第31話 まとまらない会議
都市連盟の会議室は、広かった。
円形に配置された席。
中央に立つ者はいない。
それが、この組織の誇りだった。
「まず、北部物流路の件ですが」
議長代理のローデリク・ハーンが口を開く。
「冬季に向けた再編成が必要です。
現行の契約では、遅延が――」
「その前に、財政面の確認を」
言葉は、すぐに遮られた。
「物流だけを見て決めるのは危険だ」
「いや、危険なのは決めないことだろう」
それぞれが、正しい。
だからこそ、
声は荒れない。
怒号も、恫喝もない。
ただ、
意見が積み重なっていく。
「では、選択肢を整理しましょう」
ローデリクは、紙束を持ち上げた。
「案は三つです」
穏やかな声。
「第一案。
現行契約を維持し、遅延は各都市で吸収する」
「第二案。
一部都市が負担を増やし、物流を集中させる」
「第三案。
冬季限定で新たな商会と契約する」
誰も反対しない。
だが、誰も賛成しない。
「第一案は、安全だが、損失が出る」
「第二案は、不公平感が強い」
「第三案は、信頼性に欠ける」
発言が、順に続く。
全員が、問題点を正確に指摘する。
そのたびに、
ローデリクは頷いた。
「ご意見、もっともです」
否定しない。
切り捨てない。
だから、
何も消えない。
会議は、三時間続いた。
結論は、出ていない。
「……本日は、ここまでとしましょう」
ローデリクが、そう締めくくる。
「各都市で再検討を」
誰も異を唱えなかった。
それが、この連盟のやり方だ。
会議後。
控室で、ローデリクは椅子に深く腰を下ろした。
「……また、決められなかった」
自分に向けた言葉。
責める気はない。
全員の意見を尊重した結果だ。
だが――
現実は待ってくれない。
「次は、間に合わないかもしれない」
そう思った瞬間、
背筋が冷えた。
「議長代理」
声をかけてきたのは、
有力商会代表、ミレイア・ヴァンツだった。
「今日の会議ですが」
「……申し訳ない。
時間を取りすぎました」
ミレイアは、首を横に振る。
「いいえ。
分かっていましたから」
その目は、鋭い。
「この組織は、
“決めないことで壊れる”」
ローデリクは、言葉を失った。
「誰も間違っていない。
だから、誰も責任を取らない」
淡々とした口調。
「それは、最も危険な状態です」
「では、どうすれば……」
思わず、問いかけていた。
ミレイアは、少しだけ考え、答える。
「外から、線を引く人間を入れる」
「外部の介入は――」
「支配ではありません」
即座に遮られる。
「整理役です。
決めるのは、あなたたち」
ローデリクは、息を呑んだ。
「そんな都合のいい人間が……」
ミレイアは、短く笑った。
「いるでしょう。
最近、噂になっている人が」
その夜。
ローデリクは、私室で一通の報告書を開いていた。
他国の事例。
王宮を介さない調整。
そこに、繰り返し出てくる名前。
「……エヴァレット公爵家」
いや、
個人名だ。
リリアーナ・エヴァレット。
役職なし。
権限なし。
だが――
話が進む場所には、必ずいる。
「……呼ぶべき、か」
それは、賭けだった。
だが、
このままでは確実に詰む。
ローデリクは、静かに決断した。
「整理するだけでいい。
決めなくていい」
そう書き添え、
書簡をしたためる。
都市連盟の未来は、
今まさに、
誰にも属していない場所で揺れていた。
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