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勇者になった幼馴染が魔王倒したら、ついでに王国まで自滅しちゃった話

作者: あおたん

 

 皆様、聞いてください。幼馴染が勇者になりました。


 台座に刺さった剣をあっけなく抜いてすんなりと勇者になってしまったみたいです。

 それでですね。何と、これから魔王を倒しに行くらしいんです。

 大変なことです。びっくりですよね?私も驚きました。


「ルチア、見てて。こうやってっ、こうっ!したらさ、するっと抜けちゃったんだ」

「そう、ですか。それは、大変ですね」

「ああ。こうやってっ、こうっ!すれば、しゅっと抜けちゃうんだ」

「そう、なんですね。それは、びっくりですね」

「そうだよ。こうやってっ、こうっ!しちゃえば、ひょいっと抜けるんだ」

「なるほど。それは、驚きですね」


 勇者の剣と呼ばれる錆びついたそれを両手で握りしめてその時の様子を実演までしてくれている彼はウィル。同じ孤児院で育った腐れ縁です。


 お調子者の彼は気に入った言葉や動きを繰り返すきらいがありますので、もうかれこれ数十分、架空の台座から剣を抜き差ししています。

 両足を肩幅まで開いて膝を曲げ伸ばす屈伸運動。一回、一回きちんと腰が入っています。あれだと太ももの辺りがしっかりと鍛えられて良さそうですよね。剣を持っていますのでついでに二の腕にも効きそうです。


「簡単に抜けちゃうんだ!ほらほら!ルチアも一緒に!こうやってっ、こうっ!」

「い、一緒にですか?」

「はやく、はやく!こうやってっ、こうっ!」

「いや、ちょ、ちょっと待ってください」

「せーの!こうやってっ、こうっ!」


「「こうやってっ、こうっ!」」


 簡単に抜けてしまったことは想像に容易いのですが、正直しつこいです。

 皆様も、そう思いません?


 ……いや、ところで私。

 なんで彼と一緒にこんなことしているのでしょうか。馬鹿に付ける薬は無いだなんていいますけど、実は馬鹿ってうつるのでしょうか。もしかして、感染性の病だったのでしょうか。まさかの、世紀の大発見です。もしや論文でも書いて発表したら億万長者になれますかね?


 はい、そうですよね。なれませんよね。



 しかし、これから魔王を倒しに行かなければいけないというのに無駄に体力を消耗して本当、彼って馬鹿ですよね。15歳になっても、勇者になっても、彼の計画性の無さはどうやら健在のようです。

 こんな考えなしが勇者に成らなければならないだなんて、世も末ですよ。絶対、アホの子が背負っていい使命じゃありません。


 でもまあ、抜いてしまったものは仕方無いですね。

 ですから、彼も王国繁栄の礎になって頂きましょう。例え魔王を討伐出来なかったとしても、きっと彼の死は無駄にはなりません。今までの勇者と同じように彼の遺志は必ずや次の勇者に引き継がれることでしょう。彼のちっぽけな死は未来永劫語り継がれること間違いなしです。素敵ですね、素晴らしいです。


「はぁ。はぁ。ほら、凄いだろ?はぁ……、俺、勇者になっちゃった」


 考え込んでいると彼はぜぇ、はぁ、と息を乱し、両手を膝につきました。それだけじゃ飽き足らず大事な勇者の剣を放り出し、両手も両足も放り出し、ごろんと横になってしまいます。彼ったら本当、呆れちゃいますよね。


「あなた、やっぱり馬鹿──」


 私が彼に突っ込みを入れるのと同時にカラン、カランと言うような安っぽい金属音が辺りに響き渡ります。音のする方へ視線を移すと銀色の細長い物体が暴れ馬のように激しいダンスを踊りながら石段を転がり落ちていくところでした。


 所々焦げ茶に錆びた銀色の細長い金属。ああ、分かりました。あれ、彼が先ほど放り出したみすぼらしい勇者の剣ってやつですね。


 眺めているとガコッという野暮ったい効果音と共に溝に引っかかり、バキッと、いともたやすく真っ二つに折れてしまいました。



「はぁ、……何を言う。俺は、馬鹿じゃない。はぁ……世界を救う勇者様だぞ」


 威厳のある物言いをしたいのでしょうが、息切れのせいで台無しです。夢見がちなお年頃の彼に、勇者然たる振る舞いを求めるのはやはり時期尚早なのでしょうか?



 ……と言いますか剣!!!!


 大丈夫でしょうか!?

 ……いや、大丈夫じゃないですよね、絶対。


 彼ってば、魔王と戦わないうちに勇者の剣などと謳われる大層な剣を壊してしまいました。



「ウィ、ウィル。……大丈夫でしょうか」

「え?ああ、俺は大丈夫だ。心配するな」

「そ、そうでは無くてですね」

「そう案ずるな。俺は勇者だからな。魔王なんてちょちょいのちょいさ」

「ですから、そうじゃなくて」

「大丈夫だルチア。俺はこう見えても勇者だ。変わり映えのしないこの風景をちゃちゃっと変えてやるから、覚悟しておけ」

「だ、だから、違くて」


「なんだ心配症だな。安心しろ。俺は彗星の如く君を──」

「いや、だから!!」


 少しばかり声を張ると、彼はやっとこさ、ぺらぺらと騒騒しいその口を閉じてくれました。


 私は見るも無残な姿に成り果てた勇者の剣を指さします。

 彼はその正体を視認しますと、ウグッと言いますか、グヘッと言いますか、ブホッと言いますか、そこはかとなく汚くて、それでいて陳腐な鳴き声を発しました。

 まるで物語の序盤で主人公に即、倒されてしまうような名も無い三下が発する声。少なくとも勇者ともあろう人間の口から飛び出てはいけない声です。


「ど、ど、どうしようルチア!!!お、お俺、こ、壊しちゃったよおぉ!!」


 ウィルは頭を抱えて項垂れます。完全に雑魚とか、端役とか、俗輩といった類の言葉でしか形容し難いような出で立ちです。

 先ほどまで大口を叩いていた彼はどこへ行ってしまったのでしょうか?彼、完璧に勇者から有象無象のありふれた存在に成り下がりました。


「こ、これじゃあ俺戦えないよおぉぉ!!」


 いえ、成り下がったのではありませんね。彼は元からただのお馬鹿なアホの子でした。そうでした、そうでした。

 勇者の剣が無ければこんなにも狼狽してしまうんですもの。世界も、王国も彼には救えません。魔王だって倒せやしません。


 そうしてギャーギャーと喚き声をひとしきり上げた後、彼はようやっと顔をあげました。ウルウルとした瞳をしばたたき、口を開きます。


「怒られちゃうかな?」

「……へ?」


 ……いや、まあ、別に良いんですけどね。


 良いんですけど、第一に心配するところがそれですか。勇者の剣を引き抜いたくせに、初めに出てくる言葉が自己保身ですか。酷い話ですよね。


「だから、僕、怒られちゃうかな?国王様に」


 僕ですって。一人称が幼児返りしていますね。ちなみに声はガタガタと震え、手はプルプルと小刻みに揺れています。魔王を倒すだなんて息巻いていた勇敢な姿はもう、どこにもありません。本当、餓鬼の子守りは面倒くさいことこの上ありませんね。


 でも……、そうですよね。

 きっと王国は彼が立ち直ることを期待しているんでしょうね。雲を掴むかのような僅かな可能性であっても勇者の彼に期待を寄せているのです。皆様もそうでしょう?

 だからこそ、彼は勇者の剣(破壊済み)をたずさえてここに立っているのです。


 勿論、私だって、一縷の望みであってもそれに縋ってしまいたくなる気持ちは良く分かります。無駄だと分かってはいても誰かに泣きついて助けを乞いたくなる気持ちは良く分かります。


 皆様の期待に沿うのが私の役目ですものね。

 ……はぁ、仕方がありません。慰めますか。


「大丈夫。正直に話せば分かってくれますって」

「国王様、プンプンかな?」

「大丈夫。誠意をもって謝れば許してもらえますって」

「国王様、イライラしてる?」

「大丈夫。熾烈な戦いの末、壊れてしまったって言えば誤魔化せますって」

「国王様、カンカンだよね?」

「大丈夫。あんな奴に嘘をついた所で罰は当たりません」


 甘く澄み渡るような私の声は彼への慈悲深いお言葉を賜り、包み込むように温かい微笑は聖母の輝きを放ちます。

 鈴の音のようなその響きが彼の抱えた動揺も恐怖も緩やかに癒し、花開くような笑顔の恍惚としたその輝きが彼の生命力を引き上げるのです。


 我ながら素敵ですね。私の素晴らしさにあてられた彼は今やもうにんまりとした笑顔を浮かべています。薄々感じてはいましたが、私ってやっぱり天才なんですね。


「お尻ぺんぺんの刑かな?」


 彼、にんまりとした笑顔は絶やさず、そんな事を私に聞いてきました。まさかとは思いますが、まるでそうして欲しいかのようなそんな笑みです。


「だ、大丈夫、勇者にそんなことしませんって」

「じゃ、じゃあ、頭ぐりぐりの刑かな?」

「そ、そんなこと、勇者にできるわけがないですよ」

「そ、そっかぁ……」


 彼の言葉に落胆の色が見えるのは気のせいでしょうか?


 ま、まあ、趣味嗜好は人それぞれですし、世界は広いです。世の中には、色々な人間が居ますものね。例え彼がどんな癖を抱えていようと私は受け止めますよ。もちろん。

 なんせ私、神聖で慈愛に満ちた女性。正に、聖女と呼ばれるにふさわしい人間ですもの。









「でさ、ルチア。代わりの武器持って無い?」


 魔王ぶん殴れそうならなんでもいいんだけど、なんて付け加えて頭をボリボリ。さっきの狼狽具合はどこへやら。

 この人、あろうことか薄汚れた石畳に胡坐をかいてくつろいでいます。こんな所で座り込んでしまえるなんて、あまつさえくつろいでしまえるなんて、彼の神経を疑いたくなります。


 ええ、分かっていますよ。分かっていますとも。彼が見た目通り、鈍つくのあんぽんたんであることぐらい。


 しかし、この私がですよ?そんな野蛮なもの持っているわけがありませんのに。

 眉目秀麗で純粋無垢なこの私がですよ?誰だって持っていない事ぐらい想像できるでしょうに。

 儚げな淑女に投げかけて良い質問じゃありません。


 彼ってば本当。そこん所、分かっていない。


「あなた、やっぱり馬鹿ですか?」


 それでも、寛大な心の持ち主である私はなるべく優しく問いかけます。諭すように、導くように。


「だって、今更戻るとか面倒くさいじゃん?」


 いや、まあ。代わりの武器を王国に用意してもらうとしても、ここから王宮まで距離はありますし。その気持ちは分かりますよ。


 だけど、彼が今からしようとしていることは魔王討伐、人類の存亡をかけた戦いです。だからこそ、手間と時間を惜しんででも万全な準備をするべきじゃないですか?

 ただでさえ、このお馬鹿な性格のせいで魔王討伐の仲間を集められず、一人で、魔王に挑もうとしているのに。


 あ、やっぱり彼、怒られるのが怖いんでしょうか?


「大丈夫ですって、勇者の剣を壊した件なら怒られませんって」

「そ、それにほら、俺、勇者様だぜ。世界救っちゃう人間だぜ。そんな偉大な人間の力になれるなんてルチアも光栄だろう?」


 視線を逸らされました。膝が産まれたての小鹿のようにガクブルです。言葉と動作が一致していません。


 彼ってば、こんなにも国王を恐れてて、怯えて、怖がって……。

 それに、孤児院を出たあの時とほとんど変わらないようなみすぼらしい服装で。

 しかも、防具だって何一つ無くて、武器もあの勇者の剣だけで。


 王国は魔王討伐に向かう勇者に対して大分、扱いが雑だなと。勇者って、その華々しい名前にそぐわずブラックな職業なんだなと思ってはいましたけど。


 まさかそんなはずないと思っていましたけど、もしかしてこの子──


「あの剣、盗んできたんですか?」

「そ、そ、そんなわけないだろう!?!?」


 ああ、やはり、図星だったみたいですね。颯爽と現れた幼馴染が犯罪者だったなんて。

 てっきり私は王国の命を受けて魔王を倒そうとしているのだと思ったのですが、どうやら違うみたいですね。ごめんなさい皆様、私の監督不行き届きです。


「どうして、そんな犯罪行為──」

「安心して、あの剣を引き抜いたのは正真正銘、僕だから。勇者であることは間違いないから」


 犯した罪には目を逸らし、彼は胸を張ります。


 いや、まあ。そこは疑ってはいませんよ。きっと彼はちゃんと勇者の剣を台座から引き抜き、勇者になったのでしょう。……抜く瞬間も何度も私に見せてくれましたしね。


 でも、論点はそこでは無いのです。

 勇者の剣は王国に脈々と伝わる由緒正しき剣であって、いくら勇者であったとしても、引き抜いたとしても勝手に持ち出すことは許されません。魔王討伐は王国の命があってこそ成り立つもの。


 はぁ……、それを彼は分かっているのでしょうか。


「……ため息やめて」


 あんぽんたんが何か言っています。そりゃ無理な願いってものです。いくら穏やかで寛容な私と言えど、この状況で気落ちせずに居ろだなんて土台無茶な相談ってものですよ。


「……睨まないで」


 失敬な。睨んでなど居ません。呆れ果ててしまっているだけです。


 国王からの命も無く勇者の剣を持ってきちゃうだなんて、魔王討伐に出かけるだなんて。

 彼、きっと死刑は免れません。そりゃ国王もカンカンになりますよ。

 あの国王ならきっと彼を殺すことなどいとも容易く行えてしまうことでしょうし。国を思い通りに管理するためなら小僧一人殺すことなど造作も無いはずです。


「ちゃんと剣を引き抜いてきたことは事実なんだからいいだろう?」


 だから。正直、引き抜いたからそれが何だって話なんですよね。


 例え勇者が偉大な人間であったとしても、これから素晴らしい功績を残すのだとしても、順当な手順は踏むべきですよね。そうしないと社会は円滑に回りません。


 王国には王国の策略というものがあります。魔王を倒した後の国への影響も鑑みて、魔王討伐の命は出されるわけで、ぽっと出のただの勇者がおいそれと倒してしまっていいわけが無いのです。


 魔王一人倒した所で万事解決だなんてそんな簡単な話ではないのですよ。

 魔王軍の報復も考慮しなければなりませんし、どれだけいがみ合っていようが頻繁に魔族との貿易も行われているこの時代。魔王が倒れれば苦しむ国民だって当然、出てきます。勇者一人の一存で魔王を討伐して、それで王国が救われるだなんてそんな単純な話ではありません。


 てっきり私も、そこの手順も踏んだ上で、それが一番正しいのだと皆が納得した上で、魔王を倒すと息巻いていたのだと想像していたのですが。どうやら違うみたいですね。

 彼のお馬鹿さ加減は私の予測を大きく超えていたようです。想定外でした。彼は私の予想をはるか彼方へと越えていくとんちんかんな男でした。


 魔王を倒そうが倒さまいがこの人、殺されちゃいますよ。

 本当、ありえない話です。勝手に一人で死のうだなんて不誠実な男です。





「─チア、……ㇽチア、……ねぇ、……無視しないで」


 なんか、蠅の羽音よりもか細い、小さな声が聞こえてくるような気がします。

 ああ、そうでした、そうでした。私今、幼馴染いえ、犯罪者と話している所でした。


 ともすれば彼、これから魔王かもしくは国王に殺されてしまうんでしたね。そう考えると彼の涙を滲ませた瞳も何だか可哀そうに思えてきます。

 それはきっと、私の心が海よりも広くて、空よりも澄んでいるからですよね?

 ええ。ええ、知っています。


 仕方がありません。例え相対する人間が犯罪者であっても、私は愛情を注げる素晴らしい人間です。相手をしてあげしょう。


「あなた、やっぱり馬鹿ですね」

「そ、そんな事言わないでよ。僕が頼れるのはもう、君だけなんだ……」

「さっきまで世界を救うだとか変えるだとか仰っていた勇者様が飛んだご謙遜を」

「ご、ごめんなさい。調子に乗りました」

「魔王なんてちょちょいのちょいなんですものね。勇者様は素晴らしい御方ですね」

「も、申し訳ありません。ルチア様」

「私、勇者様の力強い大丈夫というお言葉、確かに聞き届けましたからね」

「麗しいルチア様。僕は知っています。貴女様が慈悲深く、素晴らしい聖女のようなお人だと」

「……のような?」

「いえ、違います。正しく貴女様は聖女です。聖女と呼ぶべきお人でございます。貴女様を聖女と呼ばずして何と呼ぶ、といった批判が聞こえてくるようでございます」


 彼は私の前に跪き、首を垂れます。罪を犯して一時はどうなることかと思いましたけど、彼もこうやって愛を注げば更生の余地のある純朴な青年でしたね。


「はぁ。分かりました。善処致しましょう」


 哀れな彼にも恩情を与える私は正しく聖女ですね。

 何だか気分が晴れ晴れとしてきました。こんなスッとした感覚、ひさびさです。心地が良いので、武器でも探してあげることにしましょうか。


 窓の外の彼から視線を移し、変わり映えのしない寂れた部屋の中を物色することにします。私の部屋、そこまで物が多く無いんですよね。

 あるのは小さな本棚とその中に目一杯に敷き詰められた書籍。端っこに置かれた簡素な寝台。後は簡易的な厨とそこに置かれた調理器具くらいでしょうか。


 本で魔王をぶったたくにしても所詮は紙ですし、厚みも無いので残念ながら殺傷能力はありません。支給された調理用の刃物もありますが、柄が短くて細くて、身を守る術がありません。



 ……その、フライパンとかどうでしょうか?


 あれは、“十年使っても焦げ付かない!油が無くても焦げ付かない!ステンレス製の何か凄い奴!!”って宣伝文句に惹かれて入手した代物で、まだ十年経っていないはずなのに最近焦げ付くようになってしまって、持て余していた所だったんです。


 固いし防具にもなります。重量もあるので振り回せば武器にもなります。


 ……、いや、分かっていますよ。

 フライパンで魔王を倒すとか、どんなシュールなお話ですかって。

 でもですね、私の部屋、残念ながらフライパンくらいしか武器になりそうな物がないんですよ。それに物が溢れかえっていると何かと処理に困るじゃないですか。彼も武器が欲しいと言っていますし、完全にこれはウィン・ウィンってやつで。


 ……よし、あれにしましょう。


 手に取り、力を籠めます。

 さらに精一杯、全身全霊の力を籠めます。


 びくともしません。

 うん、これなら大丈夫そうですね。

 ……ええ、きっと、大丈夫です。


 大丈夫……、ですよね?





「……え?ルチア、まさかそれ??」


 フライパン、もとい武器を手にして彼のもとへ戻ると、期待外れと言わんばかりに彼は眉を顰めました。


「んな馬鹿なこと言わないよな。流石にな」


 にへらと笑みを浮かべています。酷いですよね。私だってこれで魔王を倒せるだなんて露ほどにも思いません。良くて相打ちぐらいでしょう。


 でも彼、魔王ぶん殴れそうなら何でもいいって先ほど口にしましたよね?言質は取れています。皆様という証人もいます。そうですよね、皆様。


「え?何か文句でもありますか?勇者様?不満なら別にいいですよ。私も犯罪者に協力する筋合いはありませんので」

「あ、ああ。ごめんごめん。俺が間違っていたよ。この上無いくらい最高の武器だよそれ」

「そうですよね!勇者様ならきっとそう仰っていただけると信じていました!」

「ありがとう、ルチア。それでこそ俺の幼馴染ってもんよ」


 作り込んだ笑みを浮かべる彼に武器を窓の僅かな隙間から手渡します。口の角がピクついているように見えますがきっと気のせいでしょう。





「じゃあルチア。俺、行くわ」


 背中にフライパンを背負った滑稽な犯罪者がやっと立ち上がりました。つまり、今しがた彼は魔王に倒され永眠する覚悟が整ったと言うところでしょうか。


「そうですか。せいぜい散り際くらいは格好良くお願いしますね」

「何だよ死ぬ前提かよ。俺は魔王を倒して本気で世界を変えようとしているんだぞ」

「まあ、きっとあなたが魔王に挑んだところで倒せないし、簡単に死んで終わりです。だから、世界は何も変わりません」

「そんな事わからないじゃないか。俺が魔王倒したらさ、二人で旅でもしよう。変わり映えのしないこの風景を、この世界を俺が変えてやるからさ」

「この世界を旅するじゃなくて、あの世へ旅立つの間違いではないでしょうか?残念ですけど私まだ死ぬ時じゃないのでご一緒できません。すみません、丁重にお断りを──」

「何を言う。俺はこの世界を君と旅するんだ。孤児院でさ、一緒に読んだあの絵本の場所を二人で見に行こう」


 彼、どうやら死亡フラグって奴をしっかり立てていく系の勇者みたいですね。

 私、知っていますよ。こういうことを言うような登場人物は大抵、皆さん死んでしまうのでしょう?私の持っている絵本の主人公も皆さんそうでしたもの。


 あの絵本というのは、勇者と聖女の冒険譚が描かれたあの絵本のことでしょうか。あの絵本は初代の勇者と聖女をモチーフとしていて、旅の道すがら彼らが訪れた場所に私たちは幾度も胸を躍らせました。


 一面が雪に包まれ厳かに座した白銀の霊峰や、彼方までも広がる深紅の花筵、鬱蒼とした木々とそれを反射して煌めく水面が印象に残る湿地、金色の枯尾花が夕風によって揺らぎ輝く澄んだ高原。どれもかれも魔王軍の領地となり子供が足を踏み入れるには憚られる土地です。


 寒々とした孤児院の片隅で、小さな窓から差す陽だまりを分け合いながら二人で読んだあの物語。二人であそこに行こうと絵空事を描き、夢物語を語り合いました。


 “いつかきっと”と数え切れないほどの約束を交わしました。

 叶うはずもないのにお馬鹿な約束を沢山交わしました。


 でもね。彼忘れてしまったのでしょうか。

 初代の勇者と聖女をモチーフにしているだけあって、あの物語って魔王も倒せず勇者は死んで、聖女は囚われて終わるんです。それを引き合いに出すなんて。彼ってば本当、死亡フラグ好きですよね。


 まあ、多少の犠牲を払って世界の平和は保たれていると言うものです。彼もその犠牲のうちの一つだったと言うだけ。魔王は倒されないほうが世界の均衡は保たれます。


 フラグは回収するためにあるもの。皆様もきっとそれを望んでいますでしょう?

 だから。だからね、しっかり回収してくださいよ。幼馴染さん。


「そうだルチア。ちゃんと夜は眠るんだぞ。ご飯もしっかり食べて、歯磨きして。戸締りもしっかり確認すること。分かったか?俺が魔王を倒したらすぐに君を迎えに行く。そして、旅立つんだこの広い世界に。だからちゃんと準備万端にしておいてよ」


 そんな言葉を捨て台詞にして彼は駆け出しました。まるで小言がうざい母親のようです。まあ、彼も私も母親など知らずに生きてきましたが。


 でも、きっとこれが彼の最期の言葉。ちゃんと覚えておいてあげましょう。


 返事も待たずに行ってしまったので、石段を駆けあがっていく彼の背中に向かって一言、おまじないの言葉を口にします。


 ──どうか、あの子に神のご加護があらん事を。




 ****


 幼馴染が罪を犯してから数日が経ちました。


 私は変わり映えのしないこの部屋で今日も眠りにつきます。

 しっかり夕食も摂り、歯磨きも済ませました。儚く散ったかもしれない彼の言葉を一度も実践しないなんて寝覚めが悪いですしね。数か月くらいは律儀に守ってあげることにします。


 あ……。そうですね、そうでした。

 どうせ閉まっているとは思いますが、鍵も確認しないといけません。彼の遺言ですから。

 決して忘れていたわけではありませんよ。


 ……ええ、ちゃんと覚えていましたとも。





 寝台から数歩とかからずに辿り着く扉の前に立ちます。

 ドアノブに手を触れて。手首を捻り、


 普段ならここでカツンと止まって……。



 ──ガチャリ、


 ……と音がしました。

 心臓からはバクバクとやかましい音が聞こえてきます。


 ドアノブはそのままくるりと一回転して、押し込むと、扉の外の景色が眼前に露わになりました。


 絶景!!とは程遠い薄暗い地下道です。


 小さく開いた窓から見えるあの石段が続いているだけの簡素な造り。あっけなく開いてしまった扉の外は想像通りの姿かたちをしておりました。





 ……ええっと、その。率直な感想を言います。

 魔王城の地下牢の扉って、意外と軽いんですね。



 ここに来て9年半。毎日眺めていましたが、初めて知りました。開ける機会なんてなかったので当然と言えば当然なのでしょうが。

 まあ、その、つまり。目の前で起こっている事象を整理すると、私は9年半の監禁生活の末、晴れて自由を手に入れたと言うことですかね。嬉しいですね。喜ばしいことです。


 はて、何をしましょう。自由になったらあれがしたい、これがしたいだなんて欲望、とうの昔に捨て去ってしまったので中々思い浮かびません。


 だけど、私はもう、何処へだっていけるのです。着の身着のまま、ぶらり一人旅。ゆっくりやりたいことを探すのもいいですね。

 私も魔力だけはありますから、魔物にも、魔族にも襲われることは無いでしょう。

 もしかしたら王国の軍が私の力を求めて追ってくるかもしれませんが、正直どうだっていいです。

 あんな国、本当、どうだっていい。皆様もそう思いますでしょう?


 それよりも何よりも、手にしたこの自由を手放すわけには行きません。一刻も早く抜け出して、それで……。




 ……でもね。


 これって魔王の魔力が無くなったから、この扉が開いたわけで。

 つまりそれは、彼が、あの子が魔王を倒したということに他ならないわけで。


 そんな事実に気付いてからは、我ながら本当、情けない話ですけどね。手が震えて上手く力が入りません。心臓は変わらずドクドクと早鐘を打っていて。息がしづらくて。気を抜けば腰が抜けそうで。なのに肩はガチガチに力が入っちゃってて。


 皆様、私は一体、どうしちゃったのでしょうか?


 もちろん、彼の誘いに乗るつもりは微塵もありません。子供の頃の軽い口約束なんて守ってあげるつもりもありません。第一私、あの時も彼からの誘いなんて了承していませんしね。

 勝手に盛り上がって、勝手に魔王倒しに向かった彼の思い込みでしかありません。

 一人の方が何かと気楽ですし。ほら、彼、お調子者で疲れますし。


 このまま逃げてしまえばいい。それが一番だなんてこと分かっています。


 それに、彼が勝手に勇者の剣を持ってきたと言うことは、王国が魔王討伐を目論んでいたわけでは無いということで。魔王軍はいきなり自分達の王を倒され、王国軍の意図しない形で開戦の火ぶたが切られた訳です。

 魔王が倒され、王国軍と魔王軍の均衡が崩された今、世界は混乱を極めるでしょう。きっとその立役者である彼の事を王国軍も、魔王軍も逃しはしない。彼はどちらからも追われる立場。


 彼のもとへ行くのは得策ではない。そんな事は重々承知です。



 ……でも。でもね。

 正直、そんなこと、どうだっていい。


 もしかしたら、彼は今、瀕死の重傷を負っているかもしれないんですよ?魔王を倒して傷一つ無く帰ってくることが理想ですけど、動けなくなっている可能性だってあるんです。痛む足を引きずりながら、この地下牢まで戻ってくるかもしれないんです。

 彼、あの通り泣き虫だから、一人で泣いているかもしれないんです。


 私、あの子にはやっぱり笑っていてほしい。


 私は治癒魔法も使えますから、彼のもとへ行ったら何か僅かでも役に立つかもしれません。ただ眺めているしか出来なかった。指を咥えて見ているしかなかった。無事を祈るしかなかった。そんな彼の孤独な闘いに、自由を手に入れた今なら、文字通り手を貸すことが出来るかもしれないんです。


 それに、これから先の長い逃亡生活、私が居ればほんの少しでも彼の役に立つことが出来るかもしれない。幸い私も追われる立場ですし、逃亡犯が一人で行動するのも、二人で行動するのも同じようなものです。


 彼との二人旅になんてこれっぽっちも惹かれませんし、彼の誘いなんて本当の本当にどうでもいいんですけどね。


 世界を、私の世界を救ってきたあの子にそれくらいの報いがあったっていいでしょう?




 私はガクガクとみっともなく震える足もそのままに、扉の外へ足を踏み出します。

 靴なんて勿論持ち合わせてなどいません。9年半引きこもっていた身体の重さは伊達じゃなく、少し動くだけでハカハカと息が切れます。


 目指すは地下牢から一番遠い、最奥の間。

 どうか、どうかお願いします。


 ──どうか、あの子に神のご加護があらんことを。




 ****



 幼馴染が魔王を討伐してから半日が経ちました。


 屍と化した魔王軍の兵を避けながら進んできたので、大分時間はかかってしまいましたが最奥の間まであと少しです。この長く続く階段を上がり切れば彼がいるはずです。


 彼はあの時、魔王を倒したらすぐに私を迎えに行くと約束してくれました。

 だから。道中、彼に出会わなかったということは、それはつまり、彼はもう──。


 いえ、そんなはずはありません。きっと、彼は生きています。

 きっと、疲れちゃって少し休憩しているだけなんです。

 もしかしたら、倒したことに舞い上がっちゃって一人で宴をしているかもしれません。お邪魔しちゃいましょう。きっと許してくれます。ね?皆様もそう思いますでしょう?



 そうして、ひとしきり喜び合った後、あの子と二人で旅に──。

 いえ、逃亡生活です。致し方ない逃亡生活です。逃げて、逃げて色々な場所に行きましょう。

 行きたくても行けなかった場所が山の様にあります。

 そうなんです。実は沢山ありました。外の景色を見て、ようやっと思い出してきました。


 私、ずっと行きたかったんです。

 私よりも少し小さな男の子と行こうと約束をしたあの場所へ、あの男の子と行きたかった。“いつかきっと”を叶えたかった。それだけがここに来てからの唯一の希望でした。

 それを少しずつ消化していきましょう。彼と一緒なら、絶対に楽しいです。彼と一緒じゃなきゃ、意味がありません。これから、素敵な日々が待っています。


 お馬鹿さ加減に呆れちゃうかもしれませんけど、ちゃんと許してあげます。

 私は聖なる女性。まさしく聖女ですからね、そんな寛大さも持ち合わせているのです。

 ふふふ、素晴らしいですよね。




 ああ、そうでした。そうでした。

 一つ、皆様にお話しておきたいことがあります。

 あの国では定期的に王が神託を授かり、膨大な魔力を持った聖女という存在が誕生します。聖女が死を迎える頃、国王が新たな神託を授かり次の聖女が誕生するのです。


 つまり、一つの時代に一人の聖女。

 そう。皆様お察しの通り、今の聖女は私です。


 “私が聖女である”という神託を国王が授かったのは今から9年と半年前、7歳の頃でした。


 前日に誕生日を迎え、その日もウィルと絵本を読んで過ごしていた私を孤児院の院長先生は呼び出し、王宮に向かう馬車に乗せました。

 有無を言わさず馬車に押し込む院長先生は、普段は仏頂面なのに、その時ばかりは悲し気に笑っていて。だから私は“良くないことが起きたのだ”ということだけは直観で理解しました。


 そうして、あれよあれよと言う間に私は国王の前に叩き出され、聖女となったことが告げられたのです。

 聖女と言えば、あの国では憐れみの対象であり、皆が目を背け、見て見ぬふりをする存在です。


 まあ、それもそのはずですよね。だって、聖女は魔王に生贄として献上される存在なのですから。



 その昔、もう数百年も前のことでしょうか。初代の勇者が魔王に敗れた頃の話です。勇者が魔王に倒され、終ぞや王国までもが滅びようとしていたそんな折、優勢を保っていた魔王は当時の王国にある提案をしました。


 “生贄として聖女を差し出せば王国との和平に応じ、王国の防衛と対等な貿易を約束しよう”と。没国間近であった王国にとってそれは願っても無い申し出で。だから、一も二もなく飛びつきました。

 王国は平和と繁栄を欲していて、魔王は聖女の膨大な魔力を欲していた。利害の一致というやつですね。


 こうして、聖女の犠牲の上に王国の平和は創られていきました。


 勿論、当初は争い合っていた魔王軍への反感も強かったですから、国王も国民も裏では聖女を取り戻そうと画策していました。政策も思惑も上手くは立ち行かない日々の中、誰もが、聖剣に選ばれた勇者が現れてくれたら、そんな正義の味方が颯爽と聖女を救ってくれたら、と願っていたはずです。

 しかし、何時まで経ってもそんな者は現れなかった。まあ、初代勇者の死と共に聖剣は壊れてしまっていたのですから当然です。


 苦肉の策で王国は、魔王討伐を買って出る勇気ある者を募り、手を挙げた者を勇者に任命し魔王討伐の命を出しました。

 聖剣を模して勇者の剣と呼ばれる剣を造り、“魔王討伐の一助となれば”と勇者達に授けたのです。ゲン担ぎの意図もあってか、勇者の旅立ちの時には壮行と称して抜剣の儀を執り行いました。


 当時の子供達はそんな彼らの威厳溢れる勇敢な姿に憧れたそうです。死と隣り合わせになってでも聖女を救わんとする彼らの勇姿に憧れと畏怖を抱きました。そして、剣を抜く自身の姿を夢見るのと同時に、命を差し出すなど自分には到底出来ないことだと諦めました。



 そんな経緯で、台座に刺さった誰にだって抜けるはずの勇者の剣は、“勇気ある者”つまり、“勇者”にしか抜けない剣の象徴となったのです。


 そうです。ウィルが抜いたのはその勇者の剣なのです。数世紀も前の技術で造られた剣ですから、そりゃあんな簡単に折れてしまうわけですよね。彼のことだからこそっと台座まで行ってこそっと抜いてきたのでしょう。勇者の剣が造られた歴史も知らずに剣に選ばれたと有頂天になっちゃったかもしれませんね。本当、どうしようも無いくらいにお馬鹿な子です。


 ……すみません。話が逸れましたね。



 まあでも、長い月日の経過によって、魔王軍に侵略されたと言う生々しい記憶は、経験者の居ない遠い過去の歴史となり、魔王を倒そうだなんて考える人間は少数派になっていきました。

 時の流れによって徐々に魔王への怒りも、聖女への敬慕も(ついでに勇者の剣も)風化していったのです。

 だって、聖女さえ差し出していれば、裕福な暮らしも、幸福な日々も担保されているんですもの。苦しむのは聖女とその周囲の人間だけ。

 仕方がないですよね。聖女の人生と、何十万もの国民の平穏な暮らし。天秤にかけずともどちらを取るべきか分かるはずです。自明の理と言うやつです。



 と言っても、私だって反発しなかった訳じゃありませんよ。


 ──国王様、私いやだよ。だって、私が居なくなっちゃったら、ウィルが悲しむ。ウィルが泣いちゃうよ?あの子が泣いたら、誰が慰めてあげるの?いつかきっと、行こうって約束したあの場所へは誰が一緒に行ってあげるの?国王様、許して。私行きたくない──


 こんな言葉で国王にみっともなく縋りました。お願いだからと助けを乞いました。

 だけど返って来たのはどこまでも冷たく厳しい反応で。足蹴にされ、頬を打たれ、千切れそうなほど強く髪の毛を引っ張られて。温度の感じられない酷く平坦な声で、


 ──黙れ小童が。お前はこの王国繁栄の礎になるのだ。光栄なことだろう?お前ひとりの人生で数十万もの民が救われるのだ。喜んで死んでこい──


 こんな言葉を掛けられました。


 ──ああ、そうだ。その小便臭い言葉遣いくらい直したらどうだ?お前は敬語も碌すっぽ使えないのか?せいぜい向こうで不敬を働いて殺されないと良いな──


 と、私は冷たい大理石の上に言葉と共に投げ捨てられました。


 聖女は膨大な魔力を持つと言っても、当時の私には未だその力を活用する術が備わっていなかったですし、子供の力などたかが知れています。大きすぎる力を前に成す術はなく、従うより他無かったのです。だから、仕方のない話ですよね。





 魔王城へ行くことが決まってから私は一度孤児院に戻り、荷物を整えて再度、馬車に乗りました。

 荷物はウィルと一緒に読んだ数々の絵本と院長先生から贈られたフライパンです。


 絵本を読んでウィルと語り合った“いつかきっと”を思い出せば幸せな気分になれるかなと思いましたし、フライパンは10年変わらずに使えると言う点に惹かれて私が院長先生にお願いしたものでした。


 昔から聖女の魔力が枯渇して魔王に殺されるまでの期間は最長でも10年間だったので丁度良かったんですよね。

 たとえばもし、長い監禁生活の中で荒んで、歪んでいったとして、そうやって私自身が大きく変わっていってしまっても、変わらない何かがある。それは凄く素晴らしいことのような気がしました。素敵だと思ったのです。


 それで、とりあえず。これさえあれば、どうにかこうにか、これからの10年間を心置きなく過ごせると思いました。



 ──皆さん。私は、儚く、美しく、素晴らしい聖女様に選ばれてしまったみたいなのです。正しく私に相応しい役割ですよね。私ににしか出来ない役目です。同郷のよしみです。皆様には、聖女である私と関わることが出来た、と誇らしげに後世に語り継ぐことを特別に許しましょう。では、お元気で──


 私はにっこりとした笑顔を浮かべ、孤児院の皆さんへ崇高で高尚な最後の言葉を賜り、優雅に馬車へと乗り込みました。

 言葉遣いと振る舞いはとりあえず、あの絵本で登場した語り部の初代聖女様を真似ることにしました。学ぶは真似ぶとよく言いますしね。


 間違っていないはずです。……ね?そうですよね?




 そうして、私が賜った言葉の素晴らしさに打ちひしがれ、顔を上げられないでいると動き出した馬車の外から泣き声が聞こえてきたのです。


 ふと後ろを向くと、ウィルが大声で泣いていました。滲み揺らいだ視界でもすぐに分かります。あの子、泣きながら息を詰まらせながら、追いつくはずもない馬車を追いかけてきていました。


 5歳の年端もいかない男の子がですよ。親の顔も知ることが出来なかった子供が、唯一頼れる姉代わりの私を求めて泣いていたんですよ。なにせ、あの子、お調子者のくせに引っ込み思案で、天邪鬼で。私以外の人とは口もきけないような子でしたから、僅かな時間であっても私が居ない状況が耐えられなくて泣いてしまうような子でしたから。


 私は馬車に揺られながら、自分の身に起きたことなんて二の次にあの子の事を考えていました。どうか、泣き止んでと。

 爪が食い込んで手の甲に三日月の痕が出来てしまうほど、強く、強く握りしめて祈りました。どうか、笑っていてと。




 泣いてほしくない人が、笑ってほしい人が居ると言うのは実はもの凄く幸福なことなのかもしれないですよね。


 それが身体を動かす原動力になるのですから。明日を生きる希望になるのですから。


 今だってほら、裸足で歩き回った足が、痛くて痛くて、仕方がないのに。喉の奥が痛むほどに呼吸が乱れて。苦しくて苦しくて、しょうがないのに。全身が鉛のように重たいのに。

 歩みを止める理由の一つにだってなってくれやしません。


 十年間、変わらない景色の中で、あの地下牢の中で。魔力を搾取され続け死を待つだけの日々だったはずなのに。すぐにでも死んでしまえた方がどう考えたって楽だったはずなのに。死を待ち望む方が圧倒的に簡単だったのに。


 ウィルと話した“いつかきっと”が、その時のあの子の満面の笑顔が、私に生きたい理由を沢山与えてくれました。それを想像するだけで、明日が楽しみになりました。あの子と過ごした日々が何時だって私を、私の世界を救ってくれました。


 だから、彼が死んでしまっていいわけが無いんです。

 そんな物語は許されて良いはずが無いんです。


 皆様も、そう思いますでしょう?


 もう扉は目の前です。答えはすぐに出ます。


 この扉の先には彼が、笑って立っているはずで、だから喜び勇んで開けましょう。

 何、怯える必要はありません。えいっと勢いよく開けて、それで、それで彼と再会して、旅に出るだけです。簡単でしょう?


 素敵ですよね。これから彼との素晴らしい毎日が待っています。楽しみです。




 よし。行きましょう。

 皆様も良ければ見守っていてください。


 私は大きく深呼吸をして、頭の中で祈りながら、扉をぐいっと精一杯押します。



 ──どうか、あの子に神のご加護があらんことを。






 ***



 幼馴染の消息が不明になってから半日と少しが経ちました。


「ウィル!!!!」


 勢いよく開け放った扉の先には元気に笑ったウィルの姿が……。


 ありませんでした。


 魔王と勇者、折り重なるように中央に倒れていて、それで。


 魔王の亡骸を避けて避けて。

 腹部から血を流して倒れている幼馴染を腕の中に手繰り寄せました。


 身体は氷のように冷たくて。

 顔は真っ白を通り越して真っ青で。


「ウィル!!嫌だよ!!嫌!!!返事、して……」


 揺すっても揺すっても、瞼は固く閉じられたままで。

 叩いても、つねっても何の反応もなくて。


「ウィル!!駄目だよ!絶対。駄目!!」


 私の声が彼の耳に届くことも、無くて。


 ……でも、でもね。感じられたんです。

 僅かで小さな、消え入りそうなほどに弱い。

 そんな鼓動が触れた指先から感じられたんです。


 だから。だから私は。


 彼の手を取り、力を籠めました。

 さらに精一杯、全身全霊の力を籠めました。


 有り余るほどの魔力を。

 生きて。お願いだから生きて、と祈りを籠めて──



 そうやって、祈って。願って。


 ……それで。

 ふと、握った手がごつごつと固くなっている事に気が付きました。


 いや、こんな時に、こんな只中に何をおかしなこと言っているんだって話なんですけどね。

 そんな事、分かっているんですけどね、気付いてしまったんです。


 ふんわりとしていて、小さくて、可愛かったあの頃の手は当然のように今やもう無くて。その代わりに大きくて、逞しくなっていました。


 私と二人で比べあいっこをして、この子が負けて泣いて、大変に困ったことも昨日の事の様に思い出せます。

 でももう、私が両手で握ったとしても到底覆い隠せないほどに大きくて。固い胼胝が何個も出来ていて。

 それに、抱き寄せた身体もやっぱり大きくて。昨日、今日で出来たとは思えないような傷が無数にあって。


 背が小さくていつも孤児院で虐められ、泣いていたあの子がですよ。絶対に誰にも負けない。それこそ魔王を一人で倒してしまえるような屈強な身体をしているんです。


 それで。

 大好きなこの人は、今までずっと、本当にずっと。

 頑張って、きたんだなって。


 そんなことに今更、本当に今更なんですけど、気付いちゃたんです。

 自惚れかもしれないですけど、それはきっと勇者になるためで。魔王を倒すためで。


 ……私を、助けるためで。


 そんなことを想像したら、もう私、こんな状況なのに嬉しくて、愛おしくて。

 それをどうしてもあなたに伝えたくなってしまったんです。


 それなのにどうしてだか目を開けてくれない彼のことが、不思議で不思議で──




「ゴボッ………」


 聞えてきたその三下の鳴き声は、有象無象のありふれた鳴き声は、今となっては何よりも耳にしたかった声で……。

 その汚らしくて陳腐な鳴き声につられて、私はぎゅっと閉じていた瞳をゆっくりと開きました。


 開けた視界の先には塞がった腹部の傷跡があって、視線をゆっくりと動かすと、愛しい人が力無く笑っていました。


「なんだ、……ルチア。逃げても、良かったのに」


 この人、そんなこと言うんです。

 さっきまで生死の境を彷徨って……、だから、一国の聖女が力の限りを尽くして治癒魔法をかけたのに。

 その矢先に、救われた矢先に感謝の気持ちが微塵も感じられないことを言うんですよ。無礼だと、思いません?


「そんな、こと……、出来るわけ……、ない」


 だから私、びっくりしちゃって、声が出なくなっちゃったんです。


「そんなに取り乱してさ、ルチアは、僕の死を期待してたんじゃないのかい?」

「だ、だって……、死を願われた人はみんな……生きてたから……、だから、ウィルも……」


 彼の死を期待するだなんて出来るはずが、ありません。

 あの絵本の魔王は、誰よりも死を願われていた魔王は、最後まで死にませんでした。

 だから、だから彼も。


「馬鹿だなぁ。ルチアはまだ、絵本に描かれたお話を信じているのかい?」

「ウィルだって……、あの時、絵本のこと……、言ったっ、一緒にっ見に、行こうって……、言ったっ……」


 馬鹿だなんで、どの口が言うのかって話で。だから、喉がひくついちゃったんです。


「ああ、ごめん。ごめんってルチア。お願いだから泣かないでくれ」


 そう言うと彼は、ゆっくりと起き上がり、床にぺたりと座り込んでしまっている私の頬を手で拭いました。泥だらけで血だらけのその手で、私の美しい顔を拭いました。


「そうだよな。そうだよ。それしか、絵本しか、無かったんだもんな。あんなにボロボロになるまで読み続けてきたんだもんな。ごめんね、ごめん。泣かないで」


 そうやって私に懇願する彼は、見当違いの事を口にして悲しそうに眉尻を落とすんです。

 今にも泣きそうになりながら、それでも無理やり笑顔を作っているような、そんな痛々しい表情で私に笑いかけるんです。だから私、呆れちゃって。


「それしか、じゃ、……ない。絵本が……、あった、か、ら」

「うん」

「約束が、あった、から」

「うん」

「いつかきっと、があったから」

「うん」

「だから、だから」


 思っていることはちゃんと言葉にしないと伝わりませんよね。

 どれだけ深くて大きな、伝えたい感情があったとしても、口に出さなければ意味がありません。

 そんなこと分かっているのに。誰だって分かっていることなのに。なのに。

 どうして。こんなにも──。


「うん。ねぇ、ルチア」

「だか──」


「ルチア。ありがとう」


 彼、そんなことを言うんです。私、何もしていないのに。

 それどころか私のせいで彼は沢山涙を流したはずなのに。

 私のせいで彼は沢山傷を負ったはずなのに。

 私のせいで彼は分不相応な役割を買って出るしかなかったはずなのに。


 その言葉は私が言うべき言葉だったのに、言いたかった言葉だったのに。


「忘れないでいてくれて、ありがとう」


 この人はその頑丈な手で私の手を握りしめてそんな言葉を紡ぐのです。


「僕の世界に存在してくれて、ありがとう」


 ガチガチに固いその手で私の頭をそっと撫でてそう告げるのです。


「生きていてくれて、ありがとう」


 苦しくなってしまう位、強く、本当に強く私を抱きしめてそう言いました。


「ありきたりな言葉だけどさ、君が、好きだ。僕は誰よりも一番、君のことを愛してる」

「わ、私も。大好き。愛してる。ウィル、ありがとう。私の世界を救ってくれて、ありがとう」


 彼のその言葉で私もやっと伝えたかった思いを口にすることが出来ました。もう、どうしようも無いくらいボロボロに涙を零しながら、みっともなく顔を歪ませながら。

 でも、ちゃんと言葉にして伝えることが出来たのです。



「ねぇ、ルチア。僕がどうやって魔王を倒したか、教えてあげよっか?」


 私が俯いて情けなく涙を流していると、彼はいたずらっぽくそんな事を聞いてきました。

 大きな窓から差し込んだ朝日は私達を包み込んでも余りあるほどに大きな陽だまりを作ります。


「こうやってっ、こう!したらさ、魔王、倒せちゃったんだ。簡単だろう?」


 幼馴染はフライパンを振り上げ、ゆっくりと振り下ろしました。

 そして、絶対にそんなこと無かったのに、絶対にそんなはず無いのに。にんまりとした笑顔で、余裕そうに偉そうにそんな言葉を口にするのでした。


「ウィルって、やっぱり、ばか……」


 だから、私、呆れちゃって。笑うしかなくて。

 ぽかぽかと暖かい日向の中で、私達は笑い合いました。

 ふと、彼は私の浮かべた締まりのない表情を覗き込みます。


「よかった……。やっと、やっと……。ルチアが、笑った」


 そうして、彼はやっと。微笑みながら一筋の涙を零すのでした。



 ***


 幼馴染が私の世界を救ってからもう何年が経ったのでしょうか。

 片手では収まらないほどの年月が流れました。


 皆様お久しぶりです。

 最近では皆様に語り掛けることも少なくなりましたが、いかがお過ごしだったでしょうか?ご無沙汰しておりましたが、私もウィルも元気に過ごしておりました。


「よし、良いか?よく聞くんだ。フライパンはな、決して武器ではない、調理器具だ。だから、そんなに力を入れちゃ駄目だぞ。優しく、柔らかく持つんだ。好きな女の子の頭をそっと撫でるかのように優しく、柔らかく。いいな?」


 後日談、皆様も気になっているでしょう?順を追って一つずつ話させていただきますね。


 あれから私達はそそくさと魔王城を逃げ出しました。

 そして、沢山の行ってみたかった場所を渡り歩き、知らない世界を旅し、数え切れないほどの“いつかきっと”を叶えてきました。


「よし、よく見るんだぞ。フライパンはな、こうやってっ、こう!するんだ」


 追ってくるだろうと想像していた王国軍も、魔王軍も追っては来ませんでした。

 正確には、追って来れませんでした。追ってくるだけの地力が双方にはもう、無かったんですよね。


 まず、王国は魔王の防衛ありきで発展してきたこともあって、もうすでに魔族や魔物、その他の国と戦うだけの力を失くしていました。そこを方々に付け入られ、攻め込まれ、滅んでいきました。

 ちなみに、国王は責任をとって斬首の刑に処されたそうです。品性の欠片も無く暴言を吐き、醜態を晒しながら断頭台に上がる姿は相当、世間の反感を買ったそうで、その時の様子が絵画にもなっています。趣味の悪いことこの上ないですよね。


 また、魔王軍は聖女の魔力と言うものに大分依存していたようで、魔力不足に陥り、その結果争いあい、自滅に至ったそうです。


 そんなこんなで、両者は身勝手に、自分勝手に滅んでいきました。


 まあ、正直、そんなことは、どうだっていいですよね。

 私達にはもうすでに関係のないことです。私達はもう、一国の消滅だとか、魔王の死だとか、そんなちっぽけな世界で生きていませんしね。


「ウボッ……、熱っ!!違う、これは違うぞ。真似しちゃ駄目だぞ。本当はこうやってっ、こう!するッ、アガッ……」


 あの魔王城の外、さらに王国の向こうの向こうには、いくつもの国と街と、広い世界があって、私達は今まで見てきた世界の小ささに幾度と無く驚きました。


 一国の聖女とまで言われていた私は、広い世界の中では、人よりもちょっと魔力が多いだけの可愛く麗しいただの女の子で。魔王を倒した幼馴染は、人よりもちょっと勇気があるだけの凄くお馬鹿なただの男の子でした。

 魔王城にいた頃は生きるのに必死で、目の前の出来事が世界の全てで、そんなこと、知る由もありませんでしたけどね。


 出会いと別れを繰り返し、そのたびに視野を広げて、数多くの経験をしてきました。楽しい、本当に楽しい。素晴らしくて、素敵な、忘れがたい日々でした。


 そうやって一日一日を愉快に痛快に面白おかしく、時に彼のアホさ加減に唖然としながら毎日を積み重ねていく中で、彼─ウィルを表現する言葉も増えていきました。


 幼馴染であったり、勇者であったり、あの人、あの子、お馬鹿、アホの子、あんぽんたん、あいつ、犯罪者、嘘つき、木偶の坊、好きな人、愛する人、うちの人。


 ……フライパンマンなんてものもありましたね。


 でも、呼び方なんて最近じゃもっぱら──


「こうやってっ、こう!ドワッ……」

「お父さんったら、またお馬鹿なことを」


 ──そう、お父さんです。

 すみません。繰り広げられている会話が気になりすぎて、口を挟んでしましました。


 初めて彼をそう呼んだ時はこっぱずずかしくて赤面しましたけど、今ではそれ以外の呼び名がしっくり来ないほどに私の身体に浸透してしまっています。


「お母さん、余計な口を挟まないでもらっていいかな?僕は今、我が息子に重要なことを教えている所で──」

「そうだぞ、おかあさん!!ぼくは今おとうさんに、おかあさんのだーいすきな、オムライスのつくり方、おしえてもらってるんだから!!!」

「そうだぞ、お母さん。今日は男子がご飯を作る日なんだから、例えお母さんであっても、口も手も挟ませないからな」

「そうだ!そうだ!おかあさんは、ぼくのつくる、すばらしいオムライスをワクワク、ウキウキ、ドキドキまってればいいんだから!!ふわふわ、トロトロのすてきなやつを心してまつがいい!!」


 私に向かって胸を張るあの子は私達の愛息子ライリーです。あと少しで6歳になります。


 可愛いですよね。ふくふくの頬っぺたと、もちもちの腕と、クリクリの瞳と。

 そうですよね、そうですよね。私によく似て、凄く可愛いです。お父さんによく似て、おとぼけさんな所もありますけど、キャンキャンと吠える小さな小さな子犬にもべそ掻きながら立ち向かえる凄く勇敢な子です。


「はいはい。分かりました。楽しみにして待ってるから、怪我しないように気を付けてね」

「ああ」「うん」


「「分かってる!」」


 いつかきっと、あの子にあの景色を見せてあげたい。いつかきっと、あの子をあの場所へ連れて行きたい。いつかきっと、あの子と、旅をしたい。

 いつかきっと、いつかきっと………。最近では暇さえあればお父さんとそんな話ばかりしています。


 あの子はこれから何を見て、何を学んで、どんな世界で生きていくのでしょう。楽しみですよね。ワクワクしちゃいますよね。

 私はいつまでも、何処までもそれを見届けていきたい。

 私があの子に授けられるものは全て捧げたい。楽しかったことも、辛かったこともあの子が望むのであれば、人生の全てを伝えてあげたい。きっと、お父さんだってそう思っているはずです。



 だから、少し寂しい気もしますけどね。

 私が話しかける相手は皆様ではなく、もうあの子とお父さんになりました。

 もう、それだけで大丈夫になりました。


 思えば私、聖女に選ばれてからはいつも皆様に語り掛けておりましたね。


 私なんて、運命の前では立ち尽くすことしか出来ない、泣き叫ぶことすら許されない、ちっぽけな子供でしたから。あの子や、当時のウィルと大差無い、ただの幼い子供でしたから。辛くて当然で、苦しくて当然で。


 だから、あの絵本の聖女様になり切って、美しい主人公になり切ってそうやって、惨めで哀れな自分を見ないようにするしかなかったんです。

 返事のない、宛ての無い、存在しない皆様に語り掛けて、そうやって凌いでいくしかなかったんです。


 今までずっと私の言葉を聞き届けて頂きありがとうございました。

 私はもう、大丈夫です。だって、皆様に話しかけなくても、聞き届けてくれるあの子とお父さんが居るから。



 そうですね。

 大分悩みましたが、最後はやっぱり、愛しの我が子への祈りで締めくくろうと思います。




 どうか。どうか、お願いします。

 あの子の行く末に、あの子の人生に、あの子の未来に、


 ──どうか、あの子に神のご加護があらんことを。


最後までお読みいただきありがとうございました!!

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