第34話 嫌われる役
反発は、想定よりも早く表に出た。
都市連盟の決定が公表された翌日、
一部都市の代表から、正式な抗議文が届いた。
――負担が一方的だ。
――発言権の保証は曖昧だ。
――平等という原則に反している。
どれも、間違いではない。
だからこそ、厄介だった。
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「……やはり、来ましたか」
ローデリクは、文書を机に置き、額を押さえた。
決断はできた。
だが、その代償はこれからだ。
「議長代理」
ミレイア・ヴァンツが、腕を組んだまま言う。
「彼女の整理は、正確でした」
「ですが、そのせいで“誰が不満を引き受けるか”が
はっきりしてしまった」
「それが、問題だと?」
「問題ではありません」
ミレイアは、きっぱりと否定する。
「ただし――」
「嫌われる役が、必要になった」
その視線は、
ローデリクではなく、
空席の一つに向けられていた。
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その日の午後、
非公式の会合が開かれた。
参加者は限られている。
反発している都市の代表と、
都市連盟中枢の数名だけ。
そして、
リリアーナ・エヴァレット。
「……なぜ、彼女が?」
小さなざわめき。
ローデリクは、短く説明した。
「決断をしたのは、我々です」
「彼女は、整理しただけです」
それでも、
視線は自然と彼女に集まる。
人は、
“構造を見せた者”を憎む。
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「あなたの分類表ですが」
反発都市の代表が、口を開いた。
「第二の区分に、我々が入った理由を、
説明していただけますか」
リリアーナは、即座に答えなかった。
紙を一枚取り、
静かに線を引く。
「冬季物流が止まった場合」
「最も被害が出るのは、どこですか」
代表は、口を閉ざす。
「連盟全体です」
「では、止めないために、
負担を増やせる余地があるのは?」
沈黙。
「……我々です」
絞り出すような声。
「それが理由です」
感情はない。
責める響きもない。
ただの事実だった。
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「では、我々が損をするではないか!」
別の代表が声を荒げる。
「短期的には、そうです」
リリアーナは、淡々と頷く。
「その代わり、
長期的な発言権を得る」
「保証がない!」
「保証は、契約で作れます」
間髪入れずに返される。
「ただし」
「それを作るかどうかは、
連盟が決めることです」
責任は、渡さない。
だが、奪わない。
その態度が、
逆に苛立ちを生む。
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「……結局、あなたは安全な場所にいる」
誰かが、吐き捨てるように言った。
「我々が憎まれ役を引き受ける」
リリアーナは、
少しだけ首を傾げた。
「いいえ」
静かな否定。
「憎まれるのは、
私です」
その場が、凍りついた。
「整理したのは、私です」
「不満の向き先を、
見える形にしたのも、私です」
事実だ。
そして、否定しようがない。
「だから」
「皆さんは、決断を続けてください」
視線が交わされる。
誰もが理解していた。
彼女は、
盾になるつもりなのだと。
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会合が終わった後。
ローデリクは、
廊下で彼女を呼び止めた。
「……なぜ、そこまで」
リリアーナは、
歩みを止めない。
「誰かが、
この役を引き受けなければ」
「組織は、次に進めません」
「あなたである必要は――」
「あります」
短い即答。
「外部の人間で」
「決定権を持たない者でなければ、
成り立たない役です」
ローデリクは、
言葉を失った。
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その夜。
都市連盟では、
ある噂が流れ始めていた。
――エヴァレット公爵家の令嬢は、
冷酷だ。
――彼女が線を引くと、
誰かが必ず切り捨てられる。
それは、事実ではない。
だが、
完全な誤解でもなかった。
遠く離れた宿で、
リリアーナは灯りを落とす。
「……嫌われる役も、
必要な仕事」
そう呟き、
静かに目を閉じた。
調整役は、
感謝されるために存在しない。
必要とされた時点で、
すでに――
誰かにとっての敵なのだから。
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