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親と子 6

ジュリアンが救出された小屋の庭先


日差しが照らす里山の奥、小さな小屋の庭で、ジュリアンは座り込んで結界を張り、闇の力に支配されたセシリアの襲撃を耐え忍んでいた。

しかし、まだ体調が万全ではなく、彼は決断の時が迫っていることを感じていた。


その時、遠くから馬の足音が響き渡り、一瞬国王の意識がそれに向けられた。

次の瞬間、茶色い馬が背後に現れ、「ジュリアン!」という鋭い声が静寂を切り裂く。

「マ……ディラ?」

馬は大きくジャンプをし、国王の頭上を飛び越えて闇の力に操られた女に向かって突進した。

ジュリアンに斧を振りかざし、その刃を振り下ろそうとしたセシリアは怯み一瞬動きを止めた。

その隙を見逃さなかったマディラは、馬から軽やかに飛び降り、地面に手をつくと瞬時に魔法陣を展開した。

その二重円の内側には、ジュリアンが見たことのない記号の組み合わせで、ふたつの円の間の帯状のスペースの文字も読み取れないため、なんの魔法が発動されたか彼は見当がつかない。

光が庭全体に広がり、闇の力に支配された女は苦悶の声を上げながら消滅し、辺りは静寂に包まれた。


「何?あの魔法陣」

ジュリアンはしゃがんだまま結界を解き、彼女を見上げながら質問をする。

マディラは、特殊能力を生み出すスタミナが尋常ではないので、高エネルギー体を集約させたり真空波や衝撃波を生み出す型が通常で、呪文魔法や魔法陣を好まないのだ。

その上、なぜセシリアが消えてしまったのか、彼は完全には理解できていない。

「アテナエルの力よ。まだ完全に闇に取り込まれていなければ消えないから、正気に戻す道もあったけど、やっぱりダメだったみたい。完全に地の者になってしまっていたので、消滅してしまった。」

ジュリアンを見下ろしながら、彼女はそう残念そうに説明する。


そしてジュリアンとマディラは見つめ合う。無事再会を果たし、二人の顔から同時に笑みが溢れる。

ジュリアンは地面に座り込んだまま安堵の息をつき、マディラがガバッと抱きついたため、マディラが覆い被さる形で二人は地面に転がる。

「死んじゃいないと思ったけど、どうやって探そうと思ってたから……会えてよかった」

周りに誰もいないとはいえ、滅多に外で手すら繋がない彼女が一目散に飛びついて来るなんて、余程不安だったのだろう。

「心配かけてすまなかった」

そう言いながら、ジュリアンは自分の体の上にいる彼女の頭を愛おしそうに撫でる。

周囲の静寂が二人を包み込み、遠くから鳥の鳴き声だけが聞こえていた。

まさにロマンティックな瞬間が訪れるかと思われたその時、王妃は突然、彼からサッと体を離し、考え込んだ顔でジュリアンを見つめた。


彼はその視線に気づき、「どうしたの?」と心配そうに問いかけた。

マディラは少し黙った後、真剣な表情で問い返した。

「今の襲撃で怪我をしていない?体力は大丈夫?」

彼は一瞬驚いたものの、優しい笑みを浮かべて答えた。

「あぁ、怪我はない。全快ではないので戦闘は無理だけど、移動に支障はない。どうして」

王妃は真剣な眼差しで続けた。

「ここ、クルガーディーからカルアラは馬で飛ばせばそう遠くはない。

先ほど、アバコーン卿の馬車でスターリングがあなたに変身して出発したけど、追いつけるかも。

孤軍奮闘しているジョナサンに、直接指示を出す気はある?」

その言葉に、ジュリアンは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに頷いた。「もちろん。ジョナサンや、地元の住人を元気づけないと。」

王妃はその答えを聞いて満足そうに微笑んだ。そして、改めてまじまじとジュリアンを見つめる。


空が抜けるように青く、日差しが眩しく、彼の明るい銀髪がまるで輝くように映えていた。

「あなたってほんと綺麗よね。服装は酷いけど」

彼は、崖から転落した際に身につけていたもの一式がボロボロだったので、粗末な灰色のシャツと土色のズボンを履いていた。

シャツはゆったりとしており、袖は肘の少し上まで捲られているので彼の腕がむき出しになっていて、ズボンは裾が短めで、元の豪奢な装いとはかけ離れた質素さだ。

そしてベッドから逃げ出したため、足は何も履いていない。

しかし、彼女が気にしているのはその間に合わせの服装の事ではないらしい。


「何を突然」と、ジュリアンは驚いたように顔を上げた。

「王宮にいたら気にならないけど、その明るい髪に宝石のような瞳、こんな片田舎じゃ目立ちすぎるわ。」彼女は肩をすくめて微笑みながら続けた。

「暗殺とか関係なく、普通に人攫いに遭いそう。その色、何とかならないの?」

王妃の声は柔らかく、少し冗談めかしていたが、その中には心配の色が確かにあった。

「なんとかって言われても……仕方ないだろう。髪や瞳の色は、意識しないとこの色に固定されるんだから」と、彼は苦笑しながら肩をすくめた。

「たとえば、今だけもう少し暗くするとか。前みたいに」

その言葉を受けて、国王は少し戸惑った表情を浮かべたが、次の瞬間、目を閉じて集中し始めた。

彼が持つ特殊な力が発動し、髪が徐々に濃紺に変わり、瞳も深い緑へと変化していき、まるでニーベル国にいる時に固定される色調のようだった。

「ふふ、たまには良いかも」と、王妃はその変化を見て、小さく笑みを浮かべた。

そう言いながらそっとほっぺにキスをし、彼の肌に触れた瞬間、彼女の唇から伝わる温かさに、彼は少し戸惑ったように目を細めた。

「念の為、髪型も変えるわね」

王妃は彼の耳元で囁くとジュリアンの背後に周り、彼の髪を器用に三つ編みにまとめ始めた。

指先が髪を撫で、編み込まれていく感覚が心地よく、彼は思わずその指の動きを感じながら目を閉じた。

三つ編みをした後、「用心するに越した事はないわね」と呟き、彼女はいつの間にか用意した仮面を彼に手渡す。

仮面はシンプルでありながら、彼がニーベルにて極秘任務を遂行する際に何度かつけたものに似ていた。


それをつけたジュリアンに「ほんと、懐かしい」と目を細めて言いながら王妃は立ち上がり、にっこりと笑う。

「さ、後ろに乗って。街で服を買い足さないと。ちょっと飛ばすから揺れると思うけど、しっかり捕まっていてね」

そう言いながらマディラが鞍に跨った。

彼女の言葉に、ジュリアンは静かに頷き、彼女の背中にしがみつくようにして馬にまたがった。

彼の指が彼女の腰に触れると、王妃は微かに笑い、馬を駆け出させた。

風が二人の間を吹き抜け、緊張感が漂う中、心地よい一体感があった。



――――――――――



カルアラ近郊の馬車内


マディラ達は、スターリングとセバスチャンに追いついたため、馬にはセバスチャンが乗り、馬車で偽国王とマディラが打ち合わせをしている。

国王の影武者のスターリングは、聞いていけないのかもしれないと思いつつ、意を決して彼女に質問をする。

「そちらの方は……?」

マディラが連れてきた同乗者は、旅人のような格好をしている。

頭にはくすんだ茶色のフェルト帽子をかぶり、ゆったりとした長袖の灰色のシャツを着ており、その上に古びたブラウンのマントが肩から流れるようにかかっている。

手には、黒い革製の手袋をはめている。

暗い土色のズボンを履き、足元には、革のブーツを履いている。どこにでもいる旅人にしか見えないが、特徴といえば、濃紺の長髪を後ろで三つ編みをし、仮面をつけて、手首が縛られている。

「国王暗殺未遂の件の重要参考人よ。城まで連れて帰るわ」

マディラは短くそう言い切ったが、それ以上質問を受け付けない雰囲気だった。

その時、避難所に着いたらしく、馬車が止まり、客車の扉が開けられる。

「陛下、それから……王妃様??」

馬に乗ったセバスチャンから、陛下が到着したと聞かされたジョナサンは、誰よりも早くその場に駆けつけ、飛び込むように客車の扉を開けた。

だが、車内を覗き込んだ瞬間、彼は驚きに目を見開いた。

確かにそこに国王はいたが、その人物は、彼が敬愛してやまないジュリアンではなかった。

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