第70話 選ぶということ
水路の分配は、二日間そのまま続いた。
北と南で半分ずつ。
水路を交代で使う。
完全ではない。
だが畑は少し持ち直した。
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広場では、村人たちが静かに働いている。
桶を運ぶ者、
水路を整える者、
土を掘り返す者。
会議のあと、誰も神殿に文句を言いに来なかった。
それぞれが、自分の畑に戻っただけだ。
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アルノーはその様子を見ていた。
「……争いませんでした」
小さく言う。
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「ええ」
リリアーナは頷く。
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「迷いながらでも」
彼女は畑を見る。
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「人は決められます」
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その時、神殿の回廊からルシアが降りてきた。
いつもの星図は持っていない。
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村長が軽く頭を下げる。
「神託官」
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ルシアは広場を見渡す。
水路。
畑。
働く人。
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「水は足りていますか」
彼女は静かに聞く。
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「十分ではありません」
村長は正直に答える。
「ですが」
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少し笑う。
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「回っています」
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ルシアはしばらく黙っていた。
そして小さく頷く。
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「それで良いと思います」
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アルノーは少し驚いた顔をする。
神託ではない言葉だった。
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ルシアはゆっくり言う。
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「神託は」
空を見る。
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「道を示します」
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「ですが」
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広場を見る。
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「歩くのは人です」
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その言葉は、以前の彼女なら言わなかった。
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リリアーナはそれを聞いていた。
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「迷いは消えません」
彼女は静かに言う。
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「ですが」
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「迷うことも」
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「選ぶことの一つです」
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ルシアは少しだけ笑った。
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「……そうですね」
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星導教の神託官は、
初めて自分の言葉でそう答えた。
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夕方。
村の上に星が一つ見え始める。
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神に委ねる道。
人が迷う道。
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どちらが正しいのか、
誰も決めない。
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ただ、
人はその間で
それぞれの道を選んでいく。
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星は変わらず空にあり、
人は変わらず地に立っていた。
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