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親と子 9

西部地方の大地震から数週間後。

グリーンフレードム国 東北部の幹線道路


天候は穏やかで、柔らかな日差しが馬車の側面を照らし、青空にはいくつかの雲が浮かんでいる。

道端の木々や田畑が点在し、小さな村や街の街道には住民たちが道端に出てきて馬車の行列に敬礼したり声援を送ったりしている。

国王夫妻が乗る王家専用の馬車は、他の車両よりも一際目立つ存在で、その馬車を引く4頭の白馬は、それぞれたくましく、優美な姿をしている。

御者は落ち着いた動きで手綱を操り、道の微妙な変化にも迅速に対応している。


王家の馬車の後ろには、護衛騎士団の騎士たちが規則正しく並んで馬に乗っている。

彼らは鎧を身にまとい、剣や槍を携えて、一団の整然とした雰囲気を引き立てている。

彼らは、馬車を取り囲むように隊列を組み、常に警戒を怠らない。


さらに、荷物を運ぶ馬車や従者たちの一行も、後方に続いている。

一行は、地方公務に赴くために、ゆったりとしたペースで大陸東北部へ向かう。

全体の雰囲気は平穏でありながらも、国王夫妻の存在感と、彼らを守るための完璧な護衛体制が、王国の威厳を示している。


馬車の中、国王と妃が並んで座っている。外の景色は田園風景が続き、馬車の揺れが心地よいリズムを刻む。

ジュリアンがふと窓の外を見ながら口を開いた。

「今回の公務は、久しぶりの地方の視察だけど、先日の大地震のトラブルからあまり間が空いていないから、城を空けてばかりの印象があるよ。」

彼の言葉には、少しだけ疲労がにじんでいたが、それ以上に使命感が感じられた。

マディラもそれを感じ取り、静かにうなずきながら、視線を彼に向けた。

「確かにね。だけど、被災地訪問は色々あったけど、最終的に落ち着いて良かった」と、彼女が応じ、少し優しい微笑みを浮かべた。

彼女の声からは、先日の困難を思い出しつつも、心から安堵していると感じられた。


少し沈黙が続くが、マディラがふと思い出して微笑む。

「そういえば、ある貴族が、今回の訪問地カイルンから少し行ったところに、風光明媚な滝があると教えてくれたの。滝の音が心を癒してくれる場所だそうよ。」

ジュリアンはその話に少し興味を示し、顔を向けた。

「滝?エルダの滝のことかな。——確かに心が癒されそうだな。公務の合間に立ち寄れるなら、悪くない考えだよ。」

馬車は少し揺れ、彼らの肩が軽く触れ合う。王妃は窓の外の風景に目をやりながら、少し遠い目をして続けた。

「うん、なんだかあの一件で凄く疲れたから、滝の音を聞きながら、しばしの休息を取るのも良いかもしれない。」


ジュリアンは馬車の窓越しに遠くの山を見つめて答える。

「——ただ、先日も急遽城を留守にしたこともあり、今回の訪問日程を少し短く変更したんだ。僕は予定がつかなさそうだ」

彼が少し視線を戻したところ、ジュリアンを見つめてマディラが残念そうにする。

「私もその滝に立ち寄るのは無理かしら。短い時間でいいんだけど……」

国王は彼女を優しく見つめ、少し微笑んで言った。

「予定が合えば、行ってこればいいんじゃないかな。街から徒歩で行けるところだよ。いい気晴らしになるんじゃないかな。」

彼の言葉に、王妃は少し心が軽くなったようで、小さな笑みを返した。

馬車の揺れは心地よく、二人の間には再び静かな時間が流れたが、その空間にはお互いを思いやる落ち着いた空気が漂っていた。

そんな穏やかな会話をしていると、馬車は次第に目的地へと近づいていきた。



――――――――――



王都から東北に位置する主要都市 カイルン


国王たちが到着したこの街は活気に満ちており、町並みは美しく整えられていた。

今回の訪問では、地元の商人たちとの会合や新しいインフラ計画地の視察が予定されていた。

城の近くに位置する広場では、地元の貴族や市民たちによる、国王と王妃を歓迎する儀式が行われた。

式典後、マディラは街の人からもエルダの滝という自然の美しさが溢れる名所を訪問したか尋ねられ、緑豊かな森の中に隠れるように存在していると民衆からも聞いた。


彼女は改めて滝の話を聞くと興味を惹かれ、公務の合間に空き時間があることを確認した後、その名所を訪れようと決心した。

ジュリアンはやはり公務で忙しかったため、彼女は護衛を一人連れて出発することにした。

地元民の話では、道は比較的簡単で、森を抜けるとすぐに滝にたどり着けるとのことだった。


しかし、途中からマディラと護衛のハンスは少しずつ道を外れてしまった。

細い森の道に入ると、周囲の景色は次第に変わり、最初ははっきりとした道があったものの、森の中腹に入るにつれ、茂みが濃くなり道が分かりにくくなっていった。

風に揺れる木々の葉の音が静かに響き、足元には苔が生い茂っていた。

彼女は一瞬立ち止まり、辺りを見回した。

「ここは……本当に滝に向かっているのかしら?」とハンスに問いかけたが、彼も不安げな表情を浮かべていた。

「もしかしたら、道を間違えた可能性が。ですが、もう少し進めば何か手がかりが見つかるかもしれません。」ハンスは慎重に言葉を選んで答えた。


二人は迷いながらも、森の奥へと足を進めることにした。

緑が深まる中、不思議な静寂が森を包み始めた。鳥のさえずりも途絶え、冷たい風が二人の頬を撫でる。

森の木々はますます密集し、昼間のはずなのに薄暗さが漂っていた。

その時、遠くからかすかに水の流れる音が聞こえてきた。

「滝かもしれません……」ハンスは王妃に告げ、二人は音のする方へ向かった。

しかし、その音に導かれて進むうちに、マディラがふと気づくと、護衛の姿が見当たらなくなっていた。


森の木々が静かに揺れ、不穏な空気が漂う。

何度も彼を呼びかけても応答はなく、ただ風が葉を擦り合わせる音だけが耳に届く。

「どうして……」マディラは不安に駆られながらも、冷静さを保とうとし、その小径から離れないように慎重に進むことに決めた。

しかし、進むごとに道はますます入り組み、暗く重たい霧がかかるように森が静まり返っていた。

その時、ふと背後から何かに見られているような、鋭い気配が感じられた。

振り返っても誰の姿も見えないが、確かに何かが自分を追いかけているのを感じた。


マディラは本能的に早歩きを始めた。

後ろの気配も同じようにペースを速めている。

森の中を迷いながら進む中、彼女は心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。

「まずい……」焦りが募るが、慌てずに森の茂みや木々を利用して、なんとかその気配をまこうとした。

しかし、追跡者は簡単には諦めなかった。気配は徐々に近づき、とうとう足音さえ聞こえてきた。


息を切らし、振り返った瞬間、濃緑色のロングコートを羽織り、仮面をかぶり、コートと同色の帽子を深くかぶった若い男が目の前に立っていた。

彼はまるで狩りを楽しむかのように、静かに微笑んでいるように見えた。

マディラは立ち尽くしそうになるが、ふと男の後方になぜか剣が落ちているのに気づいた。

どうしてこんなところに……?と疑問を抱く暇もなく、低い姿勢で男の横をすり抜け、彼女はその剣を手に取ると、すぐに応戦の態勢を取った。

仮面の男もまた、軽やかな動きで彼女に迫り、剣の刃と刃が火花を散らす。


彼女の剣さばきは、ここ何度かの交戦で確実に腕が上がっていたか、相手はそれを上回るスピードで攻撃を仕掛けてくる。

次第にマディラは追い詰められていった。自分の限界が近づいていることを感じ、胸が締め付けられるような恐怖に襲われた。


その時、ふと横方向から新たな気配を感じ、振り向くと巨大な熊がこちらに向かってきているのが見えた。

「もう終わりかも……」王妃は絶望的な思いで、熊と仮面の男に挟まれるような状況に追い込まれた。

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