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赤の国 3

王宮敷地内の別邸


豪華な式典用区画や王の居住区画とは違い、こちらは控えめながらも趣ある建築で、広い庭には四季折々の花が咲き誇り、手入れの行き届いた木々が植えられている。

この別邸は、立派な造りであるにもかかわらず、どこか寂しげで冷たい雰囲気が漂っていた。ここは幽閉されている元国王のための建物だ。

ニーベルが初めてのセバスチャンは、パトリックの家臣のサヤに案内されて王宮の見学に行ったので、ジュリアンとマディラで、この建物を訪れている。


ジュリアンがマディラにプロポーズをした頃、タイミング悪く西の国境で軍事衝突が起き、国内が慌ただしい雰囲気になっていた。

しかし、それは実は捏造で、ジュリアンたちの移住後国内ではクーデターが起き、当時の国王のアンドリューに変わり、皇太子だったパトリックが国王となった。

アンドリューは、西側の軍事衝突を機会に、侵攻してきた部族制圧の戦略を練るよう、当時の国王秘書官であり、天性の知謀家で英知翁の肩書を持っていたジュリアンに指示を出していたが、逆に政変に巻き込まれてしまった。

アンドリューは、それはジュリアンの戦略ミスだと思い込んでいるが、ジュリアンは早々にクーデターが進行中なのを見抜き、それを踏まえてパトリックに未来を選ばせて国を去った。

パトリックは、父親から王位を譲り受けることでクーデターを穏便に解決し、その後、アンドリューはここで隠居生活をしていた。


長い回廊を進んで別邸の中央にたどり着くと、白大理石の床が光を反射し、落ち着きの中にも気品が漂う空間が広がっていた。

部屋に入ると、窓から柔らかな日差しが差し込み、落ち着いた色合いの家具や古風な絵画が、この部屋の主のかつての地位を忍ばせる。

使用人たちは元国王の世話を欠かさず、彼の妻や孫が訪れる際には、別邸の応接室で迎えるようにしていた。

また、この建物に自由に足を踏み入れられるのは、現王の許可を得た限られた者のみであり、元国王と面会するには厳格な手続きが必要とされていた。


マディラとジュリアンが部屋に入った時、椅子に座っていた先王は、二人の足音に気づいて顔を上げた。

顔にはどこか寂しさと、わずかに抑えきれない怒りが浮かんでいた。

次の瞬間、彼は目を鋭く光らせ、激しい怒りを滲ませた顔で立ち上がる。

まるで抑えきれなかった想いが一気に溢れ出すかのように、迷わずジュリアンへと飛びかかり、その勢いでジュリアンは壁に背中を打ち付ける。

アンドリューの手がジュリアンの首を掴み、力を込めて絞め上げる。

先王のその顔には苦悩と怒りが入り混じり、痛々しいまでの執念が感じられた。


「英知、お前がいなくなって、私はこんな目にあったのだ!」と声を荒げる先王の顔は苦痛と怒りで歪んでいた。

マディラが驚き、すぐに二人の間に入ろうとする。

しかしその時、ジュリアンが苦しそうな表情をしながらも、「良いんだ」と言わんばかりの視線で手を上げて彼女を制した。

彼はアンドリューの視線を真っ直ぐに受け止め、毅然とした態度でその暴力を受け止める。

そして、彼はアンドリューの両手にそっと手をかけて、自分の首との間に指を差し込もうとしたので、前国王はその手の力を緩ませ、手を離す。

ジュリアンは、自分の首に手を当てつつ何回か大きく肩で息をした後、相手に対して真っ直ぐに視線を返した。

そして少しも怯むことなく、言葉に揺るぎない決意を込めて静かに語りかける。

「僕が招いた結果ではありませんよ。これは、あなたの日々の行動の積み重ねです。そして僕らが国を去ったのだって、あなたの命令ですよ。」


ジュリアンの言葉は冷静でありながらも、マディラを守る覚悟が滲んでいた。

その毅然とした態度は、まるで目の前にいる怒れる先王をも凌駕するような威厳を纏っている。

その言葉を聞き、アンドリューの顔に怒りと苦悩の入り混じった瞳が一瞬揺らめいた。


先王は、ふと自らの手元を見つめ、表情がわずかに曇った。

硬直した手を一瞬握りしめたかと思うと、軽く手を振り、何事もなかったように無理やり落ち着きを取り戻した風に振る舞った。

冷静さを取り戻した先王は、ゆっくりとジュリアンから離れ、重々しい足取りで椅子に腰掛けた。

薄暗い別邸の室内で、彼は深い溜息をつきながら二人を見据え、ぎこちなくも一応の礼儀をわきまえ、重々しい声で口を開いた。

「——いきなり飛びかかってすまなかった。……まあ、よく来たな。」

その言葉は皮肉を含むような口調で、決して歓迎の気持ちがこもっているとは言えなかったが、娘夫婦は一礼し、マディラが口を開いた。


「父上、ご無沙汰しております。」

彼女の声には、かつて父に抱いていた尊敬とともに、抑えきれない緊張が含まれていた。

冷静を装いながらも、彼女は父の険しい視線を避けるように、わずかに目を伏せた。

ジュリアンも一歩下がり、柔らかく微笑みながら頭を下げる。

「殿下が健やかに過ごされていることを、嬉しく思います。」


それを聞いた先王は、鼻で笑うように軽く首を振りながら「嘘をつけ」と吐き捨てた。

彼の目は険しく鋭く光り、そこには父娘の関係を超えた疑念が渦巻いていた。

「本当は、元気でいることを嬉しくもなんとも思ってないんだろ」と、先王は嘲るようにジュリアンの方に身を乗り出した。

彼は怯むことなく、真っ直ぐアンドリューを見据えて答えた。

「そんなことありません。そうであれば、こうやって面会を希望しませんよ。」


父親はわずかに表情を歪め、娘を見て不信の色を強めて再び唇を震わせるように動かした。

「お前は私を恨んでいるのだろう?いずれ私を寝首を掻こうと、機をうかがっていたに違いない!」

彼女へと向けた冷たい視線が鋭くなり、その顔を睨みつけるようにじっと見つめた。

先王の表情が険しく硬直し、その瞳には怒りと失望が浮かんでいた。

やがて彼の落ち着きは揺らぎ、一瞬の沈黙の後、彼は深く息を吸い込み、怒りを込めた声で吐き出した。

父の視線が娘へと向くと、再び怒りの炎が燃え上がった。

彼の瞳には険しい怒気が宿り、ついには怒りを抑えきれなくなったかのように声を荒げた。

「——お前のせいで……ジュリエットが……あの王妃が死んだのだ!」


その言葉が放たれた瞬間、場の空気は一層重苦しくなり、マディラとジュリアンは冷えた沈黙に包まれる中、ただその言葉を噛みしめるしかなかった。

「お前のその、ジュリエットそっくりの顔を見ると、腹が立ってくるんだ。あいつはもうこの世にいない……」

先王の声は次第に震え、握りしめた拳が彼の抑えきれない感情を物語っていた。

その剣幕に、マディラは反射的に身を縮めると、まるで長年押し込めてきた後悔が一気に溢れ出るかのように、小さく震える声で「生まれて来てごめんなさい」と口にした。

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