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不幸のどん底こそが最上の幸福だった。君といた地獄を、僕は一生忘れない  作者: 高橋 淳


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4/5

秋の訪れと共に、とうとう不幸は領地を覆い尽くした。


収穫祭の日、空は決して慈悲を見せることはく、容赦がなかった。

夏の猛暑にさらされ、葉は焼け、土はひび割れ、畑は乾ききってほとんど枯れ果てていた作物たちが、かろうじて生き残っているだけの状態だった。

民たちは、長い日照りを耐え抜いたわずかな収穫にかすかな希望を見出していた。

そしてその希望はまさに今、冷たい雨と鋭い雹によって打ち砕かれようとしていた。

雨粒と氷片は容赦なく畑を叩き、大地を打ち裂き、折れた稲穂と枯れた穀物を泥に押し沈めた。かろうじて黄金色に輝いていたはずの畑は、今や重く湿った泥の海となり、今年の収穫は完全に絶たれたのである。


村や町の人々は、絶望のあまり言葉を失った。長い日照りの中で、毎日汗と土にまみれて耐え抜いてきた努力は、雨と雹の一撃で無に帰し、ただ肩を落とすしかなかった。老いた農夫は手で折れた稲を握り、子どもたちは茫然と空を見上げ、家族は互いに抱き合うことでしか心の隙間を埋められなかった。市場は静まり返り、街道も人影まばらで、希望の光はあっという間に雲間に消えていった。


レオンハルトもまた、その光景をただ黙って見つめることしかできなかった。領主として民の苦しみを目の当たりにすることは耐え難く、胸の奥で痛みが広がる。しかし彼には、落胆して背を向けるわけにはいかない責務があった。荒れ果てた大地、折れた作物、絶望する民。

すべての現実を受け止めた上で次に何をなすべきかを冷静に考え、行動に移さねばならなかった。

空は冷たく、慈悲はなく、今年の収穫祭は悲嘆の祭典となったが、民と土地を守るための手は止まることがなかった。


かつては希望に満ち溢れていた領地は、今や深刻な飢餓の危機に瀕していた。

領民は皆、すでに疲れ果てていた。


侯爵家の屋敷の奥に親族たちが揃っていた。

秋の収穫祭の日は、晩餐会が開かれる。


長い卓に並ぶ席は、すべて決まっている。

古くから変わらぬ配置。

その秩序が、今夜は処刑台のように冷たく感じられた。


料理は質素だった。

使用人はすでに下がり、扉は閉ざされている。

この場にいるのは、アルデバラン侯爵家の名を持つ者だけ。

そして、その中に一人だけ、歓迎されない者がいた。

クラリッサが現れたとき、誰も何も反応を示さなかった。


誰も彼女に声をかけない。

誰も皿に手を伸ばさない。

視線だけが、ゆっくりと、逃げ場を塞ぐように集まってくる。

それは怒りではなかった。

もっと冷静で、もっと残酷なものだった。


この女は、家の内に置いておくべきではない。


年長の親族が、わざとらしく小さく息を吐く。

別の者が、神への祈りを呟き、胸元で印を切る。

それらは、明確な拒絶だった。


クラリッサは微笑もうとした。

何が悪かったのか、分からないまま。

ただ、そうするしかなかった。


だがその無垢な仕草が、さらに場を冷やす。

理解できないことが、罪として積み上げられていく。

一方でレオンハルトは、彼女の隣に座りながら、口を開けなかった。

ここで彼が妻を庇えば、それは家に刃を向ける行為になる。

沈黙は正しかったかもしれないが、夫としては致命的だった。


誰も言葉にしない。

だが、結論だけは共有されていた。


この女を切り離さなければ、家は滅びる。


クラリッサの瞳は、深い水底のように静まっていく。

自分が「この家の内側にいてはいけない存在」だと、はっきりと伝わっていた。


この晩餐会は、決して荒れなかった。

声を荒げる者も、席を蹴る者もいない。

だからこそ、取り返しがつかない。

誰も食事に手をつけないまま、時間だけが過ぎていった。


血縁だけの食卓で、

一族はは静かに、ひとりの女を排除する決意を固めた。


次回は2/4の投稿になります

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