第25話 選ばれなかった側
王宮の会議室は、静まり返っていた。
誰もが書類を前にしている。
だが、視線は合わない。
議題は、簡潔だった。
「……今後の対外調整について」
文官の一人が、言葉を選びながら続ける。
「第二王子殿下の陣営を経由した案件が、
正式な成果として記録され始めています」
“成果”。
その言葉が、重く落ちた。
「我々が関与していないにもかかわらず?」
「正確には……
我々が関与しなかった案件、です」
訂正は、静かだった。
だが、痛烈だった。
「取り戻すべきではないか」
誰かが、ぽつりと呟く。
その言葉に、反応する者はいない。
なぜなら、
何を、どう取り戻すのか
誰も言えないからだ。
人材か。
権限か。
信頼か。
どれも、
もう王宮の手の中にはない。
アルベルトは、黙って話を聞いていた。
感情は、動かない。
怒りも、焦りもない。
ただ、現実だけが並んでいる。
「選択肢は、二つです」
年配の文官が、はっきりと言った。
「第二王子殿下のやり方を、
王宮として正式に認めるか」
そこで一拍。
「あるいは、
王宮の権威を守るため、距離を取るか」
どちらも、痛みを伴う。
認めれば、
自分たちが機能していないことを
暗に認めることになる。
距離を取れば、
成果が流出し続ける。
「……第三の道は?」
アルベルトが、静かに尋ねた。
誰も答えなかった。
あるはずがない。
第三の道は、
すでに過去に選ばれなかった。
会議は、結論を出さずに終わった。
それ自体が、結論だった。
王宮は、
もう主導権を持たない場所になっている。
夜。
アルベルトは、一人で回廊を歩いていた。
遠くに、第二王子の執務棟が見える。
灯りは、まだ消えていない。
そこでは今も、
判断が行われている。
かつて、自分の場所だったもの。
「……選ばれなかったな」
その言葉には、
悔しさも、怒りもない。
ただの事実確認。
人も、案件も、
より機能する場所へ流れる。
それだけのこと。
その頃、王宮の外では。
王宮を経由しない協定が、
“例外”ではなくなり始めていた。
もはや、戻す理由はない。
王宮は、
選ぶ側から――
選ばれない側へと、立場を変えていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




