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婚約破棄された悪役令嬢ですが、仕事を奪った王宮が先に崩れました  作者: 水城ルナ


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34/109

第34話 嫌われる役

 反発は、想定よりも早く表に出た。


 都市連盟の決定が公表された翌日、

 一部都市の代表から、正式な抗議文が届いた。


 ――負担が一方的だ。

 ――発言権の保証は曖昧だ。

 ――平等という原則に反している。


 どれも、間違いではない。


 だからこそ、厄介だった。


---


「……やはり、来ましたか」


 ローデリクは、文書を机に置き、額を押さえた。


 決断はできた。

 だが、その代償はこれからだ。


「議長代理」


 ミレイア・ヴァンツが、腕を組んだまま言う。


「彼女の整理は、正確でした」

「ですが、そのせいで“誰が不満を引き受けるか”が

 はっきりしてしまった」


「それが、問題だと?」


「問題ではありません」


 ミレイアは、きっぱりと否定する。


「ただし――」

「嫌われる役が、必要になった」


 その視線は、

 ローデリクではなく、

 空席の一つに向けられていた。


---


 その日の午後、

 非公式の会合が開かれた。


 参加者は限られている。

 反発している都市の代表と、

 都市連盟中枢の数名だけ。


 そして、

 リリアーナ・エヴァレット。


「……なぜ、彼女が?」


 小さなざわめき。


 ローデリクは、短く説明した。


「決断をしたのは、我々です」

「彼女は、整理しただけです」


 それでも、

 視線は自然と彼女に集まる。


 人は、

 “構造を見せた者”を憎む。


---


「あなたの分類表ですが」


 反発都市の代表が、口を開いた。


「第二の区分に、我々が入った理由を、

 説明していただけますか」


 リリアーナは、即座に答えなかった。


 紙を一枚取り、

 静かに線を引く。


「冬季物流が止まった場合」

「最も被害が出るのは、どこですか」


 代表は、口を閉ざす。


「連盟全体です」


「では、止めないために、

 負担を増やせる余地があるのは?」


 沈黙。


「……我々です」


 絞り出すような声。


「それが理由です」


 感情はない。

 責める響きもない。


 ただの事実だった。


---


「では、我々が損をするではないか!」


 別の代表が声を荒げる。


「短期的には、そうです」


 リリアーナは、淡々と頷く。


「その代わり、

 長期的な発言権を得る」


「保証がない!」


「保証は、契約で作れます」


 間髪入れずに返される。


「ただし」

「それを作るかどうかは、

 連盟が決めることです」


 責任は、渡さない。

 だが、奪わない。


 その態度が、

 逆に苛立ちを生む。


---


「……結局、あなたは安全な場所にいる」


 誰かが、吐き捨てるように言った。


「我々が憎まれ役を引き受ける」


 リリアーナは、

 少しだけ首を傾げた。


「いいえ」


 静かな否定。


「憎まれるのは、

 私です」


 その場が、凍りついた。


「整理したのは、私です」

「不満の向き先を、

 見える形にしたのも、私です」


 事実だ。

 そして、否定しようがない。


「だから」

「皆さんは、決断を続けてください」


 視線が交わされる。


 誰もが理解していた。


 彼女は、

 盾になるつもりなのだと。


---


 会合が終わった後。


 ローデリクは、

 廊下で彼女を呼び止めた。


「……なぜ、そこまで」


 リリアーナは、

 歩みを止めない。


「誰かが、

 この役を引き受けなければ」

「組織は、次に進めません」


「あなたである必要は――」


「あります」


 短い即答。


「外部の人間で」

「決定権を持たない者でなければ、

 成り立たない役です」


 ローデリクは、

 言葉を失った。


---


 その夜。


 都市連盟では、

 ある噂が流れ始めていた。


 ――エヴァレット公爵家の令嬢は、

   冷酷だ。

 ――彼女が線を引くと、

   誰かが必ず切り捨てられる。


 それは、事実ではない。


 だが、

 完全な誤解でもなかった。


 遠く離れた宿で、

 リリアーナは灯りを落とす。


「……嫌われる役も、

 必要な仕事」


 そう呟き、

 静かに目を閉じた。


 調整役は、

 感謝されるために存在しない。


 必要とされた時点で、

 すでに――

 誰かにとっての敵なのだから。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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