第38話 噂の変質
噂は、形を変えて広がっていった。
最初は、便利な話だった。
――話が進む。
――判断が早い。
――整理してくれる。
それだけのこと。
だが、都市連盟の一件を境に、
別の言葉が混じり始める。
――都市が一つ、切り捨てられた。
――彼女が線を引いたからだ。
――彼女が来ると、誰かが損をする。
事実と解釈が、
曖昧に溶け合っていく。
---
「……空気が、変わっています」
ローデリクは、
側近の報告を聞き、静かに頷いた。
「ええ」
「予想通りです」
彼は、驚かなかった。
決断できる組織は、
必ず“怖い存在”になる。
それは、
外から見ればなおさらだ。
---
「彼女にとって、
不利では?」
側近は、率直に言った。
「でしょうね」
ローデリクは、否定しない。
「だが、止められない」
「止めれば、
我々が元に戻る」
その覚悟は、
もう揺らがない。
---
一方、別の場所。
重厚な机の前で、
一人の男が報告書を読んでいた。
大陸評議会所属。
統治理論家、セオドール・グランツ。
「……なるほど」
口元に、
わずかな笑みが浮かぶ。
「権力を持たず、
判断を加速させる存在」
彼は、紙を指で叩いた。
「最も厄介だ」
独裁者より危険。
扇動者よりも扱いづらい。
責任を負わず、
だが結果を左右する。
「これは、放置できない」
---
「排除しますか?」
部下が、機械的に尋ねる。
セオドールは、首を横に振った。
「いいや」
「排除すれば、殉教者になる」
「では?」
「呼ばれなくすればいい」
淡々とした結論。
「彼女を必要とする状況を、
作らせなければいい」
それは、
力でねじ伏せるよりも、
ずっと静かな方法だった。
---
同じ頃。
都市連盟では、
新たな依頼が一件、却下されていた。
「……今回は、
内部で処理する」
理由は、明確ではない。
だが、
“外部を入れない”という判断が、
増え始めていた。
---
リリアーナは、
宿でその報告を聞いた。
「……そうですか」
表情は変わらない。
依頼が減ることは、
珍しくない。
だが、
今回は空気が違う。
避けられている。
---
窓の外。
都市連盟の灯りが、
遠くに見える。
かつて、
ここは詰んでいた。
今は、回っている。
それで十分だ。
「……次は、私がいなくても」
そう呟き、
彼女は灯りを落とした。
噂は、
人を守りも、縛りもする。
そして、
役割を終えた存在から、
静かに遠ざけていく。
だが――
世界はまだ、
彼女を完全に手放す準備が
できていなかった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




