第49話 急がせた罪
第三案は、動き出していた。
独立運営。
資金は分割出資。
確認者と承認者は明示。
手続きは、前よりも整っている。
だが――
「時間が足りない」
商会側の圧力は、強かった。
「決断はしたのですから、早急に実行を」
「市場は待ってくれません」
焦りが、再び会議室を満たす。
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ベルナデッタは、その空気を感じ取っていた。
(また、遅れる)
前回の停滞。
前回の失敗。
今回は、止めたくない。
「……実行日を前倒しにしましょう」
彼女は言った。
「承認は済んでいます」
「条件も整理されています」
視線がアルノーに向く。
「確認は?」
喉が、ひりつく。
「……一部、最終精査が残っています」
「なら急ぎましょう」
ベルナデッタの声は強い。
「迷っている余裕はありません」
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その夜。
資料は急ぎまとめられ、
契約は予定より早く締結された。
形式は整っている。
署名もある。
責任の所在も、書類上は明確だ。
だが、
精査しきれていない条項が残った。
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三日後。
運営開始直後に、
想定外の維持費が発生する。
出資割合の解釈が、
商会と自治領で食い違っていた。
「確認したのではないのか!」
怒号。
アルノーは、言葉を失う。
「……急ぎました」
ベルナデッタが、絞り出す。
「遅れれば、市場が離れると」
「だから急がせたのか」
代表の声は、低い。
「急いだ結果が、これだ」
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リリアーナは、あえて口を挟まなかった。
視線だけが、ベルナデッタに向けられる。
責めない。
庇わない。
ただ、見ている。
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会議は、再度開かれる。
「責任は誰が取る」
問いは、はっきりしている。
今回は、空白ではない。
位置は、決めた。
だが、
急がせたのは誰か。
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「……私です」
ベルナデッタが、立ち上がる。
声は震えていない。
「前倒しを提案したのは私です」
「確認の時間を削ったのも」
沈黙。
アルノーは、拳を握る。
「確認者は私です」
「見落とした責任は、私にもあります」
逃げない。
だが、分散もしない。
それぞれが、
自分の位置を示す。
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代表は、深く息を吐く。
「罰ではない」
「修正だ」
不足分は再交渉。
追加負担は均等配分。
責任は、議事録に明記。
痛みはある。
だが、崩壊ではない。
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会議後。
ベルナデッタは、廊下で立ち止まる。
「……私は、また急ぎました」
「ええ」
リリアーナは否定しない。
「止まるのが怖かった」
「ええ」
それも、否定しない。
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「急ぐことは、悪ですか」
問いは、切実だ。
「いいえ」
リリアーナは静かに答える。
「ですが、急ぐなら」
「“急がせた責任”も引き受けなければなりません」
ベルナデッタは、目を閉じる。
早さは力だ。
だが、刃だ。
持つなら、切られる覚悟がいる。
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夜。
アルノーは、議事録を書き直していた。
――前倒し提案者:ベルナデッタ・クロム
――確認責任者:アルノー・リーヴェルト
文字は重い。
だが、
逃げていない。
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宿に戻ったリリアーナは、
小さく息を吐く。
真似はできる。
だが、
**急がせた罪まで引き受けられるか**が、
分水嶺だ。
第三部は、
“技術”から“覚悟”へと、
ゆっくり軸を移していた。
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