第55話 影の広がり
リーヴェルトの会議は、以前よりも短くなっていた。
発言は減っていない。
だが、迷いが長引かない。
「論点は三つ」
「短期負担と長期安定は分けて考える」
「確認者と承認者を先に決める」
アルノーが、静かに整理する。
誰も驚かない。
反発もしない。
線を引くことが、
特別ではなくなり始めていた。
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今回の議題は、周辺村落との水利権調整。
感情が絡む。
歴史も絡む。
だが、会議は崩れない。
「村落代表の発言を、最初に」
「その後で数値整理を」
アルノーは、順序を決める。
誰が先に話すか。
誰が最後に承認するか。
位置が、明確だ。
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議論は紛糾する。
だが、止まらない。
「……私は、この条件で賛成する」
村落側の代表が、初めて自分の立場を明示する。
その瞬間、
空気が変わる。
誰かが、立った。
アルノーではない。
ベルナデッタでもない。
別の誰か。
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会議は成立した。
完全な満足ではない。
だが、崩壊でもない。
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宿に戻る途中、
アルノーは足を止める。
「今日は、あなたは何も言いませんでした」
リリアーナは、穏やかに答える。
「必要がありませんでした」
「私たちだけで、回りました」
「ええ」
短い肯定。
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「あなたがいなくても」
アルノーは、言いかけて止まる。
その言葉の重さを、自分で理解している。
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リリアーナは、空を見上げる。
「私がいない方が、
強くなる場所もあります」
それは謙遜ではない。
事実だ。
唯一であり続ければ、
周囲は育たない。
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ベルナデッタが、少し離れた場所から歩み寄る。
「……次の案件は、あなた抜きで進めます」
宣言ではない。
確認だ。
「ええ」
リリアーナは、頷く。
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夜。
アルノーは、議事録の最後に書き加える。
――整理:アルノー・リーヴェルト
――承認:代表会議
――異議申立期限:三日
文字は、迷いが少ない。
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宿の窓辺で、
リリアーナは静かに灯りを落とす。
真似は、歪みを生み、
歪みは、修正を生み、
修正は、習慣になる。
彼女の影は、
形を変えて広がっている。
もう、唯一ではない。
だが――
完全に不要でもない。
第三部フェーズ1は、ここで一区切り。
世界は、
彼女がいなくても回り始めた。
それでも、
判断が必要な場所は、
まだ、尽きない。
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