第14話 新しい場所
エヴァレット公爵家の執務室は、王宮ほど広くはない。
だが、静かで、余計な装飾もなかった。
リリアーナは机に向かい、書類に目を通している。
内容は、領地の税収と物流。
季節ごとの変動と、隣接領との取引状況。
王宮で扱っていた案件に比べれば、規模は小さい。
だが、判断の質は変わらない。
「……ここが詰まっている」
小さく呟き、赤字で修正を入れる。
中継地を一つ省き、直接契約に切り替える。
それだけで、日数とコストが削減できる。
派手さはない。
称賛もない。
だが、確実に“良くなる”。
「お嬢様」
扉をノックして、執事が顔を出した。
「こちら、近隣領からの相談です。
交易路の件で、判断を仰ぎたいと」
「通してください」
応接室に現れたのは、小領主だった。
緊張した面持ちで、深く頭を下げる。
「突然、申し訳ありません。
王宮に問い合わせても、話が進まず……」
言葉の端に、困惑が滲む。
「状況を説明してください」
リリアーナは、感情を挟まず促した。
話を聞くうちに、全体像が見えてくる。
責任の所在が曖昧になり、判断が止まっている。
(王宮の影響だ)
だが、それを口にする必要はない。
「三点、確認します」
彼女は指を折る。
「契約期限、代替路、損失許容幅」
小領主は、はっとしたように答えた。
「……そこまで、考えていませんでした」
「考える必要があります。
でなければ、判断できません」
淡々と告げる。
しばらくして、結論が出た。
最適ではないが、現実的な案。
「これで、当面は回ります」
「……ありがとうございます」
深々と頭を下げる姿に、感謝はある。
だが、依存はない。
それでいい。
人は、頼るが、縋らない。
それが健全だ。
夕方、応接室を出た執事が小声で言った。
「最近、こうした相談が増えています」
「そうでしょうね」
リリアーナは、書類を揃えながら答える。
王宮が回らなくなった分、
外に判断が流れ始めている。
だが、彼女は拾いに行かない。
必要以上のことは、しない。
窓の外を見ると、領地の屋根が夕日に染まっていた。
ここは、まだ静かだ。
騒ぎも、混乱もない。
だが――
確実に、人は集まり始めている。
(評価は、後からついてくる)
今は、正しく回すだけでいい。
それができる場所が、
ここにある。
リリアーナは、再び書類に視線を落とした。
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