだろうと思っていた。


 ギシリ。

 軋むベッド。

 魔王が片膝をベッドに乗せて、覆い被さるようにして、顔を覗き込んできた。

 顎クイッとか初めてされた。


「んにゅっ……!?」


 ふにゅりと重なる唇。

 歯列を割入ってくる、魔王。

 

「…………で、ブチュッとカマしたが? コレで世界は救われるのか?」


 不思議そうに首を傾げる魔王。

 それはない! それはないから、魔王!

 鈍感なの!? 魔王って、鈍感なのぉぉぉぉ!?

 あと、脳内で女神が滅茶苦茶煩い。野太い声で叫び倒さないで欲しい。

 

「おい? まだ女神はいるのか?」

『はひぃっ! いるわよぉぉぉ! んもぉ、魔王ちゃんってばグイグイ系なのぉぉぉ、やだ私濡れちゃいそう!』


 気持ち悪いなヲイ。と思っていたら、魔王がジッと私を見てくる。

 ……え? これ、私通訳しなきゃなの!?


「い、います」

「俺に直接話しかけろと言え」

『魔王ちゃんの声は聞こえてるわよぉ。でも魔王ちゃんたちって、主神様との繋がりがあまりにも薄いから、私たちには話しかけられないのよぉ。それに直接関わるのも女神事情で駄目だから、聖女を介してるのっ。そんな世界の理なんて、聡い魔王ちゃんなら分かってるでしょ?』

「……とのことです」


 ――――女神事情ってなんだ?


「チッ。それで、世界を救うにはどうすればいい。なぜ世界は滅ぶ」


 ん? え、魔王って、もしかしていい人なの!?

 世界、救おうとしてるの!? それもう勇者じゃん。


『まぁ、コレは私の独り言で、別に魔王ちゃんに教えるわけじゃないんだけどぉ』


 ……デカい独り言だなぁ。


『百年後に人間界に勇者が産まれるの。その子ってば、この世界の誰よりも魔力があって主神様との魂の繋がりも強くてね、人の器には余るもんだからよく暴走するの。そんで、ガチで暴走すると世界を滅ぼせるほどなのよ。でもね、魔王ちゃんの娘に一目ぼれして、暴走しなくなるの! だから、子作りよろしくね!』


 また。脳内でブツッと通信が切れたような音がした。


「……」

「で? 女神はなんと?」

「えあ……っとぉ…………」


 ――――ハァッ!?


 いや待て、いや待ってって!

 マジで、え、コレ私が魔王に伝えるの!?

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

 滅茶苦茶イタい女じゃんそんなの!

 あと、この魔王、ヤりそう!

 いや、カッコイイけど、いや、そういう問題じゃなくて。

 あと、愛も関係なくない!?

 子作りぃぃぃぃ!?


「おい」

「ちょっと、待って!」


 マジで、どうしろと!




 ―― まさかのfin ――




最後までお付き合いありがとうございますた!

こちらのタイトルは東雲 ひつじ様(https://mypage.syosetu.com/1361258/)にいただきましたぁぁぁ。マジで最高のタイトルありがとうございます!滅茶苦茶妄想が刺激された!!!!


あ、ブクマや評価などしていただけますと、笛路が大喜びしますですん!ヽ(=´▽`=)ノ

あと、ムーンには行かんからな!!!!!!たぶん!

飛びそうな匂いしかしてないけど!!!!|彡サッ

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― 新着の感想 ―
女神様に笑いました。 脳内、魔王様がガチイケメン、好きぃ。 オチが、そこぉ(≧∇≦) 私も、続きを読みたいです!
ケルベロスちゃん可愛い〜〜!! 人間見に行く魔物さんたち可愛い…。 そして女神がゴリマッチョガングロ長身ピンクドレスで連想してしまって『女神とは…?』な気持ちに。 終わり方が面白すぎました。しかし殺生…
え? ここから、お月様へ直行ですよね???
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