第11話 正しい断罪
その場は、あらかじめ整えられていた。
王宮の小広間。
公式の式典ほど堅くはないが、私的とも言えない。
貴族数名と文官、そして騎士団の代表。
――判断を“既成事実”として共有するための人数。
リリアーナ・エヴァレットは、指定された位置に立っていた。
第一王子アルベルトの正面。
その隣には、聖女エミリアが控えている。
白い衣の裾を、きちんと揃えて。
場の空気は、落ち着いていた。
誰も声を荒げるつもりはない。
誰も、争うつもりもない。
だからこそ、この場は「断罪」にふさわしかった。
「皆、集まってくれて感謝する」
アルベルトが口を開く。
声音は穏やかで、よく通る。
「本日は、私事ではあるが、
公にしておくべき判断について話したい」
視線が、自然とリリアーナに集まる。
同情も、警戒もない。
ただの確認。
「私は、リリアーナ・エヴァレットとの婚約を解消する」
ざわめきは起きなかった。
誰もが、すでに知っていたからだ。
「理由は、価値観の違いだ」
その言葉は、便利だった。
否定しづらく、誰も傷つけない。
「聖女を中心とした新しい体制と、
彼女のやり方には、どうしても隔たりがあった」
“隔たり”。
正しさと正しさの、違い。
アルベルトは、リリアーナを見た。
「彼女は有能だ。
だが、その有能さが、時に周囲を追い詰める」
責めているようで、責めていない。
だが、十分だった。
「私は、より多くの人が安心できる選択をした」
正義の言葉。
エミリアが、一歩前に出る。
「……私も、この決断が正しいと信じています」
声は震えていたが、泣いてはいなかった。
「リリアーナ様を責めるつもりはありません。
ただ……皆が幸せになるために」
善意。
疑いようのない、善意。
場の空気が、完全に定まる。
――これは、円満な解消だ。
誰も、反論しない。
反論する理由がない。
リリアーナは、そのすべてを受け止めていた。
自分の番が来ることも、分かっている。
「……何か、言うことはあるか」
アルベルトの問いは、形式的だった。
ここで彼女が何か言えば、
それは“空気を乱す行為”になる。
リリアーナは、一礼した。
「承知しました」
それだけ。
弁明も、説明もない。
涙も、怒りもない。
その態度に、周囲はほっとした。
「話が分かる方だ」
「揉めなくて良かった」
そんな空気が、確かにあった。
アルベルトも、安堵したように息を吐く。
「ありがとう。
君の理解に感謝する」
その言葉に、皮肉はない。
彼は、本当にそう思っている。
だからこそ、誰も気づかなかった。
――この場で、
切ってはいけないものを切ったことに。
会は、滞りなく終わった。
拍手もない。
祝福もない。
ただ、“正しい判断が下された”という静かな納得だけが残った。
リリアーナは、最後まで振り返らずに広間を後にする。
背後で、誰かが言った。
「これで、王宮も少しは柔らかくなるだろう」
彼女は、足を止めなかった。
(――ええ)
柔らかくなる。
だが、
折れてはいけない柱まで。
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