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目覚め 5

よくわからない光の集合体、アテナエルがマディラに寄生してしまう。


二つの魂が融合しないと命に関わると言われたので、彼女は指示通りにエネルギーを体内で集約し、アテナエルにぶつけたその瞬間だった。


カタカタカタ……ッ!!


周囲の空気が振動し、洗面台に並んでいたガラス製の器などが一斉に音を立ててぶつかり合い、その揺れで花瓶が倒れかかる。壁にかかっていた絵画も傾き出している。

マズい


そう思い、すぐにエネルギーの出力を中断し、マディラは倒れそうになった花瓶を支えて元の位置に置く。

「これ、そんなに周りに影響が出ちゃうの?室内が破壊されちゃうじゃん」

鏡の中の自分にマディラが話しかけたところ

(敵を殲滅させるような勢いでぶつかる必要はないが、そなたもワラワも波動が大きい方なので、体外に漏れ出す力もそれに比例するであろう)という返事が、彼女の心のうちに響く。


なるほど、じゃあその作業に集中できる環境を整えないと……、ってことね。

マディラは、早速そのための準備に取りかかった。



――――――――――



国王の執務室


ジュリアンは議会や面談、謁見などがない場合は大抵ここか王宮内の図書室にいることが多い。

夕方遅くに一件面談があるため、その準備で執務机にて書類に目を通していたところ、急に扉の外が騒がしくなる。

「珍しいね、君がこんなところに来るなんて」

ノックと同時に扉が開いて入ってきた人物に、そう声をかける。

滅多にここに立ち寄らない自分の妻が、目の前に立っていた。

あらかじめ面会希望を伝えずに乱入してきた珍客に、補佐官たちが慌てふためいている。

「いくら王妃といえども、急すぎです。無礼ですよ」

そう言って、王の側近のジョナサンもマディラの行動を咎める。


「たまたま空き時間だったから大丈夫だよ。どうしたんだい」

彼は、不機嫌そうなジョナサンを宥め、マディラから話を聞く。

「ちょっと、急ぎの用事があって、夜まで待てなかったのよ。お願いがあるのだけど」

そう言いながら、ツカツカと執務デスクまで歩みを進めるマディラ。

「無理言って申し訳ないけど、急に修行をしたくなっちゃったから、私を北東の離れの最上階に閉じ込めて欲しいの」


「今から……修行?閉じ込めるって……どうして。何があったの」

「どうしてかは言えない。というか、ちょっと自分でもよく分かっていないから説明できない。

正確には、5分くらいの時間の余裕はあるけど、数時間も惜しいから、今すぐ始めたい。

何があったかは、修行が終わったら説明する」

いくら10年以上一緒にいる妻とはいえ、なんとも唐突で理解できないお願いである。

だが、少なくともこの世界で最強の力の持ち主が「修行をしたい」と言い出すのは異常事態であり、かなり切羽詰まっているのは感じ取れた。


チラリと時計を見やりながら、ジュリアンはしばし考える。

もう少し丁寧な説明をしてもらい、納得した上で彼女の願いを聞いてあげたいが、おそらく今話した以上のことは聞き出せないだろう。押し問答になるだけだ。

自分の次の予定は1時間後。

今すぐ対応すれば問題ないが、彼女と話をしているうちにあっという間に時間になるだろう。

面談が終わってから対応するといえば、数時間後のこととなりそれは待てないらしい。


「分かったよ。あとでちゃんと事情は説明してくれよ」

そう言いながら、ふーっとため息をつき、ジュリアンが立ち上がると、使用人が彼の上着を持ってくる。

「ちょっと出かけてくるけど、次の予定に間に合うように戻ってくるよ」

そうジョナサンに伝え、マディラとともに彼は部屋を離れる。

呆れ顔のジョナサンが、何か言いたげに二人の背中を見ているのだった。


「離れの塔に籠りたいのは分かったけど、部屋の鍵はどこにあるの」

「今、掃除と食料の運び込みを指示していて、作業が終わったら扉につけておくように伝えた」

マディラとジュリアンが足早に北東の塔の最上階に向かう最中、事務的な確認をしていた。

「食料?そんなに長くいるの?」

「1週間くらい……いや、5日くらいかな」


アテナエルは体力的に1週間くらいと言っていたが、それは自分が彼女に抵抗して何も対応をしなかった場合だと思う。

自分の感覚では、だんだんコツを掴んで省エネで試行をしたとしても、あんなにエネルギーを放出しながら同化に挑戦していたら、せいぜい5日くらいで力尽きると思う。

いや、それよりももっと早く終われればそれに越したことはないけど、やってみないとわからない。


「5日も立てこもってやる修行って……何をするの?」

まさか、そんなに本格的に閉じ籠る準備を彼女がしていると思っていなかったジュリアンが、不思議そうに質問する。

「何をするかは言えない。言えないというか、頭の中でイメージできているのだけど、うまく言葉で表現できない」

そんな会話をしているうちに、目的の部屋に到着する。


地上から50メートル以上離れたところにある、8角形の塔の最上階。もうすぐ日没なのか、室内が夕日に照らされて赤く染まっている。

部屋の入り口には鍵が刺さったままなので、簡単に扉を開けることができた。

石造りの建物の室内は装飾がなく、壁は石とはめ殺しの窓だけの無骨な雰囲気。

マディラの指示通り、水と食料が運び込まれたらしく、部屋の隅に鉄のコンテナが幾つか置かれていた。

コンテナまで歩み寄り、中身を確認して自分の指示通りに準備ができていることを彼女は確認した。


「……本当にするの?」

「うん、やるしかない。大丈夫よ、ほんの数日、ここに滞在するだけなんだから、なんの心配もいらないって」

いまいち釈然としないが、ここまで準備がされていて、かつ止めるだけの理由も思いつかないので、やるしかないと諦めるジュリアン。

「じゃ、今からここの部屋に結界を張って、外から鍵を閉めて、6日目の朝以降に迎えにこればいいんだね」

彼はここに来るまでに聞いた、妻の依頼事項を復唱する。


マディラがジュリアンをここに連れてきた理由はそこにある。

結界を張るくらい自分でもできるが、少しでも自分の体力を温存しつつ、部屋に被害を出さないように強い結界を張れるのは彼しかいない。

彼の結界の強度は、以前マディラが無意識で暴走させた火竜を見事食い止めた実績からも明らかだ。

彼女は小さく頷きながら、ジュリアンのそばに歩みより、彼をぎゅっと抱きしめる。

「私が相当暴れても大丈夫なように、最大限強く張って欲しいの。意味がわからないのに、承諾してくれてありがとう」


ジュリアンは何度かマディラの頭を撫でて、ゆっくりと彼女から離れ扉の外に出る。

じゃあやるよ、と声をかけて、出入り口の床にしゃがんで両手をつき、その瞬間に透明の膜のような結界が室内の床や天井、壁を覆い、入り口にもガラスの板のようなものが張られる。

マディラが手を振ってこちらを見ているので、自分も手を振りかえし、そして扉を閉めて鍵をかけた。

彼女の様子は気になるものの、扉を閉めた以上中の様子は窺い知れないし、次の予定があるので、ジュリアンは足早にそこを離れるのであった。


彼が扉を閉めた後、壁のそばに近寄り、何度かノックするように結界の強度を確認するマディラ。

「やっぱり凄いわ。「じゃ、やるよ」の一言で、いとも簡単にこれを作っちゃうんだから」

そう満足気にマディラは呟く。

もしも彼と戦うことがあれば、これを張られたら自分だって手を焼く。

「ま、こんな事に感心している場合じゃないわね」

そう独り言を言って、彼女は部屋の中央に移動して床に座り、意識を集中し始めた。

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