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第2章:村人暴走バグ ― 病に侵された村 ―

「……またかよ」


俺はその日、三人目の冒険者が村人にぶっ飛ばされるのを見て、頭を抱えていた。


スキルも魔法も知らずにやってきた、どこかの村の新人冒険者。

「病気の村を救おう!」って善意で来たのに、出迎えたのは村のじいさんの全力の殴打。

しかもクリティカルヒット。即退場だった。


「見たことない顔じゃの……魔物か?」


「またモンスターが来たぞーッ! 農具を持てぇ!」


村人たちは槍やスコップを手にして、冒険者を囲み、問答無用でボコボコにする。

おい、これもうチュートリアルスキップどころの話じゃないぞ……。


この現象は、社内でも“有名なバグ”だった。修正に時間がかかるらしい。

村人に敵モンスターのAIが混ざることで、プレイヤーやNPCを敵と認識して攻撃してくる現象。


当初は「村人が暴走する隠しシナリオ」なんて噂されてたけど、ただのフラグ管理バグ。

しかも厄介なことに、この村はゲーム内でも超重要な回復薬の材料「リファイ草」の唯一の生産地。

ここが機能しなくなると、ゲームバランスが崩壊する。


「バグのせいで治療薬が手に入らなくなって、結果的に全土の冒険者が全滅寸前」


そんな地獄みたいな展開が、実際に起きていた。

いや、本当にクソゲーすぎる。


しかもこの世界では、「村人が“モンスターに見える病”にかかっている」ということになっていて、

何十人もの医者がこの村に送り込まれたが、誰も解決できていない。


「ま、医者じゃ無理だわな。原因は“AIクラスの上書きバグ”なんだから」


プレイヤーだった頃、俺はこのバグについて散々調査した。

どうやら特定のイベントスクリプトがミスっていて、村人のAIが敵用スクリプトに上書きされる仕様になっていた。


「これって……イベントスキップ時に無理やり村に入ると発生するってやつか?」


そして今、俺の目の前には“本来起きるはずだったイベント開始地点”がぽつんとある。

村の入口から少し外れた場所に、地面に埋もれかけた「立ち位置マーカー」。


この上に立って、ちゃんとトリガーを起動させれば、AIバグは発生しない――

でも、そんなの知ってるプレイヤーはほとんどいなかった。


「この地面の下、掘ってみるか」


スコップを借りて少し掘ると、そこには古びた装置のような石碑が埋まっていた。

見覚えがある。“AIリセット装置”と呼ばれていたイベントアイテムだ。


本来ならチュートリアルのあとに起動され、村人たちのAIが正常化される流れになっていた。

でもチュートリアルがスキップされたせいで、誰にも気づかれず埋もれていたのだ。


「はい、起動っと」


石碑に手をかざすと、村に鐘の音が響いた。


次の瞬間、村人たちが一斉に手を止めた。


「……あれ? わしは……なんで鍬を振り回しておるんじゃ?」


「魔物……いない!? じゃあ、さっきまで攻撃してたのって……人……?」


数秒の沈黙のあと、村中に謝罪と混乱の嵐が巻き起こる。


「なんということを……ワシら、ずっと……!」


俺は村の中央で、ため息をついた。


「お前ら、AIバグに支配されすぎだろ……」



「……ふむ、それで村人たちの“病”が治ったと?」


「はい。原因は病などではなく、呪われた土地でもなく、ただの……技術的な問題でした」


「そ、そうか……!」


城の玉座で王様が目を見開いて立ち上がった。


「この村が機能を取り戻したということは、我が軍も、冒険者たちも、再び戦えるということ! リファイ草の供給が再開されれば、薬の備蓄も……!」


家臣たちが口々に歓声を上げる。


「よくぞやってくれた、勇者よ(読めない文字列)! そなたの名は、すでに各地に轟いておるぞ!」


俺は少し困ったように笑った。


「いや、ただのテスターなんだけどな……」


でも、こうして不具合のひとつが直って、世界が少しまともになるなら――

俺がこの世界を“バグフィックス”していく意味もあるってもんだ。


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