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目覚め 6

アルバス城内 東北の塔の最上階


ああああああっ!!


断末魔のような叫び声が当たりを包む。

マディラは、全身が内側から引きちぎられそうな感覚に襲われて、思わず大きく声をあげて数分ほど地面を転げ回るが、限界を感じて力を入れるのをやめる。

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……


大きく肩で息をして、体に酸素を取り込む。

ジュリアンが去って丸二日、気づいたらすでに日没になっていた。

同化に集中する場所を地下か離れの塔か悩んだが、塔を選んで正解だった。

地下だと時間感覚が全くわからず、あとどれだけ自分に時間が残されているかわからないからだ。


マディラはヨロりと立ち上がり、コンテナまで近づき、蓋を開けて中から水のボトルを取り出し、ごくっごくっごくっと喉を鳴らして水を飲み干す。

気持ちが悪くて、とてもじゃないが何か食べたい気分ではなかった。

しかし、少しは食べないと体がもたないと思い、コンテナに入ってるパンを、ほんの数切れ口に押し込み、水で無理矢理飲み下す。

コンテナの蓋を戻し、その場にばたりと仰向けに倒れ込む。


月明かりで室内が薄暗く見えているので、照明をつけずにそのままぼーっとする。

自分の波長を感じ、アテナエルの波長を確かめて、シンクロする瞬間を待つまでは問題ない。大変なのはそのあとだ。

自分の気を立ち上げる時間がかかりすぎているらしく、同調したまさにその瞬間に気をぶつけないと、アテナエルの魂にはじかれてしまい、いくら気を押し込んでも同化できない。

体が内側から破裂しそうな痛みと熱に襲われ、かなりのダメージが蓄積されていった。


エネルギーをぶつけるだけで、かなりの体力を消耗している。

それに同化に失敗した際のダメージ、さらに、寄生状態のアテナエルが消耗していくエネルギーの回復に、マディラの体力が持って行かれる分がある。

もう数十回と試しているのでかなり疲労が蓄積し、もはや寝ても食べても体力が回復されることはない。減っていく一方だ。

正直、この状態が続けば5日目に生きているかも怪しい。

意識が朦朧としているが、今夜もう一度挑戦するか、このまま仮眠をとるか——



――――――――――



4日目の午後


ふと気づくと、マディラは床に突っ伏していた。

どうやら同化の途中で意識が飛んでしまったらしい。

今は何時かしら……?


彼女は窓の外に目をやり、太陽の位置を確認する。

昼過ぎの時間らしく、まだ太陽は空の高い位置にあった。

体力を消耗しすぎて体が乾燥してきているらしく、唇が切れてしまい、口の中に血の味が広がる。

立ち上がる元気もなく、とりあえず四つん這いになって壁際に移動をし、背中を壁に預ける形で一息をつく。

意識をしないと頭がぼーっとして、視界が霞んでくる。


直近のチャレンジでは、気の立ち上げは悪くない感触だった。

問題は、だんだん意識が薄れゆく中でトライをするので、以前よりもタイミングが合わない状況で気をぶつけに行っている気がする。

マディラが大きく息を吸い込んだ瞬間、喉に刺激を与えたのがいけなかったのか、激しく咳き込む。

手で口元を覆っていたところ、手のひらに血飛沫がついていた。

内側から肉体が破壊されているのか……。呼吸器関係もやられだした。


やばいな……あと何回、挑戦できるだろうか……

自分の残された体力と時間を天秤にかけ、いつどのタイミングで挑戦するか。

多分、もう片手で数えるほどしか試せないほど、命の危機が迫っているのをマディラは感じる。



――――――――――



はっと気づくと、あたりは夕暮れになっていた。

また落ちていたのか——

マディラは床に横になったまま、うっすらと目を開ける。

逆に、このタイミングで意識が戻ったのが奇跡だった。


多分、今は5日目の夕方近く。

昨日から3回ほど試した気がするが、やはりどれも波長を合わせることができず、ことごとく弾かれてしまった。

もう起き上がる体力すらない。

自分の手のひらを見ると、内部から肉体破壊を何度も起こしているからか、細胞と細胞の隙間から血が滲み出ているような斑ら模様になっていた。

よく見ると、両腕も同じような状況になっている。顔を含め、全身同じような肌になっていることは容易に想像がつく。

体力的にも、タイムリミット的にも、あと2回ってところか……。

——いや、実質次が最後になることだろう。


これだけ試して、流石に準備の仕方、タイミングの合わせ方、気の放出の速さや強さなど、結論はほぼ出ていた。

これまで体力を温存しながら試していたから、躊躇いや一瞬に賭けるスピードが出ていなかったのだ。

残り一回分の体力を温存するなんてことを考えず、準備段階で気を最大限まで溜め、二つの波長が最大限離れてから20カウント、波長が一致するのを待たずに一気にアテナエルに向けて躊躇うことなく放出すれば、ぶつかった瞬間に波長が一致するタイミングとなる。


全身の皮膚にヒビが入っているので、マディラは意識があるだけで身体中の痛みを感じる。

呼吸を整え、仰向けに寝転んだまま精神統一をし、痛みから自分の意識を遠ざけることに成功をし、そのまま力を体内の1箇所に集約させ始める。

自分の波長を感じたところで、アテナエルの波を確認する。


ここだ、最大限に離れて、全く触れ合うことのない波と波。

19、18、17……自分の波長をベースに、一定の間隔でカウントダウンをしながら、マディラは自分のエネルギーを上げていく。

6、5、4、3……


——今だ!


全エネルギーをアテナエルに全力でぶつける。

体全身が感電したように10秒ほどガタガタと痙攣を起こしているが、すでにマディラの意識はなくなっていた。


——そして、室内には静寂が訪れた。

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