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「無事に渡せたな」
「はい」
帰り道、二人は行きがけに立ち寄った小さな街にもう一度寄った。ここでもダリアはブレーデンに果実の入った冷たい紅茶を買ってもらった。ダリアは停泊した馬車の近くにあるベンチで、ブレーデンはその横で立ち飲みする。果実のほんのりとした甘さと香りが紅茶によく合っていて美味しい。
「殿下にはなんと説明するのですか?」
「そのままだ。受け取らなかったと伝える。殿下は俺が事実しか述べないのをよく分かっておられるので、それ以上詮索してこないだろう」
「ハノーヴァー卿って…」
「何だ?」
「いや…何でもないです」
「そこまで言ったなら言うべきだ」
ダリアは少し迷いながらも言った。
「こう…感情が動かされる時はあるのですか?」
「失礼だな。私にもそういう時はある」
「どんな時です?」
ダリアの問いに少し考えた様に空を眺めた後、ブレーデンは言った。
「ついさっきだな。あなたの過去の話を聞いて、あなたを裏切った男をぶん殴りたくなった」
ダリアは目を瞬いた。まさかそんな風に思っていたとは思えない程、ブレーデンは淡々とダリアの話を聞いていたからだ。
(…本当によく分からない人ね)
そう思いながらも、ブレーデンがそう感じてくれた事に、ダリアは素直に嬉しくなった。
後日、礼をしたいというジョシュアに呼ばれて再びダリアは裏口から入城した。今回もブレーデンがダリアを待っていた。
「どこにも口外はしてないな?」
「当たり前です!」
そんなやり取りをしながら例の談話室に通される。ジョシュアは既にその部屋でダリアを待っていた。
「お、お待たせして申し訳ございません」
「気にしないでくれ。俺が待ちきれなくて早く来てしまっただけだから。さあ座って」
楽し気なジョシュアに促され、ダリアもソファに座る。
「改めて本当にありがとう。君に礼をしたいんだが、ブレーデンに止められててね」
「そんな!お気になさらないでください。その様なお言葉を頂戴するだけで充分でございます」
ブレーデンが不明瞭な金の動きは危険と言っていた事だろう、とダリアは理解した。元々礼をもらおうなんて思っていないし、こうして感謝の言葉を貰う事すら驚きだ。
「もしよかったら君に何か良縁を紹介するとかーー」
「殿下」
ジョシュアの言葉を遮る様にブレーデンがジョシュアを呼んだ。
「そろそろ本題に入られては?」
「え?でももう少し感謝の気持ちを…」
「あまり時間はありませんので」
(…ん?なんだ?)
よく分からない二人のやり取りにダリアの表情がどんどん強張る。ジョシュアがゆっくりと口を開く。
「…実は、他国の姫との婚姻が決まったんだ」
「それは…誠におめでとうございます」
するとジョシュアは膝に肘を置き、両手を組んだ所に顎を乗せてなぜかテーブルの一点を見つめ始めた。
(ちょっと待って…前もこの光景を見た気が)
焦り始めたダリアをよそに、ジョシュアは小さく息を吐いた後、意を決したように言った。
「文化も言葉も違う姫と仲良くなるにはどうしたらいいと思う?」
ただの子爵令嬢が、今度は王子と他国の姫との仲介役を任されそうだ。
fin.




