Room311(2:27am)
ふとした瞬間に目が覚めて、隣に居た筈のお前を窓際に見つける。ソファにだらしなく凭れて、カーテンの隙間から遠くを見る生気の抜けた顔。少し前の熱が嘘だったと言われているようで、堪らなくお前が憎く思える。
「眠れない?」
「……んーん。ごめん。起しちゃった?」
そうやって笑って、柔らかい声で、目を細めて謝るから、本当の言葉は交わされないまま。
「なにか飲もうか」
「うん。いつものがいいな」
明るい声でそう言って、いつもみたいに甘えているけれど、その目はもう窓の外。こっちなんて見ていない。気付かないフリをして、お前は気付かれていないフリをして、お互いに嘘ばかり。
調理器具なんてなにもない狭いキッチン。そこにあるのはカップが二つと、ブランデーのボトルと、ハチミツの入った小瓶。
「これ大好き。普通のホットミルクとちょっと違うけど」
手渡したカップに顔を近付けて、お前はまたいつもの顔で笑う。
「今日、いつもと違うよ。毒、入れたから」
「毒? ……二つとも?」
「一つだけ」
「そっか。じゃあ、嘘だね」
そう言ってお前はカップに口をつけて、自分の言葉を証明するみたいに熱い液体を飲み込んでいく。
「ほらね。そんな酷い事、ハルがするワケないよ」
きっとその言葉は、本心で、願いで、絶望だ。
甘えて、抱き寄せて、囁いて、眠る。フタリがヒトリになるような感覚と、ヒトリがフタリになるような感覚。その合間に見る夢は、いつだって狂おしい程の青。
お前を真似して眺めてみても、窓の外には星一つ見えない。