第40話 封殺
違和感は、小さなところから始まった。
第二王子カイエルの執務室。
机の上には、いつもより少ない書類しか置かれていない。
「……今日は、これだけか?」
カイエルの問いに、側近が一瞬、言葉を選ぶ。
「正式な調整依頼は、以上です」
「“相談未満”の照会は、数件ありますが……」
「回していない?」
「はい」
理由は明確だった。
「内部で処理する、という判断が増えています」
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一方、別の都市。
評議会の会合で、こんなやり取りが交わされていた。
「外部の調整役を呼ぶ案ですが……」
代表の一人が口にした瞬間、
空気が微妙に変わる。
「前例が、少ないですね」
「危険だという話もあります」
「責任の所在が曖昧になるのでは?」
誰も名を出さない。
だが、全員が同じ人物を思い浮かべている。
「……今回は、やめておきましょう」
議長がそう結論づけると、
誰も反対しなかった。
それで、話は終わった。
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都市連盟でも、同じだった。
「エヴァレット公爵家へ、再度相談を?」
若い書記が、恐る恐る提案する。
ローデリクは、すぐに否定しなかった。
だが、周囲の反応がそれを遮る。
「今は、内部で回せています」
「彼女を呼ぶと、決断が重くなる」
「また都市が割れるかもしれない」
理屈は、通っている。
少なくとも、間違ってはいない。
「……そうだな」
ローデリクは、静かに頷いた。
「今回は、見送ろう」
その瞬間、
一つの選択肢が、自然に消えた。
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宿の一室。
リリアーナは、静かな朝を迎えていた。
机の上に置かれた書簡は、二通だけ。
どちらも、形式的な礼状だ。
依頼は、ない。
「……そういう段階か」
驚きはなかった。
むしろ、予想通りだ。
噂が変質した以上、
次に来るのはこれだ。
――避けられる。
――使われなくなる。
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午後。
第二王子から、非公式の連絡が入った。
「最近、動きが鈍い」
それだけの内容。
リリアーナは、短く返した。
「鈍くしているのです」
「意図的に」
少し間が空く。
「敵か?」
「思想です」
それ以上、説明はしない。
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同じ頃。
大陸評議会では、
新しい通達が内部で共有されていた。
――外部調整役を用いる場合は、
事前に詳細な正当性を示すこと。
――責任の所在を明確にすること。
――内部解決を優先すること。
誰も反対しない。
誰も異を唱えない。
それは、
正しい“管理”だった。
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「……順調です」
セオドール・グランツは、報告を聞きながら頷いた。
「彼女の名は出なくなりました」
「依頼は、減少しています」
「当然だ」
彼は、書類に目を落とす。
「人は、面倒を避ける」
「正しさより、静けさを選ぶ」
だから、
彼女は消える。
英雄にもならず、
敵にもならず。
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夜。
リリアーナは、灯りを落とす前に、
一つだけ考える。
――呼ばれない。
それは、失敗ではない。
排除でもない。
ただ、
世界が“自分を使わない選択”をしただけだ。
「……それでいい」
今は。
だが、
判断が必要な場所は、
必ずまた生まれる。
呼ばれない時間は、
終わりではない。
**次に呼ばれる理由を、
世界が作っている時間**だ。
静かな部屋で、
彼女は目を閉じた。
封殺は、完成しつつあった。
まだ、誰も困っていないうちは。
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