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親と子 10

地方都市カイルン郊外


街から徒歩で行ける「エルダの滝」への道中、護衛のハンスとはぐれたマディラ。

仮面の男と交戦することになり、そして巨大な熊も出現する。

仮面の男一人でも手こずっているのに、熊も相手にしたらかなり苦戦を強いられる。

しかし、次の瞬間、熊は王妃ではなく、仮面の男の方へ襲い掛かった。

驚愕する王妃の前で、仮面の男は素早く反応し、熊の猛攻に応戦を始める。

だが、2メートルほどの巨体の熊の力は予想以上に強く、仮面の男は一瞬で押し込まれてしまう。

熊の巨大な爪が仮面の男の胸に深く突き刺さり、仮面を引っ掻く。

仮面の下から素顔が一瞬見えたが、血と汗で覆われており、その正体までははっきりとはわからなかった。


熊と仮面の男の戦いは壮絶だったが、仮面の男は何とか最後の力を振り絞り、熊を仕留めた。

熊が地面に倒れると、仮面の男は傷だらけの体に手をかざして治癒を始めるが、彼の仮面にヒビが入っていたらしく完全に破れ落ち、素顔が露わになった。

マディラは息を呑んだ。

仮面の男の顔は見覚えのあるものだった。それは、かつて自分を守り、そして今も一緒にいる青年にそっくりだった。


「あ……きら……?」

王妃は信じられない思いで彼を見つめ、夫の別名を呼ぶ。青年は息を切らしながらも、冷たく笑みを浮かべ、王妃に問いかけた。

「俺の名前が、それではないことは知っているだろう?」

青年の指摘はもっともだった。彼は彬と違って、髪の色も瞳の色も漆黒で、それに比して彼の肌は陶磁器のように真っ白だった。


霧が漂う森の中、仮面の男の素顔を見た瞬間、王妃の体はまるで氷のように固まった。

彼女はその正体にあまりにも動揺し、冷静さを失っていた。

頭の中では警戒しなければと思っているが、心臓は激しく鼓動し、手が震えて剣を握る力さえ失われていく。

漆黒の髪の男が再び襲いかかってくると、彼女はまったく歯が立たなかった。

マディラの剣の一撃はすぐに受け流され、彼女は地面を踏みしめながら後退し、やがて巨木に追い詰められてしまう。


「命が惜しければ一つ教えろ」と男が冷酷に言い放ち、剣を彼女の首元ギリギリを掠めて背後の木へ突き立てる。

鋭い刃が皮膚を掠め、冷たい金属の感触が彼女を恐怖で凍りつかせた。

「天国のトンネルの出現方法は?」

「……王位継承者しか……知らない……」声が震えながらも、王妃はどうにか答える。

喉の奥が乾き、言葉を絞り出すのもやっとだった。


「他に知っている可能性は?」

「ない……ことはないけど、知っているだけでは(ゲート)は開かない……」声が途切れ途切れに響く。

彼女の目には恐怖と混乱が混じり、男の鋭い視線から逃れることができなかった。

「詳細を吐け!」と男は怒りを込め、強く彼女の首を締め上げた。

マディラの呼吸はどんどん苦しくなり、目の前が暗くなりかける。

だが、男はすぐに自分が締めすぎたことに気づき、手を緩めた。

彼女は地面に膝をつき、肩を激しく上下させながら息を吸い込んだ。


「二人……揃わないと……」王妃は息を整えながら、かすれた声で続ける。

「一人では扉が開かないのか?」男はさらに迫る。

王妃は咳をしながら目を細め、彼に鋭い視線を投げかけた。

「なんでそんなこと……知りたいのよ?」彼女の問いが鋭く、彼の隠された意図に迫るかのようだった。

だがその言葉を聞いた瞬間、男は一瞬だけ動揺したように見えた。

しつこく問い詰めている自分にハッと気づき、顔を曇らせた。


「……弱すぎるにもほどがある。」彼は冷笑しながら王妃を見下ろし、剣を収める。

「今回は殺さないが、次は覚悟しろ。」

そう言いながら落ちていた仮面拾って顔につけると、彼は軽やかに森の中へ消えていった。


霧が晴れ始め、周囲の景色が徐々に浮かび上がる。

王妃は肩で大きく息をしながら立ち上がり、目の前に広がる光景に驚愕した。

そこには、美しい滝が流れる壮大な景観が広がっていた。

冷たい水音が彼女の耳に心地よく響くが、先ほどの男との恐ろしいやりとりがまだ心に深い影を落としていた。



――――――――――



滝の水音に耳を傾けながら、マディラはぼんやりと立ち尽くしていた。

冷たい霧が肌を撫でるように感じられ、心の中の混乱も徐々に収まっていくかのようだった。

だが、彼女の心にはまだ、つい先ほどの仮面の男との出会いの余韻が重くのしかかっていた。

彼女は滝の側の大きな石に腰をかけ、今の出来事の意味を必死に考える。

「天国のトンネル」についての質問……そして、男が執拗にその方法を聞いてきた理由。

その謎はまだ解けぬまま、王妃の胸には新たな不安が芽生え始めていた。


ふーっと深い息をつき、彼女はためらうことなく口を開いた。

「いるんでしょ、そこに。」

振り返ることなく、背後の気配を感じながら、彼女は静かに剣を差し出した。

彼女の声には感謝と共に、どこか淡々とした響きがあった。

「助かったわ、ありがとう……あっても全然勝負にならなかったけど。」

王妃は剣を差し出すと人影が静かに受け取り、そっと鞘に収める音が聞こえた。

自分が拾ったその剣が、ジャックのものであるとすぐに気づいていた。

彼が負傷し、彼女の居城で手当てを受けた後、結局彼は再び姿を消してしまったが、それ以来、彼はずっとどこか遠くで彼女を見守っていたのかもしれない。


背後の男は何も言わず、ただそこに立っている。

今や鎧を脱ぎ捨て、くすんだ茶色のフード付きマントを羽織り、深い焦げ茶色の革製ブーツを履き、鎧の将軍として名を馳せた時からの愛刀である一振りの大剣を背に背負っている。

フードの下からは、肩まで伸びたダークブラウンの髪が見え隠れし、ニコラスそっくりだが、彼と違った灰色がかった緑の瞳がのぞいていた。

王妃は剣士に、落ち着いた声で話し始めたが、その胸の奥にはさまざまな感情が渦巻いているようだった。

「別れ際に言ってたわよね、『大臣ではなく、仮面の男が鍵になる』って。あの時は信じられなかったけど……彼ね。」

彼女の言葉は、まるで謎解きのピースが一つずつはまっていくように慎重だった。

ジャックは依然として無言で、王妃の言葉を聞いている。

彼の表情は仮面のように固く、感情を押し隠しているのだろうか、それとも単に何も語るつもりがないのかは分からない。

彼女の視線は、遠くを見つめるように虚空に向けられていた。剣士はその言葉に無言のまま耳を傾け、彼女の言葉がどう展開するのかを静かに待っている。


王妃は、過去の出来事を思い返しながら、少し緊張した面持ちで続けた。

「彼の名前は?」

剣士は眉を寄せ、慎重に答えた。

「わからない。父はサタナエルと呼んでいたが、しかし自分は彼と二人っきりの時は「フレディ」と呼んでいました」

王妃は、ふと息を飲むようにして口を開いた。

「フレデリック・ルイス・オリヴィエ・ド・ロワイヤル」

フードの影に隠れていた彼の顔が微かに動き、常に冷静さを保っていた彼の鋭い目が、驚きだけでなく動揺と疑念が混ざり合った複雑な表情になる。


その名を口にする時、マディラの声にはかすかな震えが含まれていた。まるで、自分の記憶の奥深くに眠っていた事実が、突然目の前に現れたかのように。

彼女は、その名が持つ意味を再確認するかのように、少し考え込んだ後、つぶやいた。

「私の息子よ。生後間もなく行方不明になったけど、まさかこんな形で再会するとは……」

彼女の目には、複雑な感情がにじんでいた。愛情、驚き、そして失われた時間への後悔が、静かに彼女の表情に浮かんでいた。

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