第63話 信仰と責任
泉を封じた村では、畑の乾きが進んでいた。
葉は色を失い、
土は硬く割れている。
村人たちは黙って畑を見ていた。
「……神託だから」
誰かがそう言う。
反対する声はない。
だが納得の声もない。
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村長は神殿へ再び赴いた。
神託の再確認を求めるためだ。
広間にはルシアがいた。
「泉はまだ封鎖のままです」
彼女は穏やかに答える。
「星の配置が変わるまでは」
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「畑が枯れます」
村長は言う。
声は強くない。
神に抗議する言い方ではない。
ただ事実を伝える。
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「収穫が減るかもしれません」
ルシアは言う。
「ですが病が広がれば、
命が失われます」
論理は揺らがない。
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村長はしばらく黙っていた。
そして深く頭を下げる。
「……従います」
それで話は終わった。
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その様子を遠くから見ていたアルノーは、
胸の奥が重くなるのを感じた。
「誰も、責任を取らない」
小さく言う。
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リリアーナは否定しない。
「神が取ります」
静かな答え。
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「でも」
アルノーは畑を見る。
「神は畑を耕さない」
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沈黙。
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夕方、村では畑を守るための新しい作業が始まった。
遠い小川から水を運ぶ。
桶を担ぎ、
列を作る。
時間がかかる。
だが誰も文句は言わない。
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「神託だから」
それで終わる。
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夜。
神殿の回廊で、
ルシアは星盤を見つめていた。
「あなたは不満そうですね」
振り向かずに言う。
背後に立つのはリリアーナだ。
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「不満ではありません」
リリアーナは答える。
「ただ見ているだけです」
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「神託は間違っていません」
ルシアは言う。
「村は救われました」
「ええ」
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「では何が問題ですか」
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リリアーナは少し考えた。
そして言う。
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「誰が決めたのか」
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ルシアは眉をわずかに寄せる。
「神です」
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「ええ」
リリアーナは頷く。
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「だから」
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「誰も決めていない」
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夜風が回廊を通る。
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ルシアは星盤を見下ろす。
「人が決めれば争いになります」
「神が決めれば争いは減ります」
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「ええ」
リリアーナは答える。
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「ただ」
少し間を置く。
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「争いが消えたとき」
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「人は」
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「自分が何を選んだのか、
分からなくなることがあります」
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星は静かに光っている。
村では桶を担ぐ人々の足音が、
夜まで続いていた。
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