第41話 空白
何も起きない日が、続いていた。
朝、目を覚ます。
書簡を確認する。
必要最低限の返礼を書く。
それだけで、一日が終わる。
リリアーナは、その静けさを受け入れていた。
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第二王子カイエルの執務室でも、
同じような違和感があった。
「……減ったな」
案件の数ではない。
“性質”だ。
緊急でもなければ、
判断が割れるものでもない。
内部処理で十分なものばかり。
「困っていない、ということか」
側近は、慎重に答える。
「表面上は、はい」
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一方、都市連盟。
会議は、以前より短くなっていた。
決断は遅いが、
決まらないわけではない。
書類は増え、
手続きは煩雑になったが、
誰も強く反発しない。
「……これで、いいのだろうか」
ローデリクは、独りごちる。
混乱はない。
だが、確信もない。
それでも、
止まってはいない。
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宿の中庭。
リリアーナは、腰掛けに座り、
ゆっくりと茶を飲んでいた。
時間は、ある。
だからこそ、
考えることも増える。
「……呼ばれない理由は、明確」
能力が足りないわけではない。
信用を失ったわけでもない。
ただ、
**使うと重くなる存在**になった。
それだけだ。
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昼下がり。
一通の手紙が届く。
内容は、短い。
――内部で解決しました。
――ご助言、ありがとうございました。
助言した覚えはない。
だが、以前の整理が、
今も使われているのだろう。
「……それでいい」
リリアーナは、紙を畳む。
成果を独占しない。
存在を主張しない。
それが、
今の立ち位置だ。
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夕方。
第二王子から、再び連絡が入る。
「何も起きていない」
それは、
確認とも、
不安ともつかない言葉だった。
「起きていない間は、
大丈夫です」
リリアーナは、そう返した。
「本当に問題が起きるのは、
“起きていないこと”を
問題だと思わなくなった時です」
返事は、しばらく来なかった。
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夜。
街は、穏やかだった。
人々は眠り、
灯りは静かに揺れる。
リリアーナは、窓辺に立つ。
この静けさは、
彼女が望んだものだ。
だが、
永遠ではない。
判断を先送りにした歪みは、
必ず、どこかに溜まる。
それが、
表に出る時。
「……その時に、
呼ばれるかどうか」
それは、
彼女が決めることではない。
空白は、
嵐の前触れではない。
**嵐が来るための、
静かな準備期間**だ。
彼女は、
灯りを落とした。
何もしないという選択を、
意志として受け入れながら。
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