第86話 王国の線
兵が、広場を分けた。
人と人の間に、
明確な境界が引かれる。
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「下がれ」
短い命令。
だが逆らう者はいない。
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さっきまで殴り合っていた男たちが、
無言で距離を取る。
怒りは消えていない。
だが、
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押し込められた。
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アルノーはその光景を見ていた。
「……止まりました」
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「ええ」
リリアーナは答える。
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「止められました」
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神託ではなく。
合議でもなく。
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**力で**
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レオンハルトがゆっくり歩く。
群衆の間を抜ける。
誰も近づかない。
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その背中には、明確なものがあった。
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支配。
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「負傷者を運べ」
「倉庫は閉鎖だ」
「再配置は明日」
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命令が飛ぶ。
兵が動く。
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流れが変わる。
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アルノーは低く言う。
「……もう」
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「誰も決めていない状態ではない」
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「ええ」
リリアーナは頷く。
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「今は、王国が決めています」
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それは明確だった。
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その時、
背後から声がする。
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「これは暫定だ」
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レオンハルトだった。
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彼は振り向かない。
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「秩序が戻るまでの処置だ」
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「恒久ではない」
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その言葉に、アルノーが反応する。
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「では」
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「その後は」
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レオンハルトは少しだけ間を置く。
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「決める者が決める」
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曖昧な答え。
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だがそれが現実だった。
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神託か。
合議か。
それとも王国か。
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まだ決まっていない。
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その時、ルシアが言う。
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「神託は」
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全員の視線が集まる。
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「三日後に再提示します」
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その声は、少しだけ強かった。
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揺れている。
だが折れてはいない。
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レオンハルトは彼女を見る。
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「間に合うか」
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短い問い。
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ルシアは一瞬だけ沈黙する。
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そして言う。
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「……間に合わせます」
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その言葉に、アルノーは息を呑む。
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“間に合わせる”
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それは、
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神託ではない言葉だった。
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人の言葉。
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責任を含む言葉。
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リリアーナは静かに言う。
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「変わりましたね」
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ルシアは答えない。
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ただ、広場を見ている。
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壊れた場所。
倒れた人。
止まった流れ。
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そして、
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今、動いているもの。
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神託。
王国。
人。
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三つの線が、
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この都市の上に重なっている。
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その時、兵の一人が駆け込んでくる。
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「将軍!」
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レオンハルトが振り向く。
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「何だ」
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「北門で衝突です!」
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空気が再び張り詰める。
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「規模は」
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「……広がっています」
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短い沈黙。
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レオンハルトはすぐに言う。
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「増援を回せ」
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兵が走る。
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アルノーは呟く。
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「……まだ終わってない」
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「ええ」
リリアーナは答える。
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「むしろ」
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「始まったばかりです」
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広場は静まっている。
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だが都市の別の場所で、
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同じ火が上がっている。
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神託では止めきれない。
力でも抑えきれない。
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その間で、
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人の怒りが、
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形を変えて広がっていく。
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ヴェルクは今、
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一つではなく、
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**いくつもの線に引き裂かれ始めていた。**
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