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第17話 一発逆転の秘策

「お、やっと最後の一人も出てきたか」


 俺の姿を確認するなり、カイキは勝ち誇った笑みを浮かべながら言い放つ。彼の足元には、血を吐いて倒れるリンドウの姿があった。


「アズト……お前だけでもクリエを連れて逃げろ!」


「それはできない。仲間を守るのが『魔王』の使命だからな。クリエもリンドウも、ヴェルトもヒスイも殺させねぇ。お前には誰も殺せないまま、ムショにブチ込まれてもらう」


「舐めた事言ってくれるじゃん。お前さ、一番の新入りなんだろ? こっちは四年も逃げ続けてきたんだよ! 素人が粋がってんじゃねぇ!」


 ここから俺の、一か八かの作戦が始まる。まずは負傷したリンドウを回収しなくては。

 俺は足に影のアーマーを纏わせ、走力を上げてカイキに接近する。


「ハッ、やっぱり仲間を助けるのを優先するか。そういう所が甘いんだよ! ミュータント戦の世界ではな、自分以外の事を考えたヤツから負けるんだ!」


「言っただろ? 俺は魔王だから、仲間も助けつつお前も倒すとな。『アンウェイ・ワールド』!」


 俺は能力の射程圏内に入った瞬間に、自分の影をリンドウの元まで拡張した。そしてそのまま、彼を影の中に避難させる。


「何……? お前の能力、そんな使い方もできるのか!」


「まぁな。そしてここからが本番だ!」


 俺は威勢よく声を張り上げて、カイキを威圧する。

 そして俺は———カイキに背を向けて全速力で逃走を開始した。


「逃げる!」


「はぁ⁉」


 俺はリンドウを影の中に入れたまま、逃げる。

 ……そして予想通り、カイキは俺を追って来た。


「よし、狙い通りだな」


 カイキは指名手配犯である自身の正体を明かしてしまった以上、目撃者——特に能力者の俺達は生かしておけないんだろう。俺達は別に逃げても問題は無いが、彼は俺達を()()()殺さなくてはならない。その差を利用した作戦だ。


 勿論、俺だって適当に逃げている訳じゃない。目的地はちゃんと定めてある。

 階段を駆け上がり、突き当りのドアを押し開ける。


 青空が見えるこの場所は、ユニシロの屋上だ。


「……逃げ場所が悪かったみたいだね。お前はもう袋のネズミだ。大人しく死ねよ」


 カイキは、俺の『詰み』を確信したかのような表情で言い放つ。

 ……ここが、俺がお前を倒せる可能性のある唯一の場所だとも知らずに。


「……ここまで来た以上、最後まで足掻かせてもらうぜ」


「そっか。なら、そんなのは無駄だって事を教えながら殺してやるよ! 『スピン・ブレイカー』!」


 カイキはトドメを刺すべく、右手で竜巻を発生させる。

 それを見て、俺は思わず笑ってしまう。


「……ハハッ、やっぱりお前はワンパターンだよ」


「何だと!?」


「ワンパターンなお陰で、俺の作戦が刺さってくれそうだ!」


 竜巻が周囲の物を吸い込み始めたのを確認して、俺は影の中からある物を取り出す。

 カイキの元に戻るまでに、大量に影の中にしまっておいた服だ。


「これは……服!?」


 俺が一気に放出した大量の服は、ひとつ残らず竜巻の方へ吸い寄せられていった。

 いや、吸い寄せ過ぎた。あまりに多くの服が集まり、切り刻まれた事で、カイキの視界は服の切れ端で塞がれた。


「クソッ! 前が見えねぇ!」


 視界が封じられ焦るカイキだったが、彼をさらなる不幸が襲う。

 吸い込まれた服の切れ端の一部が、竜巻の内側に入り込んだ。そしてそれは竜巻の発生点———カイキの右掌まで落下し、触れた。


「お前の『スピン・ブレイカー』は右手で触れた物を高速回転させる。竜巻を『空気に触れる』事で発生させてるならよ……()()()()()()()()()()無効化できるよな⁉」


「しまった! 竜巻が!」


 カイキの右掌に服の切れ端が乗っかった事で、能力の対象が『空気』から『切れ端』に移った。それにより竜巻は止み、切れ端が無意味に回転しているだけになった。


「俺が何故お前をここに誘い込んだか分かるか? 俺と一緒にここから落ちてもらうためだよ!」


 作戦の最終段階。動揺したカイキをがっしりと掴み、俺はユニシロの屋上から飛び降りた。


「おっお前何考えてるんだ⁉ お前も死ぬんだぞ!?」


「俺が自爆なんて方法選ぶと思うか⁉ 俺の行動はな、全部作戦の下に成り立ってんだよ!」


 自分の保身のために四年も人を殺してきたこんなクズと心中してたまるかってんだ。

 俺が飛び降りた方角には、ユニシロの巨大な影ができている。それが鍵だ。


「『アンウェイ・ワールド』! 影の中に入れるのは俺だけだ!」


 俺の能力は、影の中に俺が望んだ物を入れる事ができる。裏を返せば、()()()()()()()()()()()()()()

 落下の勢いのまま、俺は影の中にダイブする。一方のカイキは、派手に地面との接吻をしていた。


「……この程度で、倒れてたまるかよ!」


「流石にしつこいな。だがそれも……想定の内だ! クリエ、能力を借りるぞ! 『レトログレイド・ウォッチ』!」


 俺は影の中で、クリエから託された腕時計のベゼルを回転させる。


『私のミュータント『レトログレイド・ウォッチ』は、腕時計と一体化した能力なの。この時計のベゼルを回転させれば、時を十秒まで戻せる。そしてこの能力は、時計を使えば()()()()()発動できる』


 腕時計を渡された時に、クリエにそう説明された。

 ベゼルが回り、時計の針も逆回転する。時は、俺達が地面に到達する寸前に戻った。


「もう一回だ! 地面に激突してもらうぞ!」


「ぐへぇ!?」


 カイキは再び、奇妙な声を上げながら地面に叩きつけられる。


「もう一回! そしてもう一回! さらにもう一回だッ!」


 俺は何度も時を戻し、カイキを地面に叩きつけ続ける。

 時が戻っているので肉体的なダメージはゼロになっているが、感じた痛みはゼロにならない。それを俺はさっき体感している。


 俺は何度も何度も時を戻す。その度に、カイキには『痛み』が蓄積されていく。過度な痛みに晒され続ければ、人はいずれ失神する。そしてカイキは、このループから抜け出す術を持たない。


「『詰み』に嵌ったのはお前の方だったな!」


「ぐがぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」


 意識が飛びそうになるレベルの激痛を何度も受け続け、カイキは壊れたような絶叫を上げる。程なくして、彼は痛みの蓄積により意識を手放した。


「ミュータント戦は何が起こるか分からない……肝に銘じておくんだな」


 俺はカイキに言われた言葉を、そっくりそのまま返してやった。


 ヤマのメモ

 能力名:レトログレイド・ウォッチ 能力者:造物クリエ

 能力:腕時計と一体化したミュータント。腕時計のベゼルを回転させると、時間を十秒まで戻せる。また、腕時計を持っていればクリエ以外も能力を発動できる。

 能力者は時が戻る前の記憶を保持する事ができる。そのため能力の発動を認知可能。

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